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プラス思考になれるトライアスロン。“ヴェルディの蔵本葵”として走り続けるわけ。

小学5年生のときに出会ったトライアスロンに魅了されて以来、20年以上、この競技一筋で向き合ってきた蔵本葵。オリンピック種目としても知られる「トライアスロン」は、一方では、己の肉体を酷使し、水泳、自転車、ランニングの3種目をこなす“ハードなスポーツ”という印象がある。幼少期から彼女は、この競技とどのように向き合い、成長してきたのか。高校時代から所属する東京ヴェルディのエンブレムを背負う彼女の、人一倍パワフルかつエネルギッシュな人柄と、キャリアを紐解いていく。

■クレジット
インタビュー=北健一郎
文=本田好伸
写真=東京ヴェルディクラブ提供

■目次
苦しさがトライアスロンの良さ
往復120キロのロードが楽しみ
ヴェルディといえば蔵本になりたい

苦しさがトライアスロンの良さ

──蔵本選手がトライアスロンと出会ったきっかけを教えてください。

蔵本葵(以下、蔵本) 父がトライアスロンをしていた影響で、小学5年生のときに「やってみよう」と試合に出たのが最初でした。それまでは競泳をしていて、表彰台に立ったことがなかったのですが、トライアスロンの最初の試合で2位になりました。2位になったことも嬉しかったですが、副賞でお菓子をもらえたこともうれしかったですね。、

──初めて出場した大会で、トライアスロンの魅力を知ったんですね?

蔵本 モノに釣られてハマっていきました(笑)。その最初の大会は川越市で行われた小学生向けのトライアスロンでした。もともと短距離より長く走るほうが得意だったので「この競技はなんか向いているな」と思ったことを覚えています。

小学5年生の部で2位になって、その後は全国大会にも出場して3位になりました。トライアスロンは関東が主流のスポーツで、全国大会でも関東の人が上位を占めているなかで成績を残せたことが楽しくて、始めていきました。

──トライアスロンはすごく過酷そうなイメージがあります。この競技の魅力はどこにありますか?

蔵本 取り組んだことがすぐに結果に出ないところですね。コツコツ取り組んで、ようやく結果が出るところが自分の性格にすごく合っていると思っています。

辛抱強く練習するのが好きで、トレーニングも好きです。何日間も同じメニューをこなしていくうちに、徐々にできなかったことができるようになる。そうした確認作業がすごく楽しくて、どんどんハマっていきました。

──「苦しい」、「ツラい」と思うことはないのでしょうか?

蔵本 それはよくあります(笑)。レース中はどうしても苦しいですし、「あきらめたい」と思うこともありますが、無我夢中で頑張って、ゴールしたら「やっぱりもう1回やりたい」と思うんです。なぜかと言うと、トライアスロンは運も関係しているからです。

──運ですか?

蔵本 1人で取り組むスポーツですが、出場選手が多く、常にいろいろな駆け引きが必要になります。例えばバイク(自転車ロードレース)に関しては、自分の力ではどうにもできないような運や駆け引きがある。

なので良かった試合は「あのときは運が良かった」と思えますし、良くなかった試合は「こういう展開になっていたらもっと良かったかもしれない」と考えて、さらに頑張れる。

不運なこともあるからこそ、逆にラッキーなことがあればもう少し順位が上がっていたかもと思える。自分だけではなく“運のせい”にもできるので、次に期待を持てることが多いのかなと思います。

「苦しかったけど今日はダメだ」ではなく、「苦しかったけれど、あの場面で運が良ければ前に行けたかも」とプラスに思えるので、トライアスロンはプラス思考になれます。

──トライアスロンは、スイム(水泳)、バイク、ラン(長距離走)の3つを順番で行ないますが、蔵本選手が得意としている種目は?

蔵本 競泳出身の選手はスイム、陸上出身の選手はランが得意というケースが多いですが、私は小学生から競技を始めたので、どれか一つが得意ということはなく、トータルでまとめることが得意ですね。

それと、悪条件は得意です。暑いレースや極端に寒いレース、雨が降っていたり、風が強かったり、「天候」には自信をもっています。

──逆に「やってやろう!」と思える?

蔵本 「よっしゃ、暑くなった!」と気合が入るタイプです(笑)。

──体力も自信があるのではないですか?

蔵本 そうですね。体は小さいほうなので、スイムではスタート時点で体の強い外国人選手とぶつかるなどとして遅れをとってしまいがちです。でも体力はあるので、後半から追い上げていく強みがあります。「気象条件に不利を感じない後半追い上げ型」というところでしょうか。

──悪条件に強いということは、メンタルにも自信がある?

蔵本 コーチ陣からはよく「粘り強い」と言われます。レース中にいなくなったと思われていたところから復活するタイプです。逆に、前半から前の選手についていくことが課題ですね。

──トライアスロンは、20代から転向してくる選手も多いそうですね。

蔵本 そういう選手もいますが、トップ選手の多くは、ジュニアの頃から取り組んでいるケースが多いです。

──幼い頃から競技に接している方が有利ということですね。それはトライアスロンの競技に特化した鍛え方や戦略が重要だから?

蔵本 レース勘は、まさに経験が必要です。それに、競泳や陸上出身で自転車を習っている選手はあまりいないですが、バイクの区間が一番長く、テクニックも必要です。

20歳を超えてから自転車に取り組むと、順応までに時間を要してしまう。ジュニアの頃からやっている選手のほうが器用に自転車を扱えるという意味でも、トップ選手には競技歴が長い方が多いと思います。

──トライアスロン選手の平均年齢はどれくらいでしょうか?

蔵本 2020年の日本選手権で優勝した先輩の上田藍さんは37歳です。北京五輪で、日本人で初めて5位入賞した井出樹里さんも37歳です。みなさん、年齢を重ねても強いということは、体が丈夫ということだけではなく、しぶとさやレース勘、それに効率よく練習できているということもあるのかなと思います。

──純粋な体力勝負だけではなく、駆け引きや戦略性は経験も重要なんですね。

蔵本 その通りです。夏場は特に海外遠征が多いのですが、最初の数年は時差や移動で疲れてしまうので、その環境に適応するだけで3、4年はかかります。それから自分の力を発揮できるようになると考えると、30歳を過ぎてからリズムをつかむケースが多いのかなと思います。

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