日本vs豪州、最終分析。“史上最高の状態“の日本は、W杯出場へ勝負に出る?慎重に戦う?
日本代表は“意に反して”史上最高の状態にある?
──正面からぶつかってきてくれたほうがいいということでしょうか?
五百蔵 彼らは日本の4-3-3の良さを消すやり方ではなく自分たちのバリエーションで勝負してくると思うので、その場合、日本としてはくみしやすいと思います。
でもオーストラリアのホームですからね。絶対に勝たないといけないというなかで、間違いなく攻撃的にくるはずです。日本に対しても直近2試合を通して内部的にも高い評価を下したと思うので、そのあたりを踏まえてどういう出方をしてくるのかな、と。
ある意味、日本のほうが読みきれないかもしれません。
──メンバーは変えないと思うということでしたが、直近2試合のCBは谷口彰悟と板倉滉が務め、高いパフォーマンスを示しました。CBはどうなるのでしょうか?
五百蔵 サウジアラビア戦と中国戦と、これまでとの顕著な違いは、CBが2人違うというよりも、アンカーとCBがいないときに、前にアタックに出る頻度が上がっているということでした。これまで、CBは割と慎重に構えていました。吉田麻也と富安建洋の能力を考えれば、相手を前の視野に入れておけば大丈夫という感じで、よほどやばくならないと出てこない。
でも谷口と板倉はガンガン前に出て、前のスペースに入る選手を潰しに来ていた。しかも、それなりに機能しました。個人的な見どころの一つとして、直近2試合は、谷口と板倉の得意分野を考慮してあれをやらせるままにしたのか、そうではなかったのか(チームとしてCBにバイタルエリアを消させる形をとるのか)、どんな意図だったのかは次のオーストラリア戦でわかるはずです。バイタルエリアのスペースに入ってきた相手に対し、例えばの話ですが、吉田と富安が3回に1回出ていたところが、2回出てくるようになっているならなにかが変わったということです(※編集部注:インタビューはメンバー発表前に行われた)。
もし、CBのふるまいについてなにかが恒常的に変わったということであれば、そこもやはりインサイドハーフの機能性が上がり、チームとして共通認識ができたことによるいい相互作用の表れということになると思います。つまり、CBが出ても大丈夫というより、出ないとダメだよね、ということ。CBが前に出ることで、機能しているインサイドハーフをできるだけ前にとどめ置けますからね。インサイドハーフが、アタックだけではなくいろんなタスクをこなせること自体が日本にとってポジティブですから、その助けとなれるように、どのポジションも連動して動くことになっているのかもしれません。田中、守田、遠藤を中心とした周囲の選手、WGもCFも、SBも、CBも大きく変わっていますから。
そうなるとオーストラリアはきついと思う。やり方をなにか変えないと。日本が、自分たちでもそう分析していたとしたら、攻撃的に入るというか、オーストラリアに積極的にプレッシャーをかけていく入りをする。つまり「勝てる」という入り方をする。でもそれはまだわかりません。慎重にいくかどうか。でも一つ驚いたのは、サウジアラビア戦の後半で、森保監督が“ここぞ”というときにしかやらないことをしたんです。
──どういうことでしょうか?
