鹿島・荒木遼太郎、創造性と判断力を培った東福岡時代 #antlers

鹿島アントラーズの新たな10番として今季注目されているのが荒木遼太郎選手です。

2020年に東福岡高から鹿島に入団すると、ルーキーながら公式戦29試合出場2ゴールをマークしました。2年目には鹿島のエースナンバーである13を継承し、46試合13ゴールと一気にブレイク。3年目の今季はさらなる活躍に期待がかかります。

そんな荒木選手のこれまでのキャリアの歩みを、サッカーライターの安藤隆人氏に紹介していただきました。現在のプレースタイルに大きく影響を与えた、東福岡高時代を振り返ります。

■クレジット
文・写真=安藤隆人

■目次
鹿島期待の10番
アンカーへのコンバートで才能が開花
アンカーらしくないアンカーに成長
荒木らしさがでた今季初ゴール

鹿島期待の10番

前回のコラムで鈴木唯人のことを『スタートポジションに関わらず、複数のポジションを1つの物語で結び付けられる選手』と評したが、鹿島アントラーズのMF荒木遼太郎もピッチ上で美しい物語を紡ぐことができる選手だ。

2020年に東福岡高から鹿島に入団した荒木はプロ2年目となった昨季、柳沢敦や興梠慎三らから受け継いだ鹿島のエースナンバー13を託された。さらに今年は本山雅志、柴崎岳、安部裕葵らが背負ってきた10番を引き継ぐなど、大きな期待を背負っている。

ルーキーイヤーは、左右のサイドハーフとしてリーグ戦26試合に出場(うちスタメンが7試合)して2ゴールをマーク。昨季はサイドハーフだけでなくFWとしてもプレーし、36試合出場(うちスタメンが27試合)で10ゴールをマークして、J1リーグの新人王に輝くなどブレイクを果たした。

荒木の特徴は、与えられたポジションで柔軟性に富んだプレーができること。サイドハーフに入れば、インサイドのスペースにタイミング良く出入りしたり、アタッキングエリアに侵入していったりと、チャンスメーカーとフィニッシャーの両方の顔を持つ。

FWで起用される時は、常にゴールへの意識を高く持ったプレーを見せる。ボールを引き脱す動きや、周りの選手が前向きにボールを受けられるようにスペースメークなどゴールというターゲットからの逆算がベースとなっている。

アンカーへのコンバートで才能が開花

荒木が今のスタイルを構築したのは、高校3年生の1年間によるものだと思っている。

熊本県出身の荒木は、ロアッソ熊本ジュニアユースから福岡の名門・東福岡高に進学。当初はトップ下やウィングのポジションで、2列目からどんどん飛び出していくドリブラータイプだった。切れ味の鋭いカットインと裏への飛び出しでゴールに迫るプレーが特徴的だった。しかし、高校3年生になり、背番号10を託された荒木に与えられたポジションは【4-3-3】のアンカーだった。

「え、アンカーできるの?」と正直、このコンバートには驚きだった。

当時、森重純也監督が「今年のメンバーを考えると、アンカーの適任者がいない。遼太郎なら攻撃だけではなく守備でもハードワークができるし、パスもドリブルもできる。今年のチームは彼の存在が大きなカギになると思う」と、チームの台所事情と荒木が持つポテンシャルへの期待を込めての判断だった。

蓋を開けてみると、試合をこなすごとにプレーの引き出しが増えていくのがわかった。

「これまでは攻撃のことばかり考えていればよかったですが、アンカーになったことで相手からボールを取る役割が増えた。これが本当に難しくて、アンカーが剥がされるとピンチになります。サイドやシャドーとは意味が違うので、最初は全然ついていけませんでした」

コンバート当初は、これまでとの役割の違いに戸惑うことが多かった。だが、適応能力は驚くほど高く、試合をこなすごとに動きの質が上がり、プレーの引き出しが増えていった。固定観念に捉われず、新しい価値観を受け入れる柔軟性と、そこから自分の特徴をいかに発揮するかにフォーカスを当てて考えながらプレーする。それによって荒木の眠っていた才能が目覚めた。

東福岡ではそれぞれの持ち場がはっきりしていて、与えられたポジションから離れることは少ない。しかし荒木はアンカーながらも、積極的にポジションを変えてプレーする。時には最終ラインに加わり守備を引き締め、時には前線まで飛び出してフィニッシュに絡む。

