革命的、2024開幕構想。ハンドボールが選んだ「第3世代」のプロリーグ #JHL #ハンドボール

大事なのは「プロか、プロじゃないか」ではない

──新リーグ構想を発表する前後から、各所への説明や説得などもあったと思います。ステークホルダーのリアクションは、賛否を含めてどういったものでしたか?

葦原 最終的に「参入希望」の手を挙げてもらう期限は、2022年3月末です。一つひとつのチームに賛成や反対を聞いてはいませんが、本当に長い期間を費やして議論や説明をしてきました。会見でもお話ししましたが、「シングルエンティティ」や「デュアルキャリア」という、新リーグの大枠となるコンセプトは基本的にチームの皆様から賛同を得ています。

ただし、参入条件はセンシティブな内容で、全員が120点の状況ではありません。リーグとしても、もっとこうしたいという本音もあります。でもさすがにそこまで求めるのは厳しい、ということもありますからね。参入条件についてはいろいろな意見をもらっていますが、次のステージに上がるために最低限このラインを突破してもらわないと“変わった”ことにならない、というものです。私がずっと言っているのは「フワッと変わったふうに見せても仕方ない」ということ。本質的に変わらないと、変わらないですから。

──11人以上のプロ選手、1500人以上のアリーナ、地域名を入れること、U-12のユースチームを持つなど、8つの項目があります(※レギュレーション参照)。地域名を入れることについては、JリーグやBリーグのような地域との関わりを大事にする方向性ですか?

葦原 そうです。何にロイヤリティを持たせるかという話で、選手というやり方も、実業団やチームというやり方も、リーグというやり方もあります。でもやはり最強なのは地域。これはいろいろと考えましたが、一周まわってこの結論となりました。

国内でも世界でも、結局はそうですよね。ニューヨーク・ヤンキース、FCバルセロナ、北海道日本ハムファイターズ、浦和レッズ……それに、高校野球の甲子園もそうですよね。みんな地域なわけです。地域以外のロイヤリティの作り方がもしかしたらあるかもしれないと考えましたが、やはり見えづらく、不確実性が高い。地域は外せないな、と。

──なるほど。

葦原 Bリーグのときの例で言えば、東芝などは典型的な実業団チームで、「福利厚生でしかやらない」と話していました。

つまり、社員のためにやっているわけです。勝った負けたで盛り上がり、社員の一体感をつくる。経営者として当たり前の考え方で、そのためにバスケのチームを持つことはある意味合理的だと思っています。ですが彼らはプロ化して、「最終的にプロ化して良かった」と。

元々、企業名を入れたチーム名で、試合に無料で社員をたくさん導入して、応援コールも「東芝、東芝」という、“社員のための”ものでした。でも、プロ化して良かったという話をいろいろ聞いていると、最終的にはプロ化したほうが会社のためになっているようです。

地域のために一生懸命やれば、地域の人たちがたくさん見に来てくれて、応援コールも地域名に変わっていく。彼らはチーム名から「東芝」を外し「川崎ブレイブサンダース」にしました。徐々に人気が増えて、今ではチケットが取れないくらいです。社員は、イヤイヤ動員されていた人もいたでしょうが、人気が出てくれば、自らの意思で来るようになる。地元の人が「川崎、川崎」と応援するから、自分たちも取引先と仕事がしやすくなるし、誇りも持てる。

こういう効果こそ、目指すものです。今回、実業団への説明の際には、「会社のためにやる」ことは否定していません。ただし、「会社のため」にもいろんな方法がある。会社のためか、地域のためかではなく、地域のためが、会社にも返ってくる、と。それは引いては、「会社のため」なわけです。

──二極化して決めない、ということですね。

葦原 そうですね。多くは、0か1かで議論してしまう。「プロか、プロじゃないか」もそうですね。プロかどうかはラベルの問題でしかないので、最後に議論すればいい。「プロ」の定義も、「プロリーグ」の定義も、明確なものは誰もしていませんから。

私たちには、17個の論点があり、それを一つずつ議論しましょうと。そうして決めたら、最後にそれをもってプロリーグと表現するかどうかという、決めの問題です。

世の中のプロリーグの議論は、みんな「プロにするか、しないか」からスタートします。それで、プロと聞いた瞬間から、多くの実業団チームは「イヤだ」となる。そういう流れが一般的にはありますけど、半か丁をすぐにつけないことは重要なポイントだと思っています。

(資料提供:日本ハンドボールリーグ)

コロナ禍の話も一緒です。昨夏みんな「東京五輪をやる、やらない」と議論になりましたけど、そうではなく、真ん中もある。0か1の議論はある意味かっこいいけど、思考停止になりやすい。その深いところに議論がたどり着かずに感情やフィーリングで物事が決定してしまう。

もう少しブレイクダウンした状態で本質的な議論をすることは、スポーツに限らず世の中の全体に言えることではないかなと。そうしないとうまく進まないと感じています。

後編へ続く

■プロフィール
葦原一正(あしはら・かずまさ)

1977年生まれ。外資系戦略コンサルティング会社、オリックス・バファローズを経て、2012年より新規参入したプロ野球の横浜DeNAベイスターズに立ち上げメンバーとして入社。 2015年、「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」に初代事務局長として入社し、男子プロバスケの新リーグ 「B.LEAGUE」を立ち上げ。2020年、「株式会社ZERO-ONE」設立。 2021年4月、「一般社団法人日本ハンドボールリーグ」の設立に伴い、初代代表理事に就任。同年12月、2024年にスタートするハンドボールの新リーグ構想を打ち出した。

Twitter:@kazu_ashihara

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