東京Vユース出身のeスポーツ選手らんこむ。「ゲーマー=暗いというイメージを変えたい」

東京ヴェルディのアカデミーでプロ選手を目指していたサッカー少年は、今、別のピッチで新たな夢に向かっている。eスポーツプレイヤーとして、東京ヴェルディに所属するらんこむ選手。eスポーツに懸ける想いとは? 前代未聞の挑戦を続けるらんこむ選手に迫った。

■クレジット
取材=北健一郎
文=原山裕平

■目次
大学でサッカーを辞め、eスポーツプレイヤーの道へ
一番リアルなウイイレはサッカー経験者の方が有利?
ヴェルディのエンブレムに恥じないようにしなければいけない
eスポーツプレイヤーという道があることを見せたい

大学でサッカーを辞め、eスポーツプレイヤーの道へ

──らんこむさんは現在、eスポーツプレイヤーとして活動されていますが、かつては東京ヴェルディのユースチームに在籍していたそうですね。

らんこむ 小学3年生からサッカーを始めて、ヴェルディのスクールに入りました。そこから高校3年生までの9年間、ヴェルディのアカデミーでプレーしていました。大学でも少しだけサッカーをやっていましたが、続けることが難しくなり辞めてしまいました。

──らんこむさんは現在29歳ですが、当時憧れていた選手は誰ですか?

らんこむ ヴェルディとは関係ないんですけど、小野伸二選手が好きでした(笑)。

──ご自身もテクニシャンタイプだったのでしょうか?

らんこむ 足下の技術に特化したタイプでした。ヴェルディのプロの試合を見てもらってもわかると思いますけど、ヴェルディの選手はとにかく足下が上手い。ですが、そのなかでも教えてくださった方が熱い方だったので、ファイティングスピリッツも備わっていたと思います。

──プロを目指していたそうですが、大学でなぜサッカーを辞めてしまったのでしょう?

らんこむ 高校までは本気でプロを目指していましたが、大学サッカーでは、クラブとは違う部分が多くて、面白みを感じられなくなってしまったんです。ゲームの方が面白くなってしまいましたね。

──ゲームと出会ったきっかけはなんだったのでしょうか?

らんこむ 小さい頃に友達の家に集まって、スマブラ(大乱闘スマッシュブラザーズ)とかをやっていて、その延長線上ですね。ウイニングイレブンをみんなとやり始めて、そこからはまっていった感じです。

──そこからeスポーツプレイヤーには、どのような経緯でなられたのでしょうか?

らんこむ 初めは遊びでやっていましたけど、大学生くらいになると知識もつくので「ゲームも上手いし、何かできたらな」とはずっと考えていました。

その頃は「eスポーツ」という言葉は浸透していませんでしたし、「ゲーミングチーム」なんて言葉もありませんでした。でも「このゲームで活動できればいいな」とはその頃から思っていました。

それからしばらくして、「eスポーツ」という言葉が流行りはじめて、「ヴェルディeスポーツ」が立ち上がり、ウイニングイレブン部門ができるということを知って「これはもう、俺しかいないんじゃないか」ということで、入らせていただきました。

──「自分はゲームが上手い」と感じたきっかけはありますか? 例えば大会に出場したり、オンラインのランキングなどで客観的に見て「上手い」と感じたのでしょうか?

らんこむ オンラインでは全然負けなかったですね。試合を重ねるなかで、「ああ、自分は上手いんだな」というのはありました。

──ちなみに、らんこむさんはゲーム全般が上手いのですか。それともウイニングイレブンに特化して上手いのか。どちらですか?

らんこむ 今流行りのAPEXというFPSのゲームがあって、これも得意としています。やれば全般的になんでもできると思います。

一番リアルなウイイレはサッカー経験者の方が有利?

──ゲームが上手くなるためのコツはありますか?

