ニューバランス 限定版『1000シリーズ』『900シリーズ』

昨年、この企画で紹介したニューバランスのスウェット ”1000・900シリーズ“。こだわりの詰まった、スウェット愛にあふれるアイテムは、店頭でも共感を集め、早くも新作である「限定版1000・900シリーズ」が登場することとなった。

昨年、発表された ”1000・900シリーズ“。ここでは ”オリジナル“ という前置きをつけて呼ばせてもらう。このふたつの ”オリジナル” に、それぞれ違った視点から新たな解釈が加えられ、さらに魅力的なアイテムとなったのがこの ”限定版“ だ。前回に引き続き、このスウェット作りに携わったニューバランスの大角剛史さんに、こだわりの続きを尋ねてみた。

“オリジナルの1000シリーズ“ (上の写真/左がオリジナル、右が限定版の1000シリーズ)に加えられたアレンジはダメージ加工。つまり新品でありながら、着古した感のある、いわゆる古着のようなルックスとなっている。前回、”オリジナル“ の話を聞いたとき、大角さんは ”オリジナル” をずっと着続けて、古着になったらどうなるのかが楽しみだと話してくれた。その結果を見る前に、ひと足早く古着感覚の ”1000シリーズ“、すなわちこの ”限定版“ を作ることになった。ちなみにこのダメージ加工以外は、”オリジナルの1000シリーズ” から、素材やデザインなどに変化はない。だがダメージ加工が加わるだけで、受ける印象はかなり変わってくる。

あらかじめ着古したような味わいをもたせたジーンズなどで知られるダメージ加工とは、着たり、洗ったりを繰り返すことで生じる生地のくたびれ感や、”ほつれ“ 、”削れ” を、加工技術を用いることで、新品の段階から加えることだ。写真下は新品の「限定版1000シリーズ」のスウェットシャツだが、表面のほつれは制作段階で人為的につけたものだ。

そのため、どの部分に、どんなダメージを加えるのかが、スウェットシャツの仕上がりを左右することになる。つまりダメージひとつひとつがデザインの範疇となるわけだ。「限定版1000シリーズ」のスウェットシャツやパーカは前身頃に細かな ”ほつれ“ が散在するのが特徴だ。これは大角さんの “オリジナルの1000シリーズ“ に込めた思いが反映されたものだ。

「前もお話しましたが、オリジナルの1000シリーズは軍隊のトレーニングウエアがイメージソースです。このスウェットシャツを着て、背嚢を背負い、銃を携えながら訓練をして、1日終われば洗濯をする。この繰り返しでどんなダメージが生じるのか、実際の古着なども確かめたりしながら考えました」

つまりハードでタフな軍隊のトレーニングを続けることで、背嚢のベルトや銃の突起などが擦れて生じる ”ほつれ“ を再現したダメージなのだ。そのためにどのあたりに、どのようなカタチで、どのくらい深くダメージを演出するか、デザイナーや工場のスタッフを交えて検討を続けたという。そしてそのイメージに沿うように、1着ずつ、石やドリルを使い分けながら、手作業でダメージを加えていった。だがイメージした仕上がりは、目につきやすい加工だけでは完結しない。大角さんはこう続ける。

「せっかくこだわって作るのだから、とってつけたかのように、新品を古着っぽくしましたね、と思われたくはありません。であれば、表面にほつれるが出るほどダメージが出ているのであれば、生地全体が新品のような質感ではおかしい。だからオリジナルの1000シリーズはワンウォッシュかけてから店頭に並べましたが、この限定版1000シリーズは何回も洗い加工を加えています。とはいえ、このスウェットシャツは古着屋で買うものではありません。買う人は当然新品だと思っています。やりすぎて生地にくたびれた感じが出すぎたり、色が褪せたりしないよう洗いの程度には気をつかいましたね」

