セレッソ大阪とニールセンが挑む、課題多き日本のスポンサーシップの変革
“感覚値”をデータで示す必要性がある
「露出価値はスポンサーメリットを示すための説得材料として、非常にわかりやすい指標です。ただ、企業がスポンサーをする目的は、当然露出だけではなく、企業のマーケティング活動(例えば、ブランディング、ホスピタリティ、インナーマーケティング等)に活かすためでもあります。私は前職でオリンピックとJクラブそれぞれにスポンサーをしている企業にいたのですが、『スポンサーをすることの効果を、きちんとデータで示せているのだろうか』と疑問に感じていました。
そのような課題意識は今の立場でも大切にしています。露出価値だけではなくアクティベーションで得られる効果をデータで示すことで、企業が納得感を持ってクラブにスポンサー投資をしてくれるはずだ。スポンサー企業が自分たちのマーケティング課題に対して、スポンサーシップを活用することが有効だということをデータで示すサポートを行っています。セレッソ大阪様とも、今シーズンそのような取り組みをご一緒させていただいています」
こう語るのはニールセンでセレッソを担当している乾聡大郎氏。セレッソ大阪のスポンサーが行使する権利活用のサポートや、冠試合などの効果測定の支援を行っている。
セレッソ大阪のスポンサーシップアクティビティを担当する乾氏
セレッソのスポンサーの1つである食品メーカA社には「新商品をファンに認知させたい」という目的がありました。A社冠試合の当日、セレッソバルで新商品を販売したり、PRブースを設置し、新商品の認知獲得を目的としたアクティベーションを複数実施しました。アクティベーションの効果をデータで示すため、ニールセンはWEB上でセレッソサポーターの意識調査を行った。すると「アクティベーション参加者のなかで、『商品を買うときにスポンサー企業の商品を優先的に選ぶ』と答えた人が、非参加者と比べて13ポイント高い結果が出た」(乾氏)という。この結果は、企業の商品認知に、アクティベーションを活用することが有効だということを示す1つのデータとなります。
新たにユニフォームスポンサーとなったB社はセレッソのホームである長居スタジアムの近くに本社を構えているのだが、この企業についてもニールセンは調査を行った結果、興味深い成果が出た。
「地元企業であることに対する親近感を持っている人が多くいたこと、インタビュー中にもその場で『自分は携帯もB社さんのを使ってますよ』と見せくれる方もいました。セレッソのスポンサー企業に対して、ファンの方からのエンゲージメントが高いことを感じられる機会でした。例えば、ニールセンのスポンサーインパクト調査の結果では、スポンサーに対するイメージ10項目において、一般層よりファン層の方がスポンサーに対してポジティブな結果が出ています。
ファンがスポンサー企業に愛着があることは感覚的に分かるものの、それをデータで示してあげるということは今後必要となってくる。企業がスポンサー投資を決断するときに感覚では決断できないですよね。いくら『セレッソにはスポンサー企業に親密なファンが多いんですよ』と言われてもその数が実際どれぐらいあって、どのぐらいのインパクトがあるのかをデータで示していかなければいけない。そういった取り組みを今年はできたんじゃないかなと思います」(乾氏)
ニールセンからセレッソに渡される施策結果の資料
プロスポーツクラブは“活用できるもの”
冠試合の実施や試合時の商品配布などのアクティビティを行っているスポンサー企業は多い。しかし、企業としてスポンサーをする目的を明確にした上で、課題を解決するために投資をしてスポンサーシップを活用し、効果測定を実施して次のビジネスにつなげているというケースはそこまで多くないのが現状である。
「企業が自分たちのマーケティング課題の中から、スポーツを活用して解決できる領域と目的を設定して、その課題に取り組むためにアクティベーションを設計する。その後の評価まで検証するケースは、実は日本ではほとんどないんです。
なんとなく『スタンプラリーをやりましょう』『グッズを配りましょう』という話だけがあってそれ自体の評価はしないというのはもったいない。
企業がスポンサーシップを活用するという意識を持つことで、大きなリターンがあるということ、スポーツクラブはスポンサー企業にとって活用できるプラットフォームなんだという事例をデータで示していきたいなと思っています。」(乾氏)
試合会場ではスポンサーがブースなどを出展しアクティベーションを実施
セレッソとしてはこの取り組みをもっと発展させて営業力を強化したいと考えている。
「こういった調査から来るデータは、自分たちのポジショニングを知る上でもとても大きいです。仮に思っていたものとは異なるような、あまり良い数字や結果が出てこなかったとした場合に、『ではどうすれば良いのか』ということを考えるきっかけになります。自分たちの価値を上げるという意味でも重要ですね。
それと、資料があるとないとでは違います。社内を説得するとき、決裁をあげる時に利用できる。関心度の部分の調査は今年初めてやったのですが、これは営業ツールとして使っていきたいですね」と猪原氏は今後の思いを口にした。
こういったデータの蓄積ならびにスポンサーシップの考えがクラブに浸透し、彼等が実践できる環境が整えば、より多くの企業へのアプローチが可能になるだろう。
そこまで到達するにはまだ時間がかかるかもしれない。だが、“スポーツ界へ投資する理由と効果”を具体化&可視化しようとしているこういった取り組みは、スポーツ界の価値を高めるという点で考えても、非常に大きな意味がある。
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