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「えとみほ」は、なぜ栃木SCに入社したのか? 橋本大輔社長が語る秘話

今年の5月、ある女性がJクラブ・栃木SCの職員となったことが話題になりました。その女性とはユーザーが撮影した写真素材を自由に売買できるサービス「Snapmart」の元代表取締役である江藤美帆(通称:えとみほ)さんです。

Twitterのフォロワーを3万人以上かかえ、様々な発言を積極的に行いそれがインターネット上で話題になる、いわゆる“インフルエンサー”の1人です。

もともとJリーグが好きで様々な試合現場にも足を運んでいた彼女が、いちファンの立場からスタッフへの道を選んだ経緯とは?そして、なぜ栃木SCは彼女を招き入れたのでしょうか。江藤さんと、彼女の採用に携わった栃木SC社長である橋本大輔さんにお話を伺いました。

マラドーナと望月重良

——橋本社長の略歴をお伺いしたいのですが、音楽の大学を出られて、その後に海外の会社に入られてから、新朝プレスの代表になられて。そして栃木SCの取締役ということでかなり異色なのかなと。

橋本:渡米をしていて、どういった形態の大学に進むかを考えている中で、音楽の専門学校に進学行こうと決めたんですよ。もともとすごく人見知りをするタイプで、あまり表に出ることが好きではなく、家の中にこもっているほうが好きだったので、音楽のエンジニアの学校を選んだんです。

その後、そのままシアトルマリナーズの本拠地であるセーフィコフィールドで、飲食関係をやっている知人の会社に入社しました。スタジアムで働く期間は、シーズン中の春から秋だったんですが、年俸制なのでオフシーズンでも給料は12分の1が入ってきていました。それで、そのオフシーズンの時間ももったいないなと思っていたら、卒業した専門学校から連絡があったんです。

BEHRINGERというドイツの音響メーカーから、日本語の翻訳ができる人を探しているという問い合わせが来ていたので、自分のところに話が回ってきたと。それを受けて、冬はそこでマニュアルの日本語化をしていました。

そこから日本に戻ってきて、インディーズの小さなレコード会社に入りました。大手で何かやるよりも、アーティストを見つけるところからやりたいなと思ったので。ただ、1年くらいでそこの社長の投資が外れてしまって、会社もなくなったんです。その次は新朝プレス()の社長になったのですが、もともと自分の父親が4代目でした関係もあって誘いを受け、28歳の時に社長になりました。

——その3年後に役員になられていたんですね。

橋本:もともと栃木SCは教員のクラブで、70年くらいの歴史があったのですが、Jリーグに加盟できる体制を整えようとしていた時期に「発起人の中に名を連ねてくれないか」と頼まれたんです。そこではんこを押したのが、そもそもの関わりの最初ですね。

それから非常勤で役員をやったりその役職を外れたり、ボランティアとして手伝いをしたりということをしていた中、2015年にクラブがJ2からJ3に降格した段階で、社長への打診を受けたという流れです。

——えとみほさんのお話を伺いたいです。そもそもサッカーやスポーツビジネスに関心が芽生えたタイミングはいつでしたか?

えとみほ:サッカーとの最初の関わりは、アメリカに留学していた時に見たドーハの悲劇です。もともとサッカーに興味はなかったのですが、学生寮でみんながテレビで見ていたのに乗っかった感じです。

ルームメイトには韓国人が何人かいて、日本がW杯出場を逃して大喜びしていて(笑)。また、本大会はアメリカで開催されていたので、ロスのスタジアムに見に行きました。アルゼンチンvsルーマニアの試合を見に行きました。

アメリカ人はW杯に全く興味がなく、開催されていることすら知らなかったですね。たまたま日本から来ていた留学生が静岡出身で、W杯をやっているから見に行こうと言われたのですが、「チケット持っていないよ」と話したら、『なんとかなる』と言われて。

実際に定価割れみたいな値段でメインのかなり良い席を買えたんです。目の前にマラドーナがいたのを覚えています。

そこで初めてサッカーを見て、面白いなと思いました。そりゃそうですよね、最初に観たのがW杯の優勝候補ですから(笑)。それで日本に帰ってきたら、Jリーグが始まっていたんです。当時はJリーグバブルの真っ只中で、当時高校生だった妹に試合を見に行きたいと言われたんです。

江藤美帆氏

——そこで初めて見たのがジェフ千葉だったのですか?

えとみほ:妹が名古屋グランパスにいた望月重良選手のファンで、望月さんが市原に来るから観に行こうと言われたので市原へ見に行ったんです。その時、サッカーのレベルどうこうより、ゴール裏にいて応援が楽しいと感じたんです。

それからなんとなく繰り返し市原に行くようになって、友達もできてきたんです。それが20年くらい前。Jリーグのサポーターになった経緯です。

スポーツビシネスに興味を持ち始めたのは、ジェフを応援していたことが大きいですね。ジェフはJ2クラブにしては恵まれた環境だと思うんですが、なかなか思うように結果が出なくて。「どうやったら勝てるのだろうか?」ということを突き詰めて考えているうちに、クラブの経営、お金周りのことに興味を持ちはじめました。

それで、ジェフだけでなくいろんなクラブを見ているうちに、Jリーグクラブといっても、親会社のあるクラブと市民クラブというのがあって、経営の仕方が違って、みんながJ1に上がって優勝したいと考えてやっているのかと思ったら、そうでもないのかなということを知ったんです。