らんこむ 自分が好きなゲームをやることじゃないですかね。嫌いなゲームはなかなか難しいと思います。みんなそれぞれ好きなゲームがあると思うので、そのゲームをやり込めば、プロゲーマーになれる時代だと思います。

──今の時代、どんなゲームでもプロがあるのでしょうか。

らんこむ 僕も考えられませんでしたが、今だと「ぷよぷよ」のプロゲーマーもいるくらいですからね。どんなゲームでも、今はプロの道に挑戦できると思います。

──よく子どもの頃に「ゲームをやりすぎるといい大人になれないぞ」なんて言われますよね。

らんこむ そうですね。僕がオンラインをやっていた頃は実家だったので、やり過ぎは良くないと思っていました。隙間、隙間で親に迷惑かけないようにやっていました。

──1日何時間くらい練習をされていたんですか?

らんこむ 親が寝てから夜中にこっそり3、4時間くらいオンラインをやっていましたね(笑)。今は1日1時間くらいです。ある程度までやると、やっても、やらなくてもあまり変わらないんですよ。ですが最初の頃は上手くなるために、ずっとやっていましたね。

──トレーニングのような感覚ですか?

らんこむ そうですね。大会前は集中して1日3時間とかやることもありました。ただ普段は特別何かをすることはないですね。

──ヴェルディにeスポーツチームができた時、らんこむさんは自ら売り込みにいったそうですね。

らんこむ その時はTwitterで募集がかかっていたので、それを見て応募しました。次の日に、DMですぐにメッセージをくださって。その次の日にイベントがあり、いきなりそこへ参加することになりました(笑)。

──全然イメージができないのですが、eスポーツプレイヤーは、普段どんな生活をしているのでしょうか。

らんこむ このご時世、eスポーツだけで活動するのは難しい部分もあるので、昼間は他の仕事をやっている人が多いと思います。週末にイベントが入ってくるようなスケジュールですかね。

──らんこむさんはeスポーツプレイヤーとして食べていけているのですか?

らんこむ 僕もeスポーツプレイヤー以外の仕事をしています。家庭もありますので、そちらも上手くやりながら、イベントもこなしながら、あとはフットサルの活動もしています。

──サッカー経験がeスポーツに生きる部分はありますか?

らんこむ たかがゲームといえど、対戦すると「あっ、この人サッカーやっていたな」というのがすぐにわかります。サッカーの感覚と言うんですかね。戦術の理解度もそうですが、やはり経験者とそうでない人とでは差が出ます。

ウイニングイレブンはすごく繊細なゲームで、身体の向きひとつで、パスを上手く出せたり、出せなかったりします。変な体勢でボールを蹴ろうとするとパスは繋がらない。そのあたりのセンスがある人は、サッカーをやっていたんだろうなと感じます。

──リアルなんですね。

らんこむ そうなんです。ウイニングイレブンはサッカーゲームの中で一番リアルだと思います。ウイニングイレブンのプロのeスポーツプレイヤーは、有名なチームでプレーしていた人が結構多いですね。

──らんこむさんのウイニングイレブンでのプレースタイルは?

らんこむ 繊細なパス回しだったり、他の人にはマネできないループシュートだったりとか、そういうプレーが得意ですね。

他には気持ちの方が強さです。良い言い方をすれば、余裕がある。悪い言い方をすると相手を見下しているというか(笑)。

例えば年に2回大きな大会があるのですが、東京で行われるのでヴェルディのスタッフの方も多くいて、僕らはホームゲームのように強気で向かっていけるんです。そういう心構え、気持ちの強さがあると思っています。

ヴェルディのエンブレムに恥じないようにしなければいけない

──なんでも、東京ヴェルディeスポーツチームにはメンタルトレーナーもいるそうですね。

らんこむ そうです。僕が初めて会ったヴェルディのスタッフは、メンタルトレーナーもやられている方でしたね。メンタルについてすごく詳しいので、そういうサポートをしてくれています。

──具体的なにどのようなサポートを?

らんこむ 例えば「こういう場面はこうした方がいいんじゃない?」とアドバイスをしてくれます。あと、チーム内で衝突することも結構あるんです。例えばメンバーを決める時に「ここは俺と組んだ方がいい!」とか。そういうギスギスした時に「こうした方がいいよ」と意見をもらっています。

──国内の大会だけではなく、タイリーグにも参戦しているそうですが、そちらの成績はいかがですか?

