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「コンパクトアリーナにはポテンシャルがある」スポーツ界の新たなリーダー・葦原一正が語るハンドボールの黒字化がラグビーよりも簡単な理由

UPDATE 2021/07/24

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プロ野球の横浜DeNAベイスターズや男子プロバスケットボールリーグB.LEAGUEの立ち上げに携わり、B.LEAGUEでは初代事務局長を務めた葦原一正氏。スポーツ界の新たなリーダーが次に選んだ競技はハンドボールだった。

なぜ葦原氏はハンドボールを選んだのか──。ハンドボールなど多くのアリーナスポーツの可能性が関係していた。

「SmartSportsNews」の独占インタビューをお届けする。

「昭和的な雰囲気」だったハンドボール

──葦原さんはBリーグを退任してフリーになられて、ハンドボールの代表理事に就任されました。これまでにハンドボールをいろいろな角度から見て、他のスポーツとの優位性はどこにありますか?

一番大きい部分は、アリーナビジネスの面です。特に定員が2〜3000人のコンパクトアリーナは極めて大きなポテンシャルがあると思っています。沖縄アリーナのように1万人が収容できるアリーナは凄いですし憧れますが、一方、今は音楽やエンタメ界でも求められているのはコンパクトアリーナであったりします。今のハンドボールからするとそれくらいがちょうどいい規模ですね。着実に成長していけばそれが全国各地にできる可能性があると思っています。。

──コンパクトアリーナが増えることでスポーツに触れる機会が多くなります。

地方については札幌や福岡などの大きな都市をイメージしがちですが、実態は小さな街がいっぱいあります。その街の真ん中にスポーツに触れられるコンパクトアリーナができると、日本で真の意味でスポーツが根付く瞬間になると思っています。ハンドボールはそれくらい小さなアリーナで行うことができます。また、スポーツの特性上、スピードが早くてコンタクトが激しい。一般の方にはあまりイメージが湧かないと思いますが、スポーツとしても面白いです。

──葦原さんが初めてハンドボールの競技を見たのはいつ頃でしたか?

これまで見たことがなかったので、オファーがあって、受諾が決まってからすぐ見に行きました。学生時代に体育などでやったことがある方も多いですが、私は全くやったことがないです。競技については本当何も知らない状態でしたね。

──当時見たリアルなハンドボールはいかがでしたか?

2015年などのNBLを思い出しましたね。会場はガラガラで昭和的な雰囲気。たまたま観に行った試合が、三重バイオレットアイリスのいつも使っている体育館とは違う古い場所だったので余計にそう見えたのですが、昔のバスケに近いイメージでした。

──その三重での試合を観戦されて、お客さんの層はどんな印象でしたか?

いつも使用しているアリーナとは違ったのでよくわからなかったですが、基本的に男性が多いなと。今も市場調査して結果を見ていますが、若い20〜30代の男性が多いです。

──そのなかで狙う客層はどこに置いていますか?

やはり若い人に来てもらいたいですね。年配の方がいらっしゃるのも嬉しいですが、どちらかといえば家族3世代でくる世界観がいいですよね。子供も安心してこられるような世界観です。

収支を整えるのはラグビーの10倍簡単

──お子さんのお話がありましたが、葦原さんが携わっていたバスケットボールは学校の体育で触れる機会があります。一方でハンドボールはそういう場が多くないなか、未知のスポーツに人を引き込む難しさはありますか?

日本の人口は約1億3000万人で、その全員に興味を持ってもらうことは嬉しいですが、簡単ではないです。一方でいきなりそこまでやる必要はなくて、ちゃんとターゲットを決めて一定の層に観てもらって、触れてもらうことが大事だと思います。

──狙いを持った層にハンドボールをしっかりと届けることが大事?

スポーツというと多くの人はマス・マーケティングでやりたがります。ラグビーやサッカーなどワールドカップの印象が強く、どうしてもマスで戦略を考えがちです。でもまず収支を整えていくことを考えるのであれば、そんな規模を追いかける必要はないです。今のハンドボールは大体2億円かかっています。その2億円をちゃんと回収するためには1500〜2000人くらいのお客さんを入れればいい。なのでいきなり1億人たちに訴える必要はないと思っています。

──実際にラグビーはかなり多くの費用がかかっていると聞きます。

ラグビーは20~30億円ぐらいかかっていると聞きます。その20~30億円の売上を作るのはなかなか大変なプロセス。ハンドボールでは過度な成長を求めるより、まず確実に2〜3億円を稼げるものを作った方がいいと思っています。

──大きなビジネスをやるのではなく、着実なビジネスモデルを作ることが必要?

ハンドボールはアリーナスポーツで、また選手数が少ないのでかけているお金は2億円くらいです。ラグビーの方が難しくて、選手数も多いですし、稼働率が低くなる天然芝のスタジアムを利用するので、収支をと整えるのがなかなか簡単ではない。確かに人気にさせるのはメディア露出も多いラグビーの方が簡単ですが、収支を整えるのはハンドボールの方が10倍簡単だと思っています。ラグビーのポテンシャルはあると思いますし、面白いしスポーツで私も好きですが、ビジネスの仕組みの作りやすさはハンドボールがやりやすい。サステナブルなモデルにしていくためにはまずは収支を整えることが大事だと思います。

──ハンドボールはマス・マーケティングではなくニッチ・マーケティングを考えている?

