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スプリントコーチ秋本真吾 SHINGO AKIMOTO Vol.2「土台がなければ田中将大にもクリロナにもなれない」

年間1万人以上の子どもに「走り方」を伝え、足を速くしてきた秋本真吾氏。
彼は日本で初めて「スプリントコーチ」を名乗り、これまで7万人以上の子どもたちと、野球、サッカーを始め、500名以上のプロアスリートに走り方を指導してきた。
「足を速くする」。そこに魔法のスパイスがあるわけではない。実際に、「今すぐ簡単に速くなる!」といううたい文句で速くすることはできても、走力を継続するには土台が必要だ。
足を速くするために本当に必要なこととは何か。そして、走ることを通して、秋本氏は、どんな未来を描こうとしているのか。
「Smart Sports News」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

圧倒的な量がないと質が見えてこない

──コーチになった話にもありましたが、1回6000円で小学生を見続けた膨大な蓄積が秋本さんのベースにありますよね。

よく、量より質が大事だと言いますけど、圧倒的な量がないと質が見えてこないとも言えます。走りも一緒です。野球界では不要な走り込みがどうとか言われますけど、プロの練習を見ても、いまだに目的が明確ではない根性練をやらせているようにも見えます。

──自主トレでは、各々の課題に対して専門家をつけていますが、チーム練習では根拠のない走り込みをしている。

キツくやらせるとか、追い込ませることにコーチが酔ってしまってはいけません。それを見ていて、もしも、めちゃくちゃ努力させて、そこに対して筋肉に大きな刺激を加えるという視点で取り組んでいるとしたら間違っているとは言えません。

──質より量も大事というところですよね。

量があっての質でもありますからね。たとえば、田中将大投手が150キロを出す方法を教えても、小学生には土台がないので150キロは投げられません。C・ロナウドがフリーキックの蹴り方を教えても、土台がなければできない。そう考えると、量を増やして土台を作る時期の大切さを否定できないなと。

──土台がないことには、結果を導き出せない。

そうです。でも、どちらかが大事だという話ではありません。どちらも大事。だから、世の中の指導者たちが土台の重要性を知らないまま質が大事だと話していたり、一方で量をこなせばOKだというように、偏った考え方を打ち出していたらよくないなと思っています。

7万人に走りで見えた「フィジカル」の重要性

──これまで各地でかけっこ教室をされて、7万人以上の子どもたちを見てきたそうですね。どんなことを感じていますか?

最初はスキル、いわゆる走り方のテクニックや技術を直すことを考えて取り組んでいました。実際にそれで速くなるのですが、それは超特効薬でしかないということを感じています。そのときはよくても、次の日には忘れてしまうから、続けられない。土台がないから長続きしないということをこの1年くらいで感じています。僕のイベントは極めてパフォーマンスだなと。そのときだけ魔法をかけているみたい。それが最近は嫌だなと思うんです。それよりもまずやるべきことがあるから。でも、その場でフィジカルのメニューをやると走り方とは趣旨がズレてしまう印象をもたれてしまうからそればかりはできない。

──実際、イベントの最初と最後では劇的に変わるんですよね?

はい。たとえば、すぐ痩せるみたいな感じですよね。すぐに点数が上がる、とか。でも僕からすると、足し算や引き算を知らないのに、応用ができるわけないし、英語を知らないのに外国人と会話できないみたいな感覚。何より大事なことがあると、親御さんにも学んでもらいたいなと痛感しています。

──フィジカルトレーニングは小さい頃からやるべきなんですか?