五百蔵 この試合、リードして後半に入りましたよね。機能性が出ていましたし、日本はミドルゾーンでブロックを構えてもいいのに、ハイプレスにいきました。大迫の位置を少し動かして、中国戦でも見せたようなバランスに変えたんです。彼が動く範囲を広げてハーフスペースに積極的に関与していきますし、WGもプレッシャーをかけて、縦にもついていくなど、構えるどころか、前へのプレッシャーを強めました。これは相手も驚いていました。
追いかけないといけないサウジアラビアの鼻っ柱をあれで折りましたね。チーム全体が戸惑いから回復するのに10分くらいかかっていて、その時間がすごく効いていたと思います。
でも、森保監督は普段、あの方法をあまりやりません。まだ1点リードでしたし、サウジアラビアのビルドアップ能力を考えるといなされかねないなかで勝負に出た。ここでリズムを奪ったほうがいいという、最終予選全体を見極めたうえでの決断であり、試合の流れを手繰り寄せた戦略的な判断だったと思います。
あれを見せたということは、オーストラリア戦もひょっとしたら、普通なら慎重に入ってペースを握ると思われるなかで、オーストラリアに対して「可能性はないぞ」と誇示するような試合の入り方をする可能性もある。今は、それをやれる練度になっていると思います。
──簡単に相手にはがされ、ひっくり返されることはないと。
五百蔵 そうですね。ただ、先ほどもお話ししたようにアウェイですし、試合前のコンディション調整や選手の出来・不出来も関係してきます。チームの勢いや練度としてはガツンといってリズムをこちらの流れにできそうでも、コンディションに不安があるから慎重にならざるをえないかもしれません。ですがそもそも論で言えば、日本はコンディションで全く変わってしまうサッカーをしているということでもあります。本大会は大丈夫なのか……。
──これまで五百蔵さんが指摘されてきたように、本大会へ向けたところは議論の余地が大きそうですが、とはいえ今は、日本史上最高の状態になっている、と。
五百蔵 そうですね。思い返すと、アウェイでコンディション調整がうまくいっていないことが多いですけど、差し引いても今がマックスではないかと感じるほど、最高の仕上がりだと思います。選択できている選手も最大化していて、あのスカッドのいい相互作用を発見したと思います。ただそれは、意に反して最大になってしまっている可能性も否めない。これ以上ベースを上げ、パフォーマンスを高めるには、前にも言いましたけど、伊東がサラーになるようなレベルの話ではないか、と。これ以上を望むのは厳しい段階かもしれません。
今の日本は「久保のチーム」にはなり得ない
──現在の森保ジャパンを見ていくうえで見逃せない点として、久保建英がこのプレーモデル、システムにおいて組み込む場所がなくなっているように感じることです。
五百蔵 これは、今の日本が選択している問題の一つです。スカッド的に、同じレベルのバリエーションを持たない、ということです。選手個々にフォーカスしたつくり方をしているため、特定の組み合わせでしか今のパフォーマンスを発揮できません。
久保はインサイドハーフができる選手ですし、今の日本もそこが重要ですから、単純にそこに入れればいいと思うかもしれないですけど、久保と田中、守田にできることは違う。久保が「このチームの4-3-3」で機能するかどうかは、長い目で見ないといけません。
なぜなら、一口に4-3-3と言っても全然違うので。しかも試す時間がない。そこは中国戦を見て絶望的になりました。久保が入ったことでなにも見えないどころか、チームがバラバラになっているだけ。田中、守田、遠藤の3人がそろわないときついということでした。
──中国戦の後半から久保を入れた狙いはなんだったのでしょうか?
五百蔵 同時に前田大然を入れましたよね。中国が前に出ていくしかないなかで形を変え、選手を交代してきたので、それを見ての投入です。中国の勢いをひっくり返しやすくするために、前に出づらくする方法を選びました。前田はプレッシングもそうですし、前への走りも思い切りやらせることでスペースをつくれるので、久保はそこでとりあえずなにかやってみろ、と。その意味で、最初の目的は達成しました。中国を前後に分断しました。
中国は3CHにして、WGを高い位置に張らせて酒井にインサイドハーフのカバー、支援をしづらくさせてきましたけど、日本の一手で、それも全く意味がないものなりました。そうなった場合に、高い位置に張るタスクを授けられた選手がどうすべきかを用意できていなかったようで、中国としては前後が分断してしまう状況で単に日本陣の深い位置に、何の仕事も遂行できなくなった誰かが一人立っているだけのような状態になっていました。