しかも、持ち場を離れる時は決して無責任なプレーはしない。ドリブルする際は、相手にボールを奪われずに運び出す。プレスを受けるとシンプルに叩いて、自分は前に飛び出す。逆に叩いた瞬間にアンカーポジションに戻ってカウンターのリスクヘッジをするなど、2手、3手先が見えた上で積極的にいくか、慎重にいくかを高度なレベルで判断ができる選手に成長した。

アンカーらしくないアンカーに成長

高校3年生の夏前には、『アンカーらしくないアンカー』として稀有な存在になっていた。そんな荒木と与えられているポジションや役割についてどう考えているかを議論したことがある。その時の彼の言葉が印象的だった。

「サイドでやっていた時よりも考えてプレーする機会が増えました。アンカーだと周りに全てのポジションの選手がいて、その選手たちにボールを当ててからのセカンドアクションが重要になってきます」

「具体的に言うと、どの位置でボールを受けるのか、受けた位置からどうゴールに向かっていくのかを考えます。その上で次はどのポジションの選手にどういうボールを出すのか、(自分が)前に行くのかその場に止まるのかなど、本当に今まで考えなかったことを考えるようになりました」

「いくか、いかないかの判断が少しでも遅れるとボールを失ってカウンターを浴びたり、チャンスの芽を潰したりしてしまうので、頭を休めている暇がありません。でも、全ては周りのサポートがあってこそのプレーだと思っているので、凄く新鮮さを感じるというか、周りに感謝をしながらプレーできています」

夏を過ぎるとプレーの引き出し、判断の質はさらに向上し、「遼太郎の存在が全て」と森重監督に言わしめるほど、ずば抜けた存在になっていた。荒木の言葉もこう変化している。

「ボールを持った瞬間、パスコースがたくさん見えるので本当に楽しいというか、自分で仕掛けることもできるし、シンプルに叩いて連動することもできる。守備面でも最初はただボールを持っている相手に寄せにいく感覚でしたが、今では相手の目線とかを意識して見るようになりました。重心のかかり具合を見て予測をしたり、パスを出すコースをわざと空けておいて、そこに出させて奪うとかができるようになりました。今までやってきたことが全て繋がっている感覚です」

荒木のなかでアンカーで経験を積むことによって、これまで経験したポジション、経験していないポジション全てを繋ぎ合わせることができた。攻守においてどの場所にいて欲しいか、逆にいてもらいたいか。どう関わるべきか、関わってもらいたいか。だからこそ、冒頭で述べたように、ピッチ上で物語を紡ぐことができるようになった。

荒木らしさがでた今季初ゴール

そして2020年鹿島に加入すると、高校で培った創造性と判断力と技術力をさらに高みへと押し上げていった。

「高校からプロの世界に来て、プレースタイルやプレースピードも意識して変えています。高校の時は中盤で好きなようにやらせてもらっていましたが、ここではそういうわけにもいかない。より柔軟に、監督の意図、周りの意図を感じ取りながら、何度も動き直してボールに関われるようにしたい。そこでアンカーの経験がものすごく生きていて、サイドでも中央でも『自分ならどうして欲しいか』を考えながらプレー選択ができているのは大きな財産になっています」

荒木はこの言葉をプレーで証明している。第3節の柏レイソル戦は今季初のベンチスタートとなったが、0-0で迎えた56分にトップ下として投入される。65分に中盤のこぼれ球を拾って右サイドの鈴木優磨に展開し、自身は相手DFのスライドを見ながら、中央にできたスペースに入り込んだ。

するとDF常本佳吾の折り返しを右足裏で正確にトラップして、対峙したDF高橋祐治の重心を見ながらキックフェイントで駆け引きし、右に持ち出してから素早く右足を一閃。高橋のシュートブロックは間に合わず、後ろにいたDF古賀太陽にディフレクトしてゴール左に吸い込まれた。

荒木の巧みな展開力とポジショニング、そして駆け引きと技術が凝縮された今季初ゴール。どのポジションでもゴールに直結する物語を紡ぐことを実証して見せたシーンだった。

これからもどのような物語をピッチで表現してくれるのか。鈴木唯人と共に将来を嘱望される『何でも出来るアタッカー』として日本サッカー界を明るく照らしてくれることを今から期待してやまない。

■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)

1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。

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