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試合のリアルを現場から伝える。池田愛恵里が語るピッチレポーターの魅力

初のヒーローインタビューはあの選手

晴れてGolazo Cerezoの番組のMCとなることに決まったのですが、転機がありました。Golazo Cerezoの放映局である関西テレビさんの方針に番組のMCにJリーグのピッチリポートも任せるというものがあり、私がピッチリポートをさせて頂くことになったんです。一緒にやった方がより選手のことを知れるから、というのがその理由です。当時は萬代裕子さんという方がピッチリポートをしていたのですが、萬代さんが産休に入ることが決まっていました。

そういった事情もあって、萬代さんのリポートを後ろから見させてもらうようになり、その年の秋ごろから天皇杯だけ担当させていただくようになりました。最初のピッチレポートは天皇杯のセレッソvsサガン鳥栖でした。

【参考】

そのときに、後々セレッソで一緒に仕事をすることになる尹(晶煥)監督にインタビューしているんですよね。試合は鳥栖が勝ったのですが、初のヒーローインタビューは豊田陽平選手でした。ただ、緊張しすぎて、何を話したか全く覚えていません。

でも、今思ったらデビューインタビューが豊田さんでめっちゃ良かったなと思います。すごく丁寧に答えてくれたんですよ。そしてこの前、セレッソvs鳥栖の試合で豊田選手が決勝点を決めて鳥栖が勝ち、彼をインタビューすることになりました。それが私のデビュー以来6年ぶりのインタビューで…とても感慨深かったです。「あの時、私は何を聞いたんだろうな」と思って。

最初のインタビューで“やらかし”はしなかったのですが、無難な感じで終始して、後からそのことを指摘されました。そのときに、自分がリポートを入れて後悔するのは良いけど、入れずに後悔するのは1番いけないと言われたんです。

失敗はめっちゃありますよ。かつてFC岐阜を率いてたラモス瑠偉監督をラモス“選手”と言ってしまったこともありますし、試合の笛が鳴ると同時に声を入れてしまったこともあります。笛の音は聞かせないといけないのに自分の声と丸かぶりしました。

中継後には反省会があって、あの場面のあのレポートは必要なかったとか、そういったことを制作の方達を交えてお話させて頂きます。指摘されることのほうが多いことはざらです。良いところを褒められるより改善点、反省点のほうが多いですからね。

この仕事をして感じたのが、試合に向けての準備の大変さです。とにかく時間がかかるんです。アナウンサーってこんなに大変なんだなと思いました。準備してきたものが100だとしたら、95ぐらいは捨てることになる。自分がとったコメントが、中継で使われないまま終わるんです。そんなことはもちろん知らなかったです。

対戦相手のことも知らなければいけないので映像を見るのですが、90分をただ見るのではなく、ゴールシーンやそこまでの過程を繰り返し見ることもあります。結局1試合を見終わるのに2時間以上かかる。前よりは効率良くできるようになりましたけど、それでもすごく時間がかかるので、前後のスケジュールには注意しています。

リーグ戦でピッチレポーターをやるようになってから取材の為に、セレッソの練習場のある舞洲に通っています。練習取材の仕方は、他の記者さんが話を聞いている姿から学んでいきました。

現場には知らない人ばかりで、女性は私1人。すごく緊張したのですが、初対面だし今後も取材を続けていくので、しっかりと挨拶するところから始めなければいけない。選手にはとりあえず「おはようございます」「お疲れ様です」と言って顔を覚えてもらうところからスタートなんだと言われました。とはいえプロサッカー選手にはオーラもあるし声がかけづらいところがあって…。でもそこは勇気を振り絞ってやりました。

毎試合、スタジアムで泣いていた

正直、最初の1、2年は本当にしんどいことも多かったです。なかなか思うように出来ず、取材が終わってから「私には向いてない、なんで私はここにいるんだろう」と思いながらスタジアムで毎回泣いていました。

自分の知識がなかったからというのもあるんですけど、選手に何を聞けば良いかわからないし、どうコミュニケーションとって良いかもわからないままで。

私自身、甲子園のあの空気が大好きだったからスタジアムで仕事をするということは自分にとってぴったりだと思っていたんですけど、楽しむ余裕もなくて。終わった後に「今日も何もできなかった、やばい」と毎回思っていました。

でも、初めてピッチレポーターとして現場に立ったときの興奮は凄かった。

監督と選手の声もしっかり聞こえて、体が当たる音とかも鮮明に耳に入るんです。当たり前なんですけど、「映像で見るよりこんな激しいんだ」と、むちゃくちゃ興奮しましたね。

ピッチサイドはこういう仕事をしていなかったら行けない場所なので、そこに立たせてもらっているというありがたみを感じますし、やりがいの一つかなと。サッカー好きの人達にとってはとんでもない特等席ですから。

正直、最初はそのありがたみを感じる余裕もなかったんですけど、途中でサッカーがすごく好きなディレクターさんが緊張していて余裕のない私の表情を見て察したみたいで、声をかけてくれたんです。