絶対にやったほうがいいですね。絶対です。まさに、そういったことを親御さんからも聞かれます。今度、僕が始める資格検定に関連する取材で、習志野のクラブチームに取材させてもらったのですが、そこのコーチも僕と同じような考え方でした。フィジカルがないと、技術を出せない。実際に見学したメニューも、縄跳びから始めて、マット運動、逆立ち、三点倒立……走りとは関係ないようなものから取り組んでいました。僕も見ていて感じたのですが、逆立ちできない子がいて、きっと足が速くないだろうなと。それはテクニックというよりも、足が速くなるための動きができないということ。フィジカル的にも、走れる状態になっていないということです。以前の僕は、そういうことに気がつけませんでした。どうしてこの走り方のメニューをやって速くならないんだろうと立ち止まっていた。繰り返しやれば速くなると、逃げていたと思います。つまり、効き目が薄い処方箋を出し続けていたんですね。

──利き目のある薬こそがフィジカルだと。

その通りです。2020年は、学ぶ機会を増やすことが目標でした。自分で調べて、良いコーチの下で学ぶこと。岩手にある「陸上塾」というクラブの塾長がtwitterでアップしているメニューに感動して、連絡を取って、DMを送りました。そうしたら僕のことを知ってくれていて、ぜひ来てくださいと言ってくれたので、岩手まで車で行って、2日間、見学させてもらいました。ひたすら走りの質問をして、またいろいろとつながってきました。

──たとえばどんなことですか?

やっぱり、良いチームほど、ほとんど走っていないんです。土台作りに時間を使っています。

──秋本さんは、スピード、テクニックというピラミッドの最下層はフィジカルであって、そこを築くための量が必要だと話していますよね。

それです。最近、関東のJリーグのユースチームに受かった子どもの親御さんから、個別指導してほしいと連絡をもらいました。めちゃくちゃボールタッチが上手いということだったのですが、実際に見たら、走り方で言えば、小学2年生レベルのフィジカルも備わっていませんでした。それを見て、サッカー界はユースでもこのレベルなんだと痛感しました。その後、教えた子の足が速くなったことで周囲の親御さんの口コミで広がって、小学4、5年生の子どもが3人来たのですが、やはりフィジカルがありませんでした。今はサッカー日本代表でも「フィジカルがない」とメディアに取り上げられていますが、本当に足りません。トップ選手であっても、フィジカルが全く備わっていないんです。

──秋本さんの「フィジカル」の定義とはどんなものですか?

シンプルに、筋肉です。体格やパワーはフィジカルが生み出しますから、筋肉をつけましょうということですね。正しいトレーニングをしたら筋肉がついて、体格が良くなる。なので、フィジカル勝負ができる。それを幼少期から続けていかないといけません。

──日本のスポーツ界がフィジカルを軽視しているのでしょうか。

そう思います。サッカーも野球も、めちゃくちゃ軽視しています。「軽視している」と断言してもいいだろうと思っています。何を言っているんだと言われようと、そのことについては自信をもって伝えられますから。フィジカルが大事だということは、スポーツ界にとって芯を捉えている事実だと思っています。

Vol.1「日本初のスプリントコーチ」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef8f5d2ad4c00c9220452

Vol.3「子どもが塾に行くように、走りを変えることを文化にしたい」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef91b293cdc6bee6b52d2

■プロフィール

秋本真吾(あきもと・しんご)
1982年4月7日、福島県生まれ。2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。現役当時、200mハードルのアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録を樹立し、オリンピック強化指定選手にも選出。100mのベストタイムは10秒44。2012年の引退後はスプリントコーチとして活動を始め、プロ野球、日本代表を含むJリーグ、女子サッカー、アメリカンフットボール、ラグビーなど、500名以上のプロスポーツ選手に走り方を指導。コーチング力向上のため、引退後もマスターズ陸上に出場し2018年世界マスターズ陸上において400mハードルで7位入賞。2019年アジアマスターズ陸上において100mと4x100mリレーで金メダルを獲得。日本全国の小中学校でかけっこ教室を開催し、年間約1万人、合計7万人以上の子どもたちに走り方を指導している。

秋本真吾ホームページ
https://www.akimotoshingo.com

CHEETAH(オンラインコーチング)
https://www.cheetah.tokyo/run/

■クレジット

取材・構成:北健一郎
写真提供:秋本真吾

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