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コロナ禍のサッカー界で「勝ち組」と「負け組」を分けるのは?【上野×北対談】

ゴールの瞬間は最大の“課金チャンス”

──スーパーチャット(YouTubeの投げ銭機能)のようにユーザーがリアルタイムで課金できたり、自分の好きな画角で見られたり、好きな選手にインタビューができたり。いろいろな付加価値をつけたチケットがあったら面白いですね。

 スポーツのライブは価値が高まる可能性が高いです。インターネットテレビの「ABEMA」は今シーズンからMLBの放送が始まって、格闘技はペーパービューもしていて、Fリーグは全試合放送している。明らかにスポーツコンテンツは拡充しています。

これからはライブで見なければ価値がないコンテンツはスポーツくらいになるからです。今まではテレビが番組表に沿っていろいろなものを映し出し、ユーザーはその時間に合わせてドラマを見てきました。でも、NetflixやAmazonプライムなど、自分の好きなタイミングでコンテンツを見られるようになった。

ネタバレさえなければ、ドラマや映画はいつ見ても楽しめます。でもスポーツは、試合開始時間に合わせて、リアルタイムで見なければコンテンツとしての価値は大きく下がる。日本代表戦を1週間後に見るなんて人は、ほとんどいないでしょう。スポーツこそ、ライブで見る最後の砦。だから放映権も高騰している。

上野 メタバースや観戦のDXは進んでいくのは間違いありません。しかしリアルタイムやライブによるスポーツ観戦の価値も続いていき、2軸の世界になると思います。僕が注目していたのはBリーグの取り組みで、オールスターの時に開催された「ライブエクスペリメント」。アウェイの試合を収益化させる手法の原型といっていいでしょう。

富山でオールスターを開催し、品川で8Kのビジョンを4つや5つ作って、そこでみんなで観戦する。ハーフタイムにはチアリーディングがあって、DJのショーがあって、レジェンドの選手が出てくるトークショーまである。1万円ほどのチケットでずっと楽しませてくれます。リーグ2年目の恵比寿会場も翌年の品川会場も体験させていただきましたが、非常に未来価値の高いものでした。

スポーツは今までアウェイの収益を取りこぼしていました。横浜スタジアムもビジターの広島戦の際に開放して、オーロラビジョンで試合を流したら、1日平均で3000人来た実例もあります。

こういう取り組みはまさにライブに価値があるからこそ。配信ビジネスが進む一方で、ライブビジネスの価値はもっと上がる。単価が上がることは並行して行なわれると思います。

──試合を見ているとすごく課金したくなることってありますね(笑)。ゴールシーンなど感情が動くタイミングは、大きなチャンスだと思います。

 スポーツのゴールシーンって感覚がバグるじゃないですか? DAZNに月額課金していますが、3000円くらいならアドオンで課金してもいいかなという感覚があります。プラットフォームに何割か持っていかれたとしても、残りは全てチームに入るなら。

──「もっと払いたい」というファン・サポーターは、潜在的には多いはず。いまは、課金のタイミングがチケットとグッズぐらいしかない。ゴールが決まれば課金が増えるなら、チームも3-0で満足しないで「4、5点取ろう」となりますよね。

 NewsPicksの『デューデリだん!』番組でmixiの木村弘毅社長が話していたのですが、UIの設計がすごく重要だと。mixiは競輪のアプリに力を注いでいます。そこでは『モンスターストライク』などで培われたソーシャルゲームのノウハウが活かされているそうです。

今のDAZNの中継は、基本的に一方通行です。配信されている映像を見て、何か自分の発信をするツールはツイッター。そのUIの中で課金できたり、ゴールを一緒に喜ぶような画面に切り替わるなどができれば、もっと応援しようとなります。ユーザーを惹きつけるUIを設計して、スポーツの体験価値を上げることが大事になると思います。

上野 先ほどの“スポーツビジネス3.0”の軸の一つは、スポーツベッティングです。アメリカだと大学スポーツも賭けの対象になっています。ただ、日本の将来において大学スポーツや高校野球などが賭けの対象になるにはものすごいハードルがあるでしょう。

しかし、スポーツベッティングが広がっていけば、収益の一部が女性競技やパラ競技などに還元されて、ある種のエコシステムが形成されていく。日本のスポーツ発展にとって非常にポテンシャルが高いものになっていくとみています。

コロナ禍は今も大変な状況ではありますが、一方でパラダイムシフトの後押しをしている側面もあり、この時代を「何とかしのごう」と考える者と「改革のチャンスだ」と捉える者で大きな差が生まれていくでしょう。

「WEリーグ」に勝算はあるか?