いくら古着らしさにこだわったとしても、それがパーフェクトだからといってみんなに評価されるというわけではない。思い出してほしい、これまで着て、洗って、着て、洗ってを繰り返した服の袖口が毛羽たって薄くなり、ほつれてボロボロになってしまったことはないだろうか。大角さんも若いころ、お気に入りだったスウェットシャツで同じような経験をしたという。

「本当の古着であれば、ヨレヨレになった袖口も味なんです。けれど新品であれば、みすぼらしく感じてしまいます。限定版のコンセプトとなったダメージは、こうした印象を与えるものにしたくなかった。どんな加工をしていくのか悩んだ部分ですね。ダメージとはいえ、遊び心が伝わるものを目指しました」

“オリジナルの1000シリーズ“ ではスウェットシャツの原点、そして今回の「限定版1000シリーズ」で加わったユーズド。これらのあるべき姿への最大限のリスペクトを示しながらも、こうしたこだわりに敏感に反応する ”服マニア” でなくても、気軽に手に取って、いい感じだなと思ってもらえる服でありたい。これは限定版へとバージョンアップしても変わらない大角さんの思いだ。

一方、「限定版900シリーズ」はまた異なる進化を見せる。こちらで注目したいのがスウェットのカーディガンだ。もちろん “オリジナルの900シリーズ“ にもラインナップされていたアイテムで、こだわりの素材には変化がない。スウェットシャツやパーカはニューバランスに限らず、多くのスポーツブランドも手がけているが、カーディガンとなると、なかなかお目にかかることがない。

“オリジナルの900シリーズ“ のイメージはカレッジテイスト。古き良き時代のアメリカの大学の生協に、ラフに積みあげられて売られているイメージだった。ここに何かをプラスアルファするのであれば…? レタード風に大きなアルファベットのワッペンなどをつけたら、それらしいのではなどと思えるのだが、大角さんが考えていたのは別なアイデアだった。

「もちろんレタード風にするのもアリですが、自分としてはそれってフツーかなと。しかも世の中には、カレッジテイストの服がたくさんあるし、なによりアイビーテイストを差し込むだけでは、ニューバランスらしさは伝わらないように思えたのです。そこで私たちの原点であるスニーカーに目を向けました」

「限定版900シリーズ」のカーディガンは、前身頃の肩の周辺とボタンが並ぶ前立て部分のカラーが切り替えられている。ただこうした切り替えしを利かせたデザインはめずらしいものではない。また用いるカラーも限りなく想定できる。そこで「限定版900シリーズ」は、カラーの組み合わせのお手本を、ニューバランスのスニーカーに求めた。

参考にしたスニーカーは ”57/40“(画像下) 。オフロードランニングというジャンルを生み出した ”576” のデザイン、機能を引き継ぎついだライフスタイルモデルとして、ファッションシーンでも脚光を浴びた名作 ”574“ をモダナイズさせている。「限定版900シリーズ」のカーディガンやパーカは、今、もっとも勢いのあるニューバランスのスニーカーのカラーをマルチに配色している。これならニューバランスらしいストーリー感が加わり、作る側も、手に取る側もなるほど、と感じるはずだ。

さらに大角さんには、スウェットシャツでも、パーカでもなく、カーディガンというアイテムだから果たせる役割もあると考えている。

「カーディガンは上品さをうまく表せるアイテムなんです、ボタンを締めても、外したままラフに着ても。“山の手感” とでもいうのでしょうか、そこを大事に考えました。切り替えしのデザインでも、カラーのセレクトが奇抜にならないようにしたつもりです。誰もが着られて、おもしろいな、いい雰囲気だな、がカーディガンらしさを生かす落しどころでした」

それぞれに新たな方向性を見せてくれる「限定版1000・900シリーズ」。そのこだわりやアイデアは、私たち、着る側を置いてきぼりにしたりはしない。なぜなら、そこには老若男女を問わず、ライフスタイルの傍らにあり続けてきたスウェットという生地へのリスペクトがあるからに違いない。

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