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スプリントコーチ 秋本真吾 SHINGO AKIMOTO Vol.3「子どもが塾に行くように、走りを変えることを文化にしたい」

年間1万人以上の子どもに「走り方」を伝え、足を速くしてきた秋本真吾氏。
彼は日本で初めて「スプリントコーチ」を名乗り、これまで7万人以上の子どもたちと、野球、サッカーを始め、500名以上のプロアスリートに走り方を指導してきた。
「足を速くする」。そこに魔法のスパイスがあるわけではない。実際に、「今すぐ簡単に速くなる!」といううたい文句で速くすることはできても、走力を継続するには土台が必要だ。
足を速くするために本当に必要なこととは何か。そして、走ることを通して、秋本氏は、どんな未来を描こうとしているのか。
「Smart Sports News」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

オンラインサロンでコーチの概念を変える

──秋本さんは、走りを考えるオンラインサロン「CHEETAH」をされていますよね。きっかけはなんだったのでしょう?

それは、北さんです(笑)。

──え、僕ですか?

そうです。北さんが数年前にフットサルメディアで、オンライン講習会を始めましたよね。フットサル業界で5万円もする高額な講習会を開いたと思ったら、実際には60人以上が集まったというじゃないですか。つまり、それだけの価値を求めている人がいるんだなと。僕も最初はコーチングの値付けにビビっていて、かなり低い価格から設定していました。それで快諾してくれていたのですが、上げるタイミングがないなと思っていたら、今度は急に数十万円のオファーをもらえたりしました。企業や自治体のお仕事ですね。続けていくうちに、選手たちからも安いと言われることが増えていきました。

──価格設定は、高くしたいわけではなくて正当な価値付けですよね。

まさに、自分がやっていることの価値はそんなに低いものじゃないと思えるようになりました。もし、金額によって高すぎるというのであれば仕方がないかなと。僕としては、価格以上の価値を提供する自信がありますからね。値付けの価値と、北さんの講習会のお話を聞いたときに、これを走りでやれたら面白いと思ったんです。

──そんなきっかけだったとは(笑)。コーチの概念を変えようという取り組みですよね。

2年前から、オンラインサロンの構成を練り始めて、共同代表にも相談して、走りをアプリ化することなんかもやろうと思っていました。動画を撮ると処方箋が出るような。そこでオンライン講義とかをやろうと。その間に、競合が出たり、プロジェクトの進み方が遅くなったりと、いろいろあったなかで、「CHEETAH」というオンラインサロンを、2020年4月の自分の誕生日から始めようということになりました。

──サロンではどんなことをしているんですか?

自分が現場でやっていた、陸上や野球、サッカー、ラグビー、アメフトなどいろんな視点を交えた座学での講義をして、それを見たメンバーがコミュニケーションを図れるような場所ですね。それと、最先端を紹介するという意味で、トップスアスリートとの対談などをパッケージしました。

──反響は予想通りでしたか?

目標設定が高いので集客には満足していないですが、入ってきてくださる客層は狙い通りでした。語弊がありますけど“変態”ですよね。走りに特化しているから(笑)。(秋本さんの“生徒”でもある)宇賀神(友弥)さんや内川(聖一)さんが走りのことしか話さないですから。

──「走り」はほとんどの競技に共通していますよね。

サロンに入っている人の割合は、陸上、野球、サッカーがそれぞれ3割ずつです。高校の指導者や高校生、プロ選手もいます。野球界で一番最初に入ってきたのは内川さんでした。「Facebookやっていないんだけど、どうやったら入れるって?」って(笑)。

──まさかの、トップオブトップがいきなり入ってくれた(笑)。

僕自身は、アスリートに対して「入ってください」と言わないことに決めていました。しばらくしたら、参加希望の欄に(横浜F・マリノスの)「天野純」って書いてあったんです。関わったことないんですよ。普通に興味があって入ったらしいと。内川さんに天野さん。関わったことがなくてもサロンに興味があるんだって。天野さんからは、個別に指導してほしいという連絡ももらいました。

──一流選手でも、何かを変えたり、学びたいということで走りを取り入れたいと。

それには驚きましたね。

──コロナ禍で始まったオンラインサロンですが、そもそもオンラインの構想だったんですか?

そうですね。オフラインの考えはなくて、オンラインでしかやらないと思っていました。最近は合同練習会ということで集まって練習する場所を作りましたが、当初は、オンラインで完結するイメージでしたね。

「秋本真吾の脳みそファン」を増やさないとダメ

──では、サロンの面白さや難しさは?

難しさとしては、全員がコミットしているわけではないことですね。今は130人くらいが入っていて、投稿を見ているのは100人、登録しているだけの人が30人くらい。僕は他の方のサロンにも4つくらい入っているのですが、どこも同じような状況ですね。投稿を「後で見よう」という人は、だいたい後では見ないんですよね。もっと全員が一つの方向に向かえるものを目指したいけど、難しいなと。その人の生活スタイルもありますからね。

──僕もいくつかサロンを運営していますが、難しさがありますね。

最初にミーティングを開催したら、いきなり5、60人が入ってくれたんです。でも、今度は5、6人のときもあったりして、大丈夫かなと不安になることもありました。今は、コンテンツで勝負しようと思っていますし、仮にネタが尽きたらCHEETAHを止めるときです。成長していないということなので。

──秋本さんとしては、自分のアップデートを共有する場所という感覚ですか?