──9月12日、女子プロサッカーリーグのWEリーグが開幕しました。ただ、盛り上がっていたのは現行のサッカーファンがメインに見えました。このタイミングで開幕することに、どのくらい勝算があったのでしょうか?

 WEリーグは「思想」を前面に打ち出しているなという印象です。例えば日本サッカーリーグ(JSL)からJリーグになった時や、JBLやBJリーグからBリーグになった時はプロスポーツとして見た目も含めて大きく変わった感があった。

しかしWEリーグの光景は、なでしこリーグとほとんど変わりません。ウーマン・エンパワーメントリーグというリーグの名前からわかるように、女性を最大化しようという思想に訴えかけるやり方をしました。

女性のエンパワーメントはトレンドで、このトレンドをリーグのコアに置いた時に、一般の方々にどれだけ刺さるかというと僕はまだ弱いのかなと思います。雇用の状態が変わったとかはあっても、ピッチで見られるものは変わっていないわけですから。

上野 北さんがおっしゃるように、理念は素晴らしいです。問題は、経営を維持できる構造かどうか。 個人的にLリーグ時代から女子サッカーを見続けていますが、構造的に何も変わっていません。

第一に、この国はプロ化の定義が曖昧なままです。JリーグもBリーグもWEリーグもプロリーグを名乗っていますが、統一したフォーマットがあるかといえばそうではありません。

 WEリーグはなでしこリーグの上位リーグとしてできたものであり、一種のプレミア化です。ただ、「なでしこ」というワードは多くの人が女子サッカーを連想させるほどの強烈なインプレッションを獲得しています。これをわざわざ捨てて、WEリーグの下においてスタートしましたが、それならなでしこリーグをプロ化した方が大きくスタートダッシュできた可能性はあると思います。

──すでに浸透したブランドではなく、新ブランドとしてリーグを立ち上げるのは並大抵のことではないですよね。Googleトレンドを見る限り、WEリーグは開幕の段階でもあまり話題になっていなかったように見えます。

上野 WEリーグの戦略には、2つの前提条件があったと思います。2023年に女子ワールドカップを日本に招致すること。東京オリンピックで銅メダル以上をとること。この2つでストーリーを組んでいましたが、どちらも達成できなかった。新しい戦略を立て直さなければいけませんが、具体的な動きは今も見えてきません。

JリーグとBリーグが一気に盛り上がりましたが、基本的には別の構造をもっています。同じなのは、どちらも初代チェアマンを務めたのは川淵三郎さん。個人的にリスペクトしてやまない方ですが、日本の場合は川淵さんのように引っ張っていける強烈なリーダーがいないと実現できないのかなと思います。

──Jリーグは1993年開幕であり、ほぼ30年前の話です。当時の成功事例を再び踏襲することは、かなり難しそうです。今くらいメディア環境が激変していると、それに合わせた戦略が必要になってくると思います。

上野 おそらく来年からスタートするラグビーのプロリーグについても同じような課題が出てくるのではないでしょうか。

 Jリーグでも、J3ではサッカーだけで生活ができない選手がいます。男子サッカーより稼ぎにくいであろう女子サッカーをプロ化したとして、上位チームは食えても下位チームはどうなるのかな? とは思いますね。

月収10~20万円台の選手がたくさん出てきた時に、「女性をエンパワーメントする」という理念との齟齬は出てくる気がします。「その条件なら、一般企業に就職した方がいいのでは?」と思われない状況を作ることが大事だと思います。

<了>


■プロフィール
上野直彦(うえの・なおひこ)

スポーツジャーナリスト。日本ブロックチェーン協会事務局長、早稲田大学スポーツビジネス研究所・招聘研究員、江戸川大学、追手門学院大学で非常勤講師、ブロックチェーン企業ALiSアンバサダー 、Gaudiyクリエティブディレクターなど、スポーツビジネスや女子サッカー、育成年代、Jクラブの下部組織などあらゆるジャンルで活躍。漫画『アオアシ』取材・原案協力、『スポーツビジネスの未来 2021 ー2030』(日経BP)、NewsPicks「ビジネスはJリーグを救えるか?」連載、Forbes JAPANへの寄稿など。趣味はサッカー、ゴルフ、マラソン、トライアスロン。

北健一郎(きた・けんいちろう)

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

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