
11月14、15日に日本サッカーの聖地であるJ-VILLAGEで開催された「第1回全国シニアサッカー大会O-40」、通称“裏・選手権”。
同大会を発起人・プロデューサーとして立ち上げたのが中村篤次郎さんだ。1人のアマチュアフットボーラーの強い思いが出発点となって始まった、大人が真剣に遊べる場所とは。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
真剣に遊ぶから得られる達成感がある
——これだけ大掛かりな大会になると、もしかしたら“表”を超えてしまう可能性もあるのでは……。
いえ、私としてはこの大会の価値がJFA主催のものを超えることは絶対にないと思っています。開会式でもお話したのですが、「来年度はここで会いたくありません」と。みなさんが目指すべきは、あくまでも“表”の大会なので。この価値が今後も変わることはありませんし、不変なものだと思っています。
——この大会に出場されたようなシニアの選手たちは、なぜここまで膨大な時間やいろいろものをかけてでも、サッカーをやるのでしょうか。
「真剣に遊ぶ」というのが大会の一つテーマです。ある程度努力というか、なにかを犠牲にしないと得られないものもあると思うんです。とはいえ、エンジョイのサッカーを否定するわけではなく、それはそれで楽しくて素晴らしいと思います。でもやっぱりガチンコでやるからこそ芽生える友情や向上心というのはあるんじゃないかなと。
——例えば登山も登るのは苦しいだけだけれど、登ったときの景色の美しさや達成感があるから人は山に登るというのがよく言われますよね。シニアの選手たちもまさにそんな感じなでしょうか。
おっしゃる通りで、努力したからこそ得られる達成感というのはやった人にしかわからないと思います。でも、スポーツの魅力はそれだけではないですし、エンジョイしたい人のための大会というのはたくさんあります。自分が大会を作るのであれば今までなかった真剣にやってきた人たちのための大会をやろうと思ったんですね。
——実際の試合自体はどんな内容だったのでしょうか?
個人賞を主催者側が選出しなければいけないので、試合もちゃんと観ました。スタッフだけでは心許ないので主審の方にも協力していただいて、気になる選手をチェックしてもらったりしていましたね。
——ちなみにMVPは?
優勝した羅針盤倶楽部NAGOYAのDFの6番・内藤洋平選手です。優勝を決めゴールをしたり、守備面でも非常に効果的なプレーを見せていました。全会一致でMVPに決まりました。
衰えるからこそ挑戦をやめないことが大事
——この裏選手権でも悔しい思いをするチームも当然あるわけですよね。来年も出場してリベンジを果たしたいというチームもあるのでは。
先ほども言ったように、来年もここを目指してほしいという言葉は私たちからは言いません。ただ、結果的に表のほうで出られなかったとしたら、またここで優勝を目指してほしい。我々としてはそのための場を準備してお待ちしています、ということだと思っています。
——SNSやメールなどでの感想は、どんな内容が多かったのですか?