そこは、久保と前田を入れて前に出させない狙いが戦略的効果を出した部分です。でも「なんとかしてみろ」という部分では、絶望的でした。久保があのスカッドのなかで、田中と守田の代わりのインサイドハーフができるかどうかというと、できない。久保については、リードしているときに、敵陣で時間を過ごすための駒の一つとしてしか使うことができないということがありありと見えてしまったと言えます。
写真提供:日本サッカー協会
──今の日本は「久保のチーム」にはならない。
五百蔵 少なくとも、ファーストチョイスにはなりません。そして久保もそれをわかっていると思います。4-3-3自体は久保も親しみを持った形ですし、今の日本の4-3-3において久保がなにをすべきかを理解しているはず。でもそれが、戦術やシステムでそうなっているわけではなく、守田だから、田中だから、守田と大迫だから、守田と南野だからという関係性で出来上がってしまっている。久保が理解できていたとしても、それぞれの判断がズレてしまう。「インサイドハーフだからこうしてやろう」ではなく、「田中だからこう」「守田だからこう」という形になっていて、それで相互作用が回っている状態なので。
久保からすると、一からコミュニケーションを取らないといけない。あの試合は、田中がアンカーで、久保と守田がインサイドハーフでした。久保が入って4-2-3-1になるかと思われましたが、基本は守田と同じタスクを担っていました。そしてボールを持っていないときに久保が浮きまくっていたので、これはあれだなと、特定のスカッドでしか得られないパフォーマンスだなと。そうした意味でも、日本の“マックス感”があると感じています。
3.24決戦は両者にとって答え合わせとなる試合
──オーストラリア戦の展望の最後に伺いたいのは、日本との因縁についてです。オーストラリアが2006年からアジアに入ってきて以降、いろいろとありました……。
五百蔵 いろいろとありましたね(苦笑)。すべてを振り返ることはしませんが、一つの側面で言えば、日本にとってはやっと韓国以外のライバルができた喜びがあったなと思います。韓国とは歴史的な背景を踏まえても、少し関係性が激しすぎてあまりあおれないというか。個人的にも、韓国戦はハードすぎて楽しめるあおり方ができない時期が長らく続き、でもそういうガチすぎるライバルしかいなかったところに、オーストラリアくんが入ってきました(笑)。
そして、入ってきたタイミングがある意味良かった。トルシエ体制で組織がうまくいったから、次は自由を求めようとジーコを招聘し、極端なサッカーをやり始めた頃に彼らが入ってきました。ヒディングが率いたオーストラリアは、古いながらも欧州タイプのフィジカルサッカーで、日本よりは組織だっていて。日本としては、自由を追求し、ボールを握りまくり、崩しまくる美しいサッカーでアジアを蹂躙するつもりだったはず。日本サッカーが1990年代から育成してきた最初の花が開いたところで、ガンガンいけるんじゃないかと。
でも、皮肉にもトルシエの率いた日本代表の影響もあって、当時のアジアの各チームは組織的に強化されはじめていて、日本は望むほどの自由は謳歌できなくなりました。逆に攻守に組織だったオマーンにボールを持たれ、引きまくるしかない、というような試合が多くなっていった。仕方なしに3バックを始めたこともありますね。W杯本大会に向け、やらなくていい試行錯誤の連続でした(苦笑)。
W杯直前のNHKの特集では「秘密兵器に取り組みました」と。それがなにかというと「プレスです」と。つまり、自由すぎて、個で守っていたから押し込まれるという結論。それで大会の半年くらい前の合宿から組織だったプレッシングに取り組み、それが最終兵器だと……。
──たしかにそんな流れでした(苦笑)。
五百蔵 報じるほうも、ある程度わかっていたと思いますけどね。そういう状態で迎えた2006年大会。
──グループステージで1-3の逆転負けを喫した悪夢ですね。
五百蔵 オーストラリアに注文通りにやられました。ジーコジャパンの負の特徴でもありましたが、オーストラリアの策としても前と後ろを分断され、その間にできた広大なスペースをガンガン使われました。そのうえさらに、ケーヒルが大会後ことあるごとに、「彼らはあの悪夢から逃れられないだろう」と語ったことで、「オーストラリアだけは許せない」という国民感情を誘発しました。僕にとっても彼らは、いい意味で感情的に語りたくなる相手となりました。
