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Jリーグ理事 佐伯夕利子 YURIKO SAEKI Vol.3「日本の指導者ライセンスは閉ざされている」

サッカー先進国・スペインで指導者としての道を切り開き、アトレティコ・マドリー、バレンシア、ビジャレアルなどで重要な役割を任せられてきた佐伯夕利子。
「ニューズウィーク日本版」で「世界が認めた日本人女性100人」にノミネートされるなど、サッカーで活躍する女性のベンチマーク的存在でもある。
2020年よりJリーグ理事に就任した佐伯は、日本サッカーが発展するために何が必要だと考えているのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

現役中からライセンスをとったほうがいい

――サッカー界の課題として優秀な指導者をどう育てていくかというところもあります。現状だと日本代表歴のある人でもJリーグで監督ができるために必要なS級ライセンスを取るには3、4年はかかる。2020シーズンで引退した中村憲剛選手であれば監督としてのキャリアを始めるのが43、4歳になってしまいます。こういったことは日本だけなのか、それともスペインでも同じような環境なのでしょうか。

今おっしゃったようなキャリアのある選手たちは引退が見えた段階でライセンス取得を目指すので、当然遅いスタートになりますよね。一方で20代の頃からライセンスを取り始めるという選手も増えてきています。サッカー選手にも現役中からセカンドキャリアを考えていかななければいけないという意識が徐々に浸透してきているのでしょう。

――佐伯さんがライセンスを取り始めた当時はどんな環境でした?

私がライセンスを取り始めた1993年の同期には、現スペイン代表監督のルイス・エンリケがいます。私は19歳で彼も22歳でしたが、私はトップレベルでの競技経験はありませんでしたが、ルイス・エンリケはスペイン代表として活躍していた文句なしのトップ選手でした。ルイス・エンリケのように自分のキャリアを設計できている選手は、引退した時点でライセンスを持っているので、スムーズに指導者へと移行していけます。でも引退後にイチからライセンスをとるのは、時間的なロスがあるのは間違いありません。

――確かに……。

キャリアのある選手は蓄えもあるので、時間的、経済的な余裕があると思いますが、そうではない選手のほうが圧倒的に多い。ですから指導者という志を持つのは早ければ早いほどいいと思います。現役の間に指導者の勉強をすることで、サッカーの見え方が豊かになって、プレイヤーとしても向上するというのは多くの選手が言っています。現役選手へ積極的に指導者ライセンスの取得を勧めていくというのは一つの方法だと思います。

閉ざされた世界にしてはいけない

――日本のライセンス制度については改善すべきところはありますか?

日本のライセンス制度の中身に関して、私が全てをわかっているわけではありません。ただ、皆さんおっしゃるのが、とても閉ざされた世界であると。S級を受講するという時点でかなりふるいにかけられてしまい、どんな人でも学べる場ではない。選ばれた人のみが学ぶというその体系が、ヨーロッパで優秀な指導者がどんどん育つ文化との差だと思います。

――ヨーロッパでは多くの人に門戸が開かれている?

実はスペインでも有名クラブ、トップクラブの選手たちだけに限定した上級ライセンスの特別講習をする案が持ち上がったことがありました。しかし、それを不服に思った人たちがスポーツ庁の前で抗議活動をして中止になりました。教育を受ける機会は誰にでも均等に与えられるべきであるというのが、スペインでは基本的な考え方になります。

――日本ではS級ライセンスを一般人がとるのはかなり難しいシステムになっています。

はい。私自身、日本で指導者を目指していたらS級ライセンスをとるチャンスもなかったでしょう。偶然ですが、本当にスペインに行って良かったなと思います。指導者のライセンスをとる前にスペインサッカー協会に電話をして「私は女性ですが講習会を受講できますか?」と聞いたら、「質問の意味がわからない」とダイレクターに言われました。そして「女性はサッカーの理解度が低いのでしょうか?」と逆に質問されたんです。性別、国籍、キャリア……そういった入り口を制限せず開放することで、多様な学びが生まれ、優秀な指導者が増え、必然的に競争力が増す。この競争力を高める工夫こそが日本国内の競技力を高めることにつながると思っています。

――佐伯さんのように世界で活躍する指導者がもっと増えてほしいなと思います。

世界レベルの指導者を育てなければ、世界レベルの選手というのは育ってこないと思います。優秀な選手は成長できる環境を求めますから、どんどん世界に出て行ってしまって、Jリーグが空洞化してしまう。本当の意味で日本を世界のトップ5にするためには、そういう環境を一つひとつ改善していく必要があります。当然それを実行しようと思うと嫌がる人もいるでしょうし、ハレーションも起こるかもしれません。そういう問題もクリアして、より多くの人が指導者として成長できる仕組みを構築していくために、私自身も働きかけていきたいと思います。

Vol.1「“普通の人間”になりたくなかった」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5ff566c977a98b033c545764

Vol.2「優秀なタレントを見落とすのはありえない」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5ff57c0765b3b55282350562

■プロフィール

佐伯夕利子(さえき・ゆりこ)

1973年10月6日生まれ。福岡県出身。2003年にスペインサッカー界で女性として初めて男子チームのプエルタ・ボニータ(スペイン3部リーグ)の監督に就任。04年からアトレチコ・マドリードの女子チーム監督などを務め、07年にはバレンシアに移り育成の中枢を担う強化執行部セクレタリーを務めてスペイン国王杯優勝にも貢献した。08年からはビジャレアルでトップチームをはじめ全カテゴリーの育成と強化を担う重要ポストや、ユースチームのスタッフ、女子チーム監督など多岐にわたって活躍。同クラブを休職し、20年3月から2年間の任期でJリーグ理事を務めている。

https://twitter.com/puerta0

■クレジット

取材・構成:上野直彦、北健一郎

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