らんこむ 環境の違いや多少のラグもあるので、なかなか上位には入り込めていない状況です。相手との戦いというよりも、オンラインでの戦いにみんな苦しんでいる部分はありますね。

細かいことを言うと、アジアサーバーもこちらからすると若干不利です。相手の方が動きが早くなるので。それでも、どうにかして勝たなければいけないので、なんとか結果を残したいです。

──タイ人の選手はレベルが高いのでしょうか。

らんこむ 聞いた話では、1日何十時間もウイニングイレブンをやっているそうです。ウイイレ熱がすごいですね。

──国によってスタイルの違いはありますか?

らんこむ タイ人に関しては、前へ、前へと速いパスを放り込んでくる大雑把なタイプが多いですね。それに比べて日本人の僕らは、丁寧に丁寧に繋ぐスタイル。そういう違いがあると思います。

──らんこむさんにとって、東京ヴェルディのエンブレムを背負うことに特別な思いはありますか?

らんこむ 数年ぶりにまたユニホームを着ることになって、懐かしい気持ちがあります。ただ、室内でユニホームを着るという新鮮な気持ちもあるので、「新たな場だな」とも感じています。このエンブレムを背負っているので、それに恥じないようにしなければいけないですし、負けてはいけないと日々思っています。

──らんこむさんの日本での実力は、今どれくらいなんでしょうか。

らんこむ 最近は大会があまりないのですが、一番最近の大きな大会で言えば、JeSU(一般社団法人日本eスポーツ連合)さんが主催したeスポーツグランプリという大会で準優勝しました。今はウイニングイレブンも1対1ではなくて、2on2の大会が流行っています。僕が出たのも2on2の大会で、そこで準優勝しました。

──2on2となると、チームメイトとの連係が重要になってきますよね。

らんこむ そうですね。ただ、息が合えば、1人でやっているような感覚に陥ります。「ここはこっちだろうな」というのが、お互い分かってくるようになるんですよ。

eスポーツプレイヤーという道があることを子どもたちに見せたい

──昔は「YouTuber」なんて言葉もありませんでしたが、今では子どもたちのあこがれの職業になっています。それと同じように「eスポーツプレイヤー」を目指している子どもも、今ではたくさんいると思います。そんな夢を持つ子どもに対し、保護者はどのように向き合うべきだと思いますか。

らんこむ eスポーツというか、ゲーマーって暗いイメージがあるじゃないですか。それを覆すためにもフットサルの活動も含め、eスポーツの明るい部分を見せられるように、活動していけたらなと考えています。僕も子どもを持つ親の身であるのでわかりますが、お子さんがゲームをすることを良くないと思っている親御さんは多いと思います。ただ、もちろん勉強は大事ですけど、そういう道があるということも、頭の片隅に入れていただきたい。

そしてお子さんからそういう話があったときには、その夢を頑なに閉ざさないでいただけたらなと思います。

今は小さいゲームのタイトルでも食べていけるような時代に、少しずつなってきていると思いますし、これからさらに可能性は広がっていくはずです。個人的にはeスポーツプレイヤーの数がもっと増えてくれたら嬉しいですし、一緒にやれたらなと思っています。

──趣味として夢中でやっていたものが、仕事になる。それって素晴らしいことですよね。

らんこむ 僕の場合はウイニングイレブンをガチでやっていますが、APEX  LegendsというFPSのゲームを趣味としてやっています。

それで、手越祐也くんがそのゲームのメンバーを募集していたので応募したらそれに通って、共演させていただいたこともありました。趣味でやっていたことが、人との繋がりを生み出す。そういうことがあるということも、伝えたいですね。

■プロフィール
らんこむ

小学3年生の時に東京ヴェルディのスクールに入り、中学、高校はジュニアユース、ユースと9年間プレー。ヴェルディ出身らしいテクニシャンタイプの選手として活躍する。大学生になってからもともと自信があったゲームの腕前を磨く。東京ヴェルディのeスポーツチームの発足とともに加入。ヴェルディのエンブレムを背負って各種大会に出場するなど、プロゲーマーとして活動している。

Twitter:https://twitter.com/rancom_san
YouTube:https://www.youtube.com/channel/UCro-SUphip-e0Z94t-KXE9Q

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