日本代表、最新分析。中盤の最強コンビ、田中&守田は替えが効かない、代わりがいない
「左サイド問題」を森保監督は気にしていないはず
──もう少し伊東の話を続けますが、伊東を起点とした右サイドからの得点が多く、攻撃も偏っています。中国戦を終えて「左サイドが課題」という指摘もメディアで報じられています。どうしてこのような構造になっているのでしょうか?
五百蔵 おそらく、森保監督は、どちらかに偏るといったことは正直、どっちでもいいと思っているのではないかなと。攻撃のあり方としては割と、昔のアトレチコ・マドリードのように片方のサイドだけで攻撃を完結される感じではなく、実は両サイドを使っています。決めているのが伊東、アシストが伊東ということだけ。伊東からのクロスには外側の選手が入ってきていますし、インサイドハーフも裏抜けしておとりになる形も出来始めています。どこで決めるかで偏りが生じていますが、そんなに気にしていないと思いますね。
とは言え、南野にもっと決めてもらわないと、というのはあると思います。決められるチャンスは作り始めていますからもう少し仕事ができるはずです。そこは、SBの選択とも関係するので難しい部分ですけど。右サイドのほうが攻撃的に振る舞っていますし、伊東を使う以前の柴崎岳のときから、基本的には右サイド偏重のビルドアップでした。
──伊東ではなく、堂安律を起用していたときなども。
五百蔵 そうです。もちろん、左WGや左SBの攻撃面での課題もありますけど、逆に日本の右サイドからの失点もあるわけです。これは、清水英斗さんが書いていましたが、今は中山よりも長友佑都が選ばれています。ですから、左SBは“そういうこと”にしていると思います。守備面のファーストチョイスが長友であって、試合が進み深い時間になってきたら中山と交代する。その点でも、中山の投入時間が早まっていることは一つのメッセージだと感じます。彼は対人やコミュニケーションで課題が指摘されていますけど、もう少し早い時間から入って、周囲とコミュニケーションをとって、彼の特性であるビルドアップにもっと関与してほしい、という。森保監督の信頼が少しずつ増していることがわかる起用ではないかと思います。
──左サイドは、森保監督が総合的な判断で長友を選んできた。
五百蔵 はい。攻撃もフィニッシュも決して左が機能していないわけではなく、両サイド共にエリア内に侵入できているなかで、得点やアシストが右に偏っているということですね。
これ自体は、もう少し続くように思います。インサイドハーフの機能性が上がっているなかで、守田が左から頻繁に裏抜けを狙っている様子もありますから、もう少し左右の厚みを出して、バランスを取っていくという見立てがあるのではないかと感じています。
──いわゆる「左サイド問題」は、良い悪いではないということはわかりました。とは言え感じるのは、両WGの立ち位置の違いです。伊東はワイドを活用しますが、南野は限りなく中に立っていて、CFに近いようです。それは南野の特性か、チームの狙いか。
五百蔵 まずは、南野の特性だと思います。ただし、4-2-3-1のときのトップ下にどんな仕事をさせてきたかという点を考える必要があります。南野がサイドではなく、1.5列目で出ていた事例を考えてみると、左右のワイドの選手の特性を変えておく狙いを感じます。
というのも、インサイドに入った選手の仕事はある程度決まっている節があります。三笘が途中からしか使われない理由もそこにありそうです。つまり、プレスバックです。ワイドでも、インサイドでも、プレスバックしないといけないし、繰り返さないといけない。そう考えたときに、奪えそうなところで奪い切れる部分では、南野が選ばれるはずです。
彼はリバプールでも似たようなトレーニングをしていて適性とうまさがありますし、チームが要求するタスクにも合っています。4-2-3-1ではトップ下がその仕事をしますけど、インサイドに絞って1.5列目に入るワイドの選手にも、同じようなことが求められています。
こうした前提を踏まえ、4-2-3-1より、今の4-3-3のほうが良くなっています。インサイドハーフと、インサイドに入ったワイドの選手が連携を取って相手を挟んだり、プレッシャーを与えてディレイしたり、取り切ったりできているので。結局、肝はインサイドハーフなんです。
──なるほど。
五百蔵 南野がインサイドに絞ってトップ下やセカンドストライカーの位置に入ることでトップのアタッカーを自由にさせやすいですし、SBとの絡みでも、インサイドに入った前の選手がちゃんとプレスバックに来るだけではなく、SB選手自身も意外とインサイドに入ってきてインサイドハーフの裏のスペースを守っているシーンを見ることがあります。森保ジャパンの傾向の一つですね。
SBのそういった仕事は4-2-3-1のときからあったものの時々ある程度で、メカニズム化されたものには感じませんでした。選手の個々の判断でそうしている委任戦術として、というか。でも、4-3-3になってから、特にサウジアラビア戦と中国戦ではその狙いが顕著になっていました。
右SBの酒井宏樹も左SBの長友も、日本のボール保持時にインサイドハーフがめちゃくちゃ動くので、0.5列上がって絞り、インサイドハーフが動いて空いたスペースや、単純にインサイドハーフの裏を守るシーンが目立ちました。カウンタープレスの対応が整理されたということだと思います。インサイドレーンのプレスバック、間に入ったインサイドハーフと、その裏のインサイドに入るSBの形がかなり整い始めています。
──特にカウンター対応という点で守備面の成熟も増してきている。
五百蔵 かなりまとまってきていると感じます。点を取れていないだけですね。それこそ、中国戦は4点くらい取れるだけの力の差はありました。インサイドハーフを使うシステムの練度は、相当に上がっていて、かなりいい感じです。だからこそ、次のオーストラリア戦はそこが眼目ではないでしょうか。相手が4バックであれば相当、守りづらいと感じるはずですし、日本が先制した場合、かなり敵陣で支配しながら進められると思います。
ボールを握り、押し込みながらも崩しきれないかもしれないですけど、それも織り込み済み。森保監督は、相手をどんどん崩す狙いではなく、今やってきていることも、東京五輪でも、それ以前でも共通してやってきたのは「なるべく敵陣で過ごす」こと。それによって、勝つ可能性を少しずつでも上げるという考え方を明らかに感じることができますから。
──なるほど。では、運命のオーストラリア戦の展望は次回、お伺いします!
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▷プロフィール
五百蔵容(いほろいただし)
1969年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、株式会社セガ・エンタープライゼス(現株式会社セガゲームス)に入社。2006年に独立・起業し、有限会社スタジオモナドを設立。ゲームを中心とした企画・シナリオ制作を行うかたわら、VICTORY、footballista、Number Webなどにサッカー分析記事を寄稿。著書に「砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?」「サムライブルーの勝利と敗北 サッカーロシアW杯日本代表・全試合戦術完全解析」(いずれも星海社新書/2018年刊)がある。
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