なぜ腹が立つかというと、自分たちがヤバイと思っていることを指摘されたから。人間は自分が思ってもないことを指摘されてもそれほど怒りは湧いてきません。でも、あの試合は、痛いところを突かれた。さらにケーヒルが傷口に塩をぬる。だから腹が立つ(笑)。
その後は、好敵手になっていきましたよね。2007年のオシムが率いたアジアカップは痛快でした。当時ドイツ・ブンデスリーガで活躍していた高原直泰が「図体がでかいやつは俺たちの動きについて来られないことを知っている」と語り、その言葉通りオーストラリアゴール前、エリア内の切り返しでCBをかわして決めて勝つ。最高でしたね。
それと、ハリル時代に戦ったオーストラリア。2017年に、翌年のW杯出場を決めた試合。オーストラリアは、イングランド式のサッカーでは限界があることを2006年に感じてから、徐々にボールを握るサッカーにシフトしていき、ポステコグルーが率いて戦術的なアップデートにもいち早く取り組んできました。そんなチームをハリルが粉砕したわけです。
それでもオーストラリアは、ポステコグルーのやったことを続け、今でもいいサッカーをしています。日本は2006年以降、彼らとのライバル関係のなかで痛快な試合を見せたこともありつつ、彼らほど一貫性のある強化をできていません。そういう意味でも対照的なチーム。だからこそ今回もおもしろい対決だなと思います。
──10月に日本がホームで勝っていることも相手に火をつけましたよね。
五百蔵 あの試合も、両国のカラーが出ました。お互いに驚いた試合とお話ししましたけど、組織的な対応をより早くできたのはオーストラリアでした。
「日本は4-3-3らしいぞ」と最初の5分で気づいて、10分くらいで、日本のビルドアップに対して4-4-2でかっちりガードしました。それも普通の4-2-2ではなく、2トップが日本のアンカーを挟んで動かないようにブロックしたことで、日本はアンカーを使った展開ができずワイドに送るしかなくなり、詰まってしまう。ピッチで話し合っていないのに、4-3-3に対してこう守れば簡単に動かせないという対応ですから、これはすごいことです。日本は試合中、ずっと試行錯誤していたので違いは明らかでした。つまり、戦術面での育成の力ですよね。
とはいえ日本は、マクロな対応で後手を踏んでいても、伝統的にミクロな対応は得意です。「相手のCBは左足が弱い」というようなディティールを重視した対策を活かせた。オーストラリアの左SBの守備時の曖昧さをあきらかに分析していたと思います。もともと日本は右サイドがストロングではありますが、そこを狙い、ミスを起こさせて先制。追加点もそのSBの守備時の行き届かないところ、細部がおろそかになったところを突いて点を取りました。
そういう意味でも、オーストラリアはオーストラリアらしさ、日本は日本らしさを感じました。オーストラリアは、日本が“外切り”で寄せて来ているけど、インサイドハーフが連動していないからそこを使ってカウンターで攻めようとしてきました。その結果もらったFKから得点。彼らは構造的に攻めてきました。そんな感じで両チームのアプローチの違いが見られたので、すごくおもしろい試合でした。次もそういう戦いになると思います。
──純粋な両国のぶつかりという意味でもおもしろいです。
五百蔵 はい。彼らは自分たちのやるべきことをしてくると思いますし、現時点での両者の答え合わせ的な試合になると思うので、すごく楽しみな一戦です。
写真提供:日本サッカー協会
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▷プロフィール
五百蔵容(いほろいただし)
1969年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、株式会社セガ・エンタープライゼス(現株式会社セガゲームス)に入社。2006年に独立・起業し、有限会社スタジオモナドを設立。ゲームを中心とした企画・シナリオ制作を行うかたわら、VICTORY、footballista、Number Webなどにサッカー分析記事を寄稿。著書に「砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?」「サムライブルーの勝利と敗北 サッカーロシアW杯日本代表・全試合戦術完全解析」(いずれも星海社新書/2018年刊)がある。
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