アンケートでは全員が感謝の言葉を書いてくれていて感動しました。他県の強いチームとできたとか、素晴らしい環境と運営だったとか。来年は本大会を目指してくださいというのは言い続けているので、みなさんにも浸透しつつあります。でもアンケートメールでは、またぜひ参加したいという声がとても多かったです(笑)。この大会が2021年度の本大会に向けた1試合目だとするならば、もう新たな戦いはスタートしている。選手たちには本大会に向けて糧となるものであってほしいです。
——高校生の大会の場合、3年生の大会が終わったらそこで終わりですよね。でもシニアの選手の場合、自分がまだやれる、やりたいと思っていれば引退はありません。ただ年齢を重ねながらやっていくのは簡単でもないですよね。
はい。簡単ではありません。体力というのはやっぱり落ちていくものなので、維持するということがまず大変です。でも今大会でベストゴールキーパー賞を受賞したのは羅針盤倶楽部NAGOYAの50歳の小縣昭人選手でした。40歳を10超えても選ばれるわけです。それには理由があるし、努力もされているはずです。やっぱりそこで挑戦をやめないということが大事なんだと思いますね。
シニアサッカーの未来予想図
——シニアサッカーは今後どうなっていくと思いますか。
これだけシニアの大会の情報が発信されていれば、じゃあ自分もちょっとやってみようかなと思ってくれる人が増えていくはず。そうなれば日本のサッカーのためにもなるだろうし、生涯スポーツにおいてもすごく有益なことだと思っています。個人的に問題だと思っているのが、Jクラブが今各都道府県に1クラブ以上あるような状況になってきているにもかかわらず、トップの下にアンダーカテゴリーしかないわけですよね。
——確かに、Jリーグでシニアチームを持っているという例はほとんど聞きません。
オーバーカテゴリーのチームを持っているJクラブは1つもないわけです。例えば総合型地域スポーツクラブを標榜していたり、生涯スポーツで健康になりましょうと言っているにもかかわらず、そこはまだ触れられていないところなんですよね。だからこそJクラブが本来はシニアのクラブをちゃんと作って、同じエンブレムでOB選手だけでなく、それがサポーターでもスタッフでもいい。そういうチームができて、こういった大会に参加したり、ゆくゆくはJクラブのシニア選手権が開催されても良いと思っています。そういう世の中を作っていきたいと思っています。
——壮大な話にも聞こえますが、その確かな一歩目がこの大会というわけですよね。
そういった未来予想図というのをちゃんと描いています。オムロンヘルスケアさんのような大企業が賛同してくださった理由の一つに、こうした未来の可能性も入っているのではないでしょうか。また、近い将来JリーガーのOBチームを招聘するということを視野に入れています。もしくはどこか特定クラブのOBチームとか、クラブの名前がついたチームを1チームでもいいから招待したいなと。さらに発展させるならば、「シニアワールドカップ」というのをやりたいんです。例えばオムロンヘルスケアさんも、やはり世界に拠点があるわけですよね。その拠点があるところからチームを出してもらったり、サポートしていただいて日本に来ていただくということができればいいなと。
——最後にシニアの選手たちに向けてメッセージはありますか?
今回、大会の運営を福島県の尚志高校サッカー部の生徒たちが18人も来てくれました。この大会に出場するような選手たちには、「こんな大人がいるんだ」「40や50になってもこうやって真剣に遊んでいる人たちがいるんだ」という目標になってほしいと思っています。また、次のステージとしては50歳以上の大会をやりたいです。今40代の人たちはいつか必ず50代になり、60代になっていくので、年齢のカテゴリーを徐々にあげて、大会を増やしていくことも課題の一つになっていきます。それからガチンコはちょっと……という人たちにも門を閉ざしているわけではないので、レベルに合わせて楽しめる舞台も用意できたらなと思っています。
——まだまだ、たくさんやりたいことがあると。
はい。いろいろな未来予想図があるからこそもっと仲間を増やさなければ、その夢を実現させることはできないと思っています。だからそれを実現するための行動力と実行部隊の仲間が必要なので、我々の理念に賛同してくれて信頼をおける仲間をこれからもっと増やしていきたいですね。
Vol.1「40歳以上が真剣に遊べる場所をつくる」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fc4b19a7de7fd51c20ace12
Vol.2「本当はこの大会に出てほしくない」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fc4b2dcfe0298563f54f492
■プロフィール
中村篤次郎(なかむら・あつお)
1970年、神奈川県横浜市生まれ。不動産営業を経て、ツエーゲン金沢の立ち上げに携わり、初代GMに就任。その後、FC東京の営業部を経て、メットライフ生命にて保険コンサルタントとして働く。会社員のかたわら、毎週末サッカーをプレーするアマチュアフットボーラー。ポジションは主にサイドバック。「全国シニアサッカー大会O-40」、通称“裏選手権”を発起人・プロデューサーとして立ち上げる。
■クレジット
取材・構成:Smart Sports News 編集部
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