「俺はディレクターだからいつも中継車に乗っているけど、ピッチの側で仕事したいもん、めっちゃ羨ましいことやで。ピッチサイドに立てることの喜び、貴重さを感じながらやったら絶対楽しいから」と。

そこから考え方が変わって、仕事がすごく楽しくなりました。この仕事は本当にやりがいがあると思っています。

グラビアを辞めた理由

始めたころはそんなに長くは続かないと思っていたのですが、自分の声でスポーツの現場を伝えるこの仕事にとてもやりがいを感じて、もっと力を入れていきたいと思うようになりました。

最初はグラビアアイドルの活動も並行して行っていましたが、その時に「グラビアアイドルがピッチレポートをしている」と言われていて。

でも、プロのリポーターとしてやっていけるようになりたいと思ったので、グラビアは辞めました。

6年ほどこの仕事をしてきて最も印象に残っているのは、セレッソが昇格を決めた試合か、逃した試合のどちらかですね。大雨のキンチョウスタジアムで行われたファジアーノ岡山との試合で清原翔平選手がゴール決めた試合と、ヤンマースタジアム長居でアビスパ福岡と戦って引き分けてしまい昇格を逃した試合です。

昇格を決めた試合は山口蛍(現 ヴィッセル神戸)選手も泣いていたのがとても印象的でした。彼は私と同い年で、取材をし始めたときはイケメンの若いお兄ちゃんという感じだったんですけど、どんどん責任感が強くなっていって、あの時はキャプテンでした。色々な思いで戦っていたんだろうなと考えたら私も嬉しさがこみ上げてきて。ずっと見てきたつもりですし、どういう経緯でここまできて、これだけ泣いているのかもわかるんです。あのときは、初めて泣きながらインタビューをしました。

憧れのリポーターはあの人

未だ中継が終わった後に「今日の試合はよくできたな」と思いながら笑って帰ったことは1回もないんです。毎回電車の中で「あそこはああやって聞けば良かったな」とか「あそこはあのリポートを入れても良かったな」と思うんです。映像は電車の中で見始めることも多いんですけど、だいたい何分で自分がこのリポートを入れたかもわかるじゃないですか。

「来るぞ来るぞ…ああそんなタイミングで言わんでも。もうちょっと待ったら良いのに」とか「あれだけ予習していたのになんでできなかったんやろ」とか、反省ばかり。正直映像を見返すのは怖いです。

そんな中、上の人達に追いつきたいという思いが強くて、それが原動力になっているんです。他のピッチリポーターだと高木聖佳さんのことがめっちゃ好きなんです。

聖佳さんには憧れポイントがいっぱいあります。好きすぎて味スタの東京ヴェルディ戦を見に行かせてもらったくらい(笑)。どういう動きをしているのかをひたすら観察しました。そこで、自分よりもバタバタしていないことに気付きました。すごく冷静で視野が広いんですよ、聖佳さんって。「そこを見ていたんだ!」というところがたくさんありました。

大好きで、ずっと彼女の背中を見ています。なかなか近づけていないんですけどね。

興味のないことから“楽しさ”を見つけられるか

売り子をやっていた中で培ったコミュニケーション力は、この仕事でも活きています。甲子園では初対面のお客さんでも必ずしっかり話して、「次も話したい」と思ってもらえるようすることを意識していました。そうすると、次に来てくれたときにも絶対私から買ってくれるんですよね。

そういうことを4年ぐらいやってきた中で、今の取材に確実に活きています。人見知りな私でも意識して“やろう”と思ったらできたんです。

リポーターを始めた当初は、選手に挨拶するのも苦手に感じていました。でも、踏み込んで話しかけたらけっこう会話は続くし、その人自身に興味を持つようになるんです。だから、人見知りでも全く問題なくこの仕事ってできるんだな、ということがわかりました。

コミュニケーションを取ること、選手へのインタビューというのももちろん大事ですが、現場にいない人にどれだけ臨場感ある情報を与えられるか、というところがピッチレポーターの1番の役割だと思っています。スタンドに座って見ている人よりも、“ピッチの近くにいる”感覚を視聴者に味わってもらわないといけないんです。

そういう中で、仕事となったら遠慮せずに自分の思ったことは間違いじゃないと思って踏み出せる人がこういう仕事に向いているのかな?とも思います。「やらない後悔よりやって後悔した方が良い」というのはまさにそれ。自分が発しなかったら何も起こらず終わる90分の中、自分1人で戦わないといけないし、ヒーローインタビューの間までも全部自分で考えないといけない。

正解がない中、全てを自分がその場で判断して決めていかないといけないんです。判断力や瞬発力というか、そういうものも必要になってくる仕事ですよね。

今はまだまだ上の人達を見て追いつこうと必死ですが、ピッチリポーターを目指す人がもっと増えたら嬉しいなと思っています。

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