本当にそれです。サロンの収益は、それこそ何万人が入る規模にならないと莫大なものにはなりませんから。「サロンって何?」と感じているような周囲の人に「入りたい!」と感じさせないといけないですから、工夫が必要ですよね。アスリートがやっているオンラインサロンでも、入りたいと思えるものはごく稀で、基本的には選手だし投稿が滞るものばかりです。でも、世の中には、何気ない投稿、文章一つで学びを与えられるサロンもあります。僕もそうなりたいなと。仮に、文字が面倒だから動画に逃げるみたいなコンテンツはダメだし、とにかく妥協していては広げられないんです。

──秋本さんらしいですね。

最近の若い人は、自信がないのか、コーチが伝えたことを無視してフォームを変えてしまったりします。それで結果が出ないのは当然です。だから、「秋本真吾の脳みそファン」を増やさないとダメだなって。自然と惹かれるものにしないといけないなと、最近、思います。

──オンラインサロンで集客できる、ファンがいる人たちは、社会の出来事に自分なりの解釈を入れられますよね。インプットの質が高いから、アウトプットの質が上がる。秋本さんもそのサイクルをCHEETAHで作っていて、130人の秋本ファンを常に率いているアドバンテージがあります。

いや、僕は3000人を集めるイメージでした。それくらい入ってほしいし、それくらいの価値を出すためにオンラインサロンも研究しましたから。

──なかなか一歩を踏み出せない人が多いなかで、秋本さんは吸収と実行が半端ないですよね。

いやいや、僕は北さんを勝手にライバル視していますから。みなさんがやっているホワイトボードもすごいじゃないですか。負けてられないなって思いますし、「一緒に組みましょう!」って言われる立ち位置に行かないといけないなと。そうやって、刺激をもらっていますから。

──本当に貪欲で、アスリート気質ですよね。

今は、SNSなどでも経営者層の話をよく聞けますけど、上辺の人も多いなと。質問者も、答えている人も質が低かったり、素晴らしい事業だと思うのに、理念がなくて、ノリだけで動いてしまってはもったいないなと。

──では、秋本さんは何を目指していますか?

僕は、世の中がスプリントを学ぶ、足を速くする文化を当たり前にしたい。多くの小学生は、5年生くらいで塾に行くかどうかという議論になりますよね。「できないことができるようになる」点では勉強も足が速くなることも同じなのに、勉強に負けてしまう。

──できないことができるようになることは、本当に素晴らしいと思います。

そうですよね。もしかしたら、塾に行くというのは親のジャッジかもしれません。でもそこで議題に挙げてもらえるような、走りを変えることは本当に素晴らしいよねっていう文化にしていきたいんです。宇賀神さんが、初めて日本代表に入った際に、僕に感謝状をくれたんです。これは日本サッカー協会が、選手に5枚だけ渡すものらしいのですが、その一人に僕を選んでくれて「あなたのスプリントトレーニングが私のサッカー人生を変えてくれました」と言ってくれたんです。すごくうれしかったし、すごいことをしたんだなって感じました。僕もうれしかったし、きっと、ウガさんもうれしかったと思います。

──それはすごいことですね。

うん。だから、走り方を変えることが普通にしたいなと。今では、SNSなどのアカウントの肩書きに「スプリントコーチ」と入れている人も見るようになったし、それがすごくうれしい。僕が勝手に始めたことを広げてくれる人がいる。どんどん名乗ってという感じですね。名乗って、世の中を変えようと。

──そうやって、日本の走りを変える。

もちろん、日本にとどまるつもりもありませんね。アジア戦略、アジアから世界へとつなげたい。たとえば、日本人がC・ロナウドのスプリントコーチになったり、すごい世界で戦える選手を輩出したり。日本にはすごいコーチがいるんだぞっていう世界にしたいと思っています。

──目標を立てて、自分の行動をそれに近づける。秋本さんは足も速いけど、実行のスピード感がすごい……。

そう。決めたら動く。勝手にどんどんやりますからね(笑)。それが、アスリートの新しい生き方になっていったらいいとも思いますし、自分の行動一つで、世の中が少しでも変えられたらと思って、これからも突っ走りたいと思います。

Vol.1「日本初のスプリントコーチ」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef8f5d2ad4c00c9220452

Vol.2「土台がなければ田中将大にもクリロナにもなれない」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/603ef90d3f7d7c683b6390f3

■プロフィール

秋本真吾(あきもと・しんご)
1982年4月7日、福島県生まれ。2012年まで400mハードルのプロ陸上選手として活躍。現役当時、200mハードルのアジア最高記録、日本最高記録、学生最高記録を樹立し、オリンピック強化指定選手にも選出。100mのベストタイムは10秒44。2012年の引退後はスプリントコーチとして活動を始め、プロ野球、日本代表を含むJリーグ、女子サッカー、アメリカンフットボール、ラグビーなど、500名以上のプロスポーツ選手に走り方を指導。コーチング力向上のため、引退後もマスターズ陸上に出場し2018年世界マスターズ陸上において400mハードルで7位入賞。2019年アジアマスターズ陸上において100mと4x100mリレーで金メダルを獲得。日本全国の小中学校でかけっこ教室を開催し、年間約1万人、合計7万人以上の子どもたちに走り方を指導している。

秋本真吾ホームページ
https://www.akimotoshingo.com

CHEETAH(オンラインコーチング)
https://www.cheetah.tokyo/run/

■クレジット

取材・構成:北健一郎
写真提供:秋本真吾

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