ニッチ・マーケティングという言葉が適切かはわかりませんが、いづれにせよそこはステップ・バイ・ステップですね。いずれは事業規模も大きくしていきたいですが、まずは2億円を使うなら、ちゃんと2億円を稼ぎましょうという話。ハンドボールがうまくいけば、他の競技団体にとっても希望の光になると思います。でもそんなに難しい話ではなくて、きっちりコツコツやればちゃんと良くなる。もしハンドボールがうまくいったら、他の競技団体にもナレッジを共有できればと思います。

ハンドボールの特性を活かした“処方箋”

──お話をお伺いしていると、あらゆる面でフットサルと立ち位置が近いと感じます。ただ、2007年に開幕したFリーグは成功しているとはいえない現状があります。果たしてハンドボールはそこをどう解決していくつもりですか?

これをやったら成功するというような方法はないです。ハンドボールの課題や特性を生かした“処方箋”を作っている段階です。具体的な内容については今後議論をしていくつもりです。

──“処方箋”とは、今ある課題を解決するための共通のガイドラインのようなもの?

そうですね。来週から各チームと話しますが、こういうビジョンだとこういうモデル、こういう考え方だとこうというパターンのように整理しています。それをもとに各チームと話し、最後は理事会で議論して決める流れです。

──各チームのヒアリングをしていくなかで、いいモデルになりそうなチームはありましたか?

どのチームも頑張っていますが、1チーム挙げるとすれば例えば三重バイオレットアイリスですね。地域に根差しているという意味合いにおいて、三重です。女子のチームで地元のたくさんの方々に支えられて、いわゆるクラブ型のチームです。社長も30代で、元々ドイツで7年プレーしていたのでドイツのクラブ型モデルも理解しています。よく頑張っていると思います。男子チームだと琉球コラソン。あそこは立ち上げて14年で、入場者数は一番多いです。

日本に必要なのはスポーツアリーナ

──他のアリーナ競技とハンドボールが一緒に伸びるイメージはありますか?具体的な連携も考えていらっしゃいますか?

私はアリーナスポーツ全体で連携した方がいいと思っています。今起きている現象として、アリーナ計画はたくさんありますが、このままでは音楽アリーナに近いものが多くできてしまう可能性があります。公設でやると競技者重視で体育館を作ってしまう。逆に最近は民設が出始めましたが、そこは当然ながら収支が大事になります。よって、スポーツアリーナを作るべきなのに、稼ぎ頭となる音楽の影響力が大きくなり音楽アリーナになってしまいます。

──今は音楽アリーナが増えてきている。

このままいくと「この国はスポーツアリーナでなく、音楽アリーナを日本中に作りたかったのか?」となります。私も音楽は好きですけど、日本全国に音楽アリーナや競技用体育館ばかりできても仕方ない。スポーツ庁でもお話しさせていただきましたが、「アリーナを作りましょう」の言葉はいいですけどそれがなんのアリーナかが大事です。そこの話をもう一段階踏みこまないと危険な方向に行く可能性があると思っています。

──具体的に音楽アリーナとスポーツアリーナの違いは?

音楽アリーナはVIPルームいらないですよね?ボックスシートなどの企画シートも絶対にいらなくて、席を効率良く詰めてしまうことでお客さんがたくさん入るようになります。全体的な構造でも、音楽は基本的に全シート同じ金額で、檀上のステージが隅にある形が理想です。でもスポーツは真ん中にピッチやコートがあって、視点を真ん中に作る構造なので全然違います。

──音楽アリーナでは満足にスポーツを行えない?

音楽アリーナを作ってしまうとVIPの扱いが減ってしまいます。音楽アリーナの理想としては、常設の歌えるステージをベースに、そこでスポーツもできますよと。そうすることでお金を稼ぎやすくなります。諸室なども音楽とスポーツでは異なります。スポーツアリーナを作って音楽もできるのか、音楽を意識してスポーツもできるのかは極めて大きな差です。結局家を作るのと同じで、どんな家が作りたいかの根本的な一歩目が違うので、最終的に全然違うものができてしまう。

──もっとスポーツアリーナを作り必要がありますね。

そのスポーツアリーナを作るためにどうするかといえば、当たり前ですがスポーツの価値を高めるしかない。バスケットがどれだけ頑張っても年間でホームは30試合しかできな。ハンドボール、バレーボール、eスポーツ、プロレスなどなんでもいいですが、スポーツコンテンツの価値を上げていくことが大事です。バスケだけでなく、ハンドボールもメジャースポーツになればスポーツアリーナが日本全国に作られていくと思います。

──葦原さんが日本でスポーツアリーナだなと思うアリーナはありますか?

沖縄アリーナですね。NBA型のスポーツを意識したアリーナです。プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新スタジアムも、野球に特化したスタジアムで素晴らしいです。一方で同じプロ野球でも座席がピッチャーやキャッチャーの方を向いていなくて、二塁後方に体が向いているような球場もあります。コンサートは良いですが、スポーツはすごく見辛い。みんな1粒で2度おいしいと前向きに言いがちですが、突き詰めると異物なので、すごく中途半端なものが最終的にはできてしまう。これから日本全国に、規模は様々でしょうが、沖縄の新アリーナや北海道の新スタジアムのようなスポーツのためのスタジアム/アリーナがどんどん出てくるといいな、と思っています。

■プロフィール
葦原一正(あしはら・かずまさ)

1977年生まれ。外資系戦略コンサルティング会社、オリックス・バファローズを経て、2012年より新規参入したプロ野球の横浜DeNAベイスターズに立ち上げメンバーとして入社。2015年、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグに初代事務局長として入社し、男子プロバスケの新リーグ「B.LEAGUE」を立ち上げ。2020年、株式会社ZERO-ONE設立。2021年から日本ハンドボールリーグ(JHL)の代表理事就任。

Twitter:@kazu_ashihara

■クレジット
写真:JHL提供
取材・構成:Smart Sports News 編集部

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