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甲子園出場に囚われてきた聖光学院。センバツ2回戦敗退も常連校の楽しみな“リスタート”「もっと勝ちたい」

勝負への貪欲さを見せた聖光学院。そんな成長の証を示したチームを斉藤監督も褒めている。写真:滝川敏之
彼らにとって、“久しぶり”の甲子園はどう映ったのだろうか。

昨夏に全国高等学校野球選手権大会への14年連続出場を逃した聖光学院は、この春に3年ぶりに甲子園に登場した。

記録はいつか破られるものだが、「甲子園」が常に身近にあった彼らにとって、昨夏から今春の期間は特別な思いで臨んでいたに違いない。実際、聖光学院の斎藤智也監督は、次のように語っている。

「3年ぶり甲子園に来ることができて、『久しぶりにきたな』という喜びももちろんありましたけど、去年、県大会で負けたことによって、甲子園で勝つことの大切さということを念頭に置いてきた。勝負に対する貪欲さという部分においては意識が変わったのは事実ですね」

聖光学院のナインたちが「甲子園は出て当たり前」と思っているわけではない。しかし、甲子園の常連校として君臨してきた彼らが、いつしか、甲子園に出場することで、一定の達成感に満たされていたのは多分にあっただろう。

斎藤監督は常に「10年以上連続出場と言っても、全国で勝てていない地区の代表」と語ってきた。その“連続”が途絶えことによって、呼び覚まされた感情というのは確かにあったのだ。
1回戦の二松学舎大付戦を9-3と勝ち抜き、迎えた近江との2回戦は初回から動いた。相手のエース山田陽翔を攻めて、1点を先制したのである。昨夏の甲子園を経験した強豪校の大黒柱をしっかり研究したうえでの先手だった。

しかし、2回に聖光学院は近江打線の反撃を浴びる。

先発・佐山未來は先頭の岡崎幸聖に四球を献上し、さらに1死から左翼安打と死球で満塁のピンチを招く。ここで9番の清谷大輔にセンターオーバーの適時二塁打を浴びて逆転を許すと、津田基、横田悟にも連続タイムリー。津布久3番・中瀬樹に犠牲フライを打たれて計5失点。あっという間にビハインドを背負う形となった。

このシーンを斎藤監督は、こう描写する。

「立ち上がりをうまく攻めることはできた。(山田投手)は右打者にはスライダー、左打者にはスプリットを投げることが多いという特徴が出ていたので、試合を進めながら浮いてきたところを打とうと。先発の佐山は丁寧に投げてくれてはいたと思います。そこは評価してあげたいんですけど、2回は慎重になりすぎていたかなと思います」 しかし、直後の3回表に聖光学院は反撃の狼煙をあげる。主将で1番の赤堀楓がレフトへの二塁打を放ってチャンスメイク。1死3塁となって3番三好元気の犠飛で1点を返したのだった。

逆転された直後の反撃は、試合のペースを完全に握られない意味でも大きかった。これで流れを掴み返すと、佐山も3、4回と三者凡退に抑える。5回も一人の走者こそ許したが、無失点。チームの攻撃を盛り上げるようなピッチングを見せたのだった。

追撃からペースを掌握した試合展開は、斎藤監督からしてみれば終盤に向けてはいい流れだったという。

「5-2から5-3になるのか、離されるのか。非常に大事な局面だったと思うんですけど、選手たちが試合の流れを1回戻してくれたなというふうに思っています。ずっと選手らを激励しながら5-3、5-4にして終盤に追いつくというような信念を持ちながら、私も采配していましたし、選手も普通に追いつくぞと思ってバット振っていったと思います」

しかし、6回表、先頭の出塁から併殺打に倒れて、チャンスを生かせないでいると、その直後に追加点を許した。佐山は粘りを見せたが、9番の清谷にタイムリーヒットを浴びて万事休す。チームは8回裏にも1失点を喫し、2-7で敗れた。

ただ、斎藤監督はこの戦いこそ、これまでの甲子園では見せられなかったもので、そこに光を見出すと熱く語る。
「終盤、1アウト満塁とかピンチがありながらも、最小失点で抑えたというところも含めて、ちょっと可能性が感じられる大会でもありました。勝ち負けの世界の話になると、まだまだ打線は貧弱だって話になるし、ピッチャーも出力が弱いとなる。

課題は山積みですけど、でも貪欲に自分たちの歩みを積み重ねてきたということに関しては、このチームは面白いものがあります。ですから、夏もただ単に甲子園に行ければいいということじゃなくて、今回の敗戦を踏まえて、本当の意味で強くなって、甲子園でもっと勝ちたいという貪欲さを持ちながら精進していきたいと思います」

甲子園常連校のリスタート——。あまり聞きなれない言葉ではあるが、長い期間「甲子園出場」に囚われ、そこで結果を出し続けてきたからこそ、聖光学院にしか体験できない悩み、葛藤があったに違いない。

初出場の甲子園は0-20で始まり、斎藤監督をはじめ、貪欲に勝利を目指してきたチームだった。しかし、いつしか「甲子園の常連」に甘んじた。

今大会は2回戦で敗れたが、今夏に向けて、いや、夏の甲子園で勝つことに向け、新たな歴史が刻まれたことを斎藤監督の熱い言葉からは感じ取れた。

取材・文●氏原英明(ベースボールジャーナリスト)

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