新人たちが辿る道 悔しさと「名ゼリフ」【舩越園子コラム】

18番グリーンで顔を覆ったベン・グリフィン。初優勝はおあずけとなった(撮影:GettyImages)

PGAツアーのフェデックスカップ・フォールの大会「サンダーソンファームズ選手権」は、最後の最後に大どんでん返しが起こる波乱の展開になった。

初優勝をつかみかけていたのは、2位に3打差の単独首位で最終日を迎えた27歳の米国人選手、ベン・グリフィンだった。

フェデックスカップ・ランキング66位のグリフィンは、来季のツアー出場権はほぼ確保できているが、まだ味わったことがない勝利の美酒の味わいとオーガスタ・ナショナルへの切符を手に入れるために、必死で戦っていた。

初日からショットは曲がり放題で、フェアウエイやグリーンを外すことの連続。しかし、どんな場所からでも見事にリカバリーするところが「僕のゴルフの強みだ。どうやって次のショットを打つべきかを考えるクリエイティブなゴルフは楽しい」と、グリフィンは笑顔で語り、最終日も彼らしいスクランブル・ゴルフで勝利ににじり寄っていた。

グリフィンは2018年にPGAツアー・カナダで勝利したものの、その後は調子が上がらず、2021年ごろにはツアープロ生活から離れ、金融会社で消費者ローンを担当するサラリーマン生活を始めていた。

しかし、「やっぱり僕がやるべきはツアープロ生活だ」と思い直し、一念発起。それから2年が経過した今年は、PGAツアー選手になって優勝争いを演じるところまで這い上がってきた。

そんなグリフィンの苦労と努力が報われる瞬間は、目前まで迫っていた。だが、72ホール目は、彼の持ち味である寄せワンによるパーセーブは叶わず、痛恨のボギー。手を伸ばしていた逃げ切り初優勝はお預けとなり、5人によるサドンデス・プレーオフへ突入した。

そして、1ホール目の18番で14メートルのロングパットをスルリと沈め、ただ一人、バーディを奪ったルーク・リスト(米国)が勝利。予想に反し、決着はあっけなかったが、勝者も敗者も、込み上げる想いは複雑だった。

38歳の米国人、リストはベテラン選手。2007年にプロ転向したが、なかなか初優勝が挙げられず、グリフィン同様、辛酸をなめた時代もあった。

2018年のホンダクラシックでは、悲願の初優勝は目前だった。しかし、ジャスティン・トーマス(米国)とのサドンデス・プレーオフに敗れ、悔し涙をのんだ。だが、その涙が糧となり、昨年の「ファーマーズ・インシュランス・オープン」では、ウィル・ザラトリス(米国)とのサドンデス・プレーオフを制し、悲願の初優勝を遂げた。

とはいえ、その後は故障続きで成績は低迷。今大会は世界ランキング159位から臨み、最終日はグリフィンと4打差の3位タイから大逆転優勝となった。

「決して諦めず、食い下がってきて、本当に良かった。ケガもあって苦しい日々だったが、ワイフのサポートに助けられた」

一方、72ホール目のパーパットがカップを舐めながらもグリーン上にとどまったグリフィンは、あれよあれよという間にサドンデス・プレーオフに突入し、バーディを奪うことができず。1ホール目であっさり敗北した。

「勝てなかったけど、勝利をすぐそばに感じることができた。ポジティブな要素をたくさん得ることもできて良かった」

笑顔で元気にそう答えたグリフィンだったが、どうやらそれは必死に繕った空元気だったようだ。上がり3ホールで2ボギーのプレーには「感情のコントロールができなくなって…」と振り返ると、抑えていた悔しさが溢れ出し、とうとう涙声になった。

勝利に迫り、悔しい敗北を喫した後に、ついに勝つ。それができれば、さらに勝つ。リストが辿った道は、グリフィンも辿る道なのだろう。新人たちは、みなそうやってグレートになっていくのだと思う。

グリフィンの最後の言葉は、映画「ターミネーター」の名ゼリフと同じだった。

「I’ll be back.(僕は必ずここへ戻ってくる)」

そう、グリフィンが再び優勝争いに戻ってくる日が待ち遠しい。そのときは、次こそは、初優勝を挙げてほしい。

文・舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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