ジェフがJ2に降格してから、J2やJ3といった下のカテゴリーも見るようになったのですが、そっちを見ているほうが面白いと感じるようになりました。下のカテゴリのほうが集客に苦労しているので、いろんなことにトライしてるんです。

私はアウェイ遠征に行くのが好きなのですが、その遠征では必ずどんなイベントが催されて、どんなグッズが売られているのか、スタジアムグルメはどんなものがあるか、待機列はどうか、というのをずっと見ています。

やはり、そういうところがきちんとしているところはだんだんと経営も安定してきて、徐々に強くなってきているんです。それは面白いなと思いましたね。大変だとは思うのですが、地道にやっていれば成果が出ていくんだろうなと思いました。

——というと栃木にも来ていたんですね。

えとみほ:行っていました。ジェフのサポーターとしてもだし、入替え戦や最終節も見ていました。グリーンスタジアムはピッチが近いし、ヨーロッパの地方のスタジアムみたいだなと思っていましたね。

栃木SCのスタッフとなるまで

——本題に入りたいのですが、えとみほさんと橋本社長が一緒に活動を始めた経緯と、彼女に期待する点はどこにあるのでしょうか。

橋本:彼女は僕ができないことをできるし、僕よりもいろいろな経験を積んできています。それはまず履歴書からも伺えました。彼女の経験と、クラブの課題もすごくマッチしていましたから。

彼女が得意とする分野に関しては、一番重要だと思っていたのにも関わらず、求人もほとんどかけていませんでした。それは体力的な問題でもあるのですが。ただ、そこで応募が来て話をしていて、この人に栃木に来て活躍してもらいたいという思いが芽生えたのと、この人が来れば何らかの化学反応が起きるだろうという期待を持ったんです。

一番期待しているのはマーケティングの部分で、あとはクラブの課題である集客やチケット収入をどう上げていくのか、どういう付加価値を付けていくのかというところ。To BというよりTo Cの分野で期待しています。

橋本大輔氏

——集客のお話が出ましたが、えとみほさんはどのような層をターゲットにしていきたいとお考えですか?

えとみほ:今のクラブの課題として、はっきり数字に出ているのは女性なんですね。栃木SCの女性ファンは、Jリーグの平均よりもおよそ10%くらい少ないんです。基本的にサッカーのファン層は、とくに何もしないと男性ファンばかりになってしまうものなので、女性ファンを増やすにはクラブ側の努力が必要です。うちはおそらくリソース不足もあってそういった施策をまったく打ってこなかったのだと思うので、ここは施策を集中的に打てばすぐに改善できるのではないかと思っています。

——そもそもえとみほさんはいつJクラブで働きたいと思ったのでしょうか?

えとみほ:そもそもJクラブで働きたい、働けるものとは思っていませんでした。Snapmartを辞めるというのは去年の暮れくらいから決めていて、正式に決まったのが年明けくらいですね。

とりあえず辞めるのを決めてから、次はどうしようか漠然と考えていて、その時にたまたまサッカークラブの求人を見つけたんです。

——橋本社長はえとみほさんのことをご存知でしたか?

橋本:全然知らなかったんです。今の求人の件も本当に人が足りなかったから出したんですよ。昨シーズンも最終節までJ2昇格なのかJ3残留なのか決まらなかったので、2018年の事業規模がはっきりせず、採用をかけるにもかけられなかったんです。

そこでどうしようかと迷っている中、昇格が決まって仕事も増えてきて、人が足りないという社員の声が聞こえてきたんです。

実はチームがJ3に降格した時に、幹部職の人が自分たちからほとんど辞めてしまいました。2015年はフロント内でも色々あったので…。僕が入った時には、他の業界でのビジネス経験がある人はほぼいないという状況で。今の営業部にも営業経験のある人間は誰もいないんです。

なので、本当にビジネスを分かっている人がいないと、その子たちを教えてあげることはできないなと。ただ、僕だけでは不十分ということで、良い人を招き入れたいと思い、履歴書を見て江藤に電話をしました。

えとみほ:最初は人事の人かと思って普通に話していたんですけど「社長の橋本です」と言われてびっくりしました。

橋本:人が足りないというのもあるのですが、僕が全部電話をして自分で面接をしたほうが早いと思っていたんです。あとは、会う前日に栃木のあるライターさんと話していたら、「有名なブロガーの女性の投稿に、橋本さんの名前が出ていましたよ」と言われたんです。

えとみほ:応募する前の話だと思うのですが、(橋本社長に)注目しているというツイートをしました。

橋本:なんというブロガーか聞いたら、『えとみほさん』と言われて。明日会う人も江藤美帆さんだな…と思って調べてみたらジェフのサポーターで、Snapmartの代表さんだと。来ていただいた時に、面接する部屋のドアを開けて、第一声で「千葉さんのサポーターさんですよね?何しに来たんですか?偵察ですか?(笑)」と聞きました(笑)。

最終面接にはもう1人、のちに営業部長になった人も同席していました。

えとみほ:一緒に採用された方が、同世代で、同業の会社の方だったんです。

橋本:2人を会わせた時に、同業でライバル会社だということを知ったんです。まずかったかなと焦りました。

えとみほ:スナップマートからいなくなることも漏れたら困るので、黙っておいてくださいと伝えました(笑)。

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