W杯で真のスターに化けるか 堂安律を解説

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写真:堂安律(Etsuo Hara/Getty Images)

(大会直前のため再掲載)

2022年11月から行われるカタールワールドカップ(W杯)で日本はE組に入り、ドイツ、スペインといった世界の強豪国を相手に戦いを挑む。そこで、サムライブルーの一員として本大会での活躍が期待される選手たちにスポットを当てて、そのキャリアを振り返っていきたい。今回紹介するのは、森保ジャパン発足当初から中心を担い、今夏ドイツ・ブンデスリーガのフライブルクへの移籍を発表したMF・堂安律だ。(文・井本佳孝)

G大阪からオランダでステップアップ

堂安は1998年生まれ、兵庫県尼崎市出身の24歳で家長昭博、宇佐美貴史ら名選手を輩出したガンバ大阪の下部組織出身だ。高校2年生である2015年にプロデビューを果たすと、翌2016年に飛び級でG大阪のトップチームに昇格した。それ以降も10代で日本の未来を担う逸材として注目を浴びながら、トップチームでのキャリアを一歩一歩積んでいく。

そんな堂安に目をつけたのがオランダ・エールディヴィジのフローニンヘンだ。2017年夏にレンタルで加入し海外でのキャリアをスタートさせると、移籍1年目ながらチームの主力を担い、リーグ戦で9ゴールと結果を残しチームの年間MVPを受賞した。翌シーズンもフローニンヘンのレギュラーに君臨すると、2019年夏に名門PSVから声がかかりステップアップを果たした。

しかし、PSVでの1年目は厳しいレギュラー争いに置かれ満足に出場機会をつかめず苦しいシーズンを送った。それでも、2020年夏にレンタルで加入したドイツのビーレフェルトではブンデスリーガ全34試合に出場し5得点を決めて復活を印象づけた。2021-22年シーズン再びプレーしたPSVでは公式戦二桁得点を達成するなどオランダでも確かな爪痕を残し、欧州の地で着実に成長の跡を見せつけた。そして7月5日、フライブルクへ移籍が発表され、2年ぶりにドイツ・ブンデスリーガへの再挑戦を果たすこととなった。

本田圭佑を彷彿とするパーソナリティー

堂安の選手としての特徴は172cmと小柄ながらフィジカルに優れ、ボールキープ力に長けている点だ。また、右サイドからカットインしての左足のシュートは最大の持ち味であり、自らで強引にいくだけでなく、周りを活かす術も合わせ持っている。ユース年代から長年同じチームでプレーしてきた久保建英とは同じ左利きながら阿吽の呼吸でプレーすることができ、この2人の互いを生かし合う共有力は日本の将来の武器となるだろう。

さらに、逆境に強いメンタリティーも堂安の強い武器である。オランダのフローニンヘンでの1年目やPSVに移籍した当初はなかなか結果が出ず、苦しい時期も経験した。しかし、そこからドイツでのプレーを経験するなど、その経験を力に変え結果を残し這い上がってきた。24歳ながら海外でのプレー歴も5年を数え、自分の壁を超える精神的な逞しさも堂安の魅力の一つだ。

そんな堂安の姿は長年日本代表を引っ張ってきた本田圭佑に通ずるものがある。同じ左利きでフィジカルの強さ、関西出身で強いパーソナリティーを持つなど2人は共通点も多い。本田がW杯など大舞台での活躍や、メディアに対しての強気な発言で自らやチームを鼓舞してきたように、堂安にも世界を驚かせる大舞台での活躍やピッチ内外見せる気持ちの強さで日本を高みに導く働きを期待したいところだ。

伊東、久保らとの激しいポジション争い

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photo:filipfoto

堂安はユース年代から日本代表を経験し、2017年にはFIFA U-20W杯のメンバーとしてベスト8進出に貢献。さらに、昨夏に行われた東京五輪では日本の10番を背負い、久保らとともに攻撃陣を牽引しベスト4入りを果たした。森保監督が率いるA代表には2018年の発足当初から召集されアジア杯ではレギュラーとして南野拓実らとプレーするなど、カテゴリーを変えながら着実に経験を積んできた。

しかし、堂安が得意とする右サイドにはW杯最終予選で日本の救世主として活躍した伊東純也がレギュラーとして君臨しており、3歳年下の久保もこのポジション争いに加わっている。日本代表の“最激戦区”とも呼べる右WGで出場機会をうかがっており、W杯のメンバー入り、さらに本大会のレギュラーを掴むために日本代表だけでなく、クラブチームでも目に見える結果を残しこの競争に勝ち抜いていく必要がある。

先日行われた国際親善試合、キリンカップではゴールこそ生まれなかったもののゴールを奪いにいく積極的な姿勢を見せるなど、生き残りをかけた戦いで持ち前の強いパーソナリティーを見せつけた。日本の右サイドの切り札である伊東がレギュラーである状況は変わらないものの、久保らを含めた熾烈なポジション争いを勝ち抜くべく、このレフティーは虎視眈々とその座を狙っているだろう。

若くして海外に挑戦し、欧州で壁にぶつかりながらも貪欲な姿勢と強いパーソナリティーでそれを跳ね返してきた24歳。ドイツ、コスタリカ、スペインという難敵ぞろいの“死の組”に入った日本にとって、逞しさを増した堂安というカードが必要になる場面が見られるはずだ。森保ジャパンを史上初のベスト8に導くため、また自身が選手としてさらに高みを目指すためにW杯という大舞台で結果を残すことができるのか。若くして経験を積んできたアタッカーが見せる逆襲劇に期待だ。


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