青木真也は『青木真也』をやめられない。御田寺圭コラム #ONEX

青木真也の物語はまだ続いていく

彼の敗北を見て、なぜ彼が「向こう側」に行くのを、こんなにも阻まれるのかと、地団駄踏む思いだった。彼ほど格闘技を深く愛している者はいないのだから、いい加減それに報いてやってくれ! と、だれに向かってでもなく、叫びたい気分だった。

だが同時に、青木真也は、青木真也の物語を、ここで終わることはできないのだな、とも感じた。秋山選手に勝てば、青木真也は青木真也であることを辞められたのかもしれない。だが、宿命か、運命か、あるいは神かなにかが、そうさせなかった。

きっと物語は続いていく。

私はいちファンとして、稀代の総合格闘家・青木真也のこのたびの敗北を心から悔しく思った。彼の心境を想像すると、夜も眠れない思いだった。しかし、この敗北によって、彼と彼の紡いできた物語が、まだしばらくは「私たちの傍」にいてくれることに、小さく安堵してもいるような、不思議な感覚に襲われてもいた。

「そうなんだよ。最後いつもそうなんだよ」──となってしまうすべての者たちをみなファミリーにして、青木真也は青木真也の物語を続けてほしい。

私は彼の物語を信じている。

■プロフィール
御田寺 圭(みたてら・けい)

文筆家・ラジオパーソナリティー。会社員として働くかたわら、「テラケイ」「白饅頭」名義でインターネットを中心に、家族・労働・人間関係などをはじめとする広範な社会問題についての言論活動を行う。「現代ビジネス(講談社)」「プレジデントオンライン(プレジデント社)」などに寄稿多数。著作に『矛盾社会序説』(2018年)。
Twitter:@terrakei07。「白饅頭note」はこちら

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