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「コンパクトアリーナにはポテンシャルがある」スポーツ界の新たなリーダー・葦原一正が語るハンドボールの黒字化がラグビーよりも簡単な理由

プロ野球の横浜DeNAベイスターズや男子プロバスケットボールリーグB.LEAGUEの立ち上げに携わり、B.LEAGUEでは初代事務局長を務めた葦原一正氏。スポーツ界の新たなリーダーが次に選んだ競技はハンドボールだった。

なぜ葦原氏はハンドボールを選んだのか──。ハンドボールなど多くのアリーナスポーツの可能性が関係していた。

「SmartSportsNews」の独占インタビューをお届けする。

「昭和的な雰囲気」だったハンドボール

──葦原さんはBリーグを退任してフリーになられて、ハンドボールの代表理事に就任されました。これまでにハンドボールをいろいろな角度から見て、他のスポーツとの優位性はどこにありますか?

一番大きい部分は、アリーナビジネスの面です。特に定員が2〜3000人のコンパクトアリーナは極めて大きなポテンシャルがあると思っています。沖縄アリーナのように1万人が収容できるアリーナは凄いですし憧れますが、一方、今は音楽やエンタメ界でも求められているのはコンパクトアリーナであったりします。今のハンドボールからするとそれくらいがちょうどいい規模ですね。着実に成長していけばそれが全国各地にできる可能性があると思っています。。

──コンパクトアリーナが増えることでスポーツに触れる機会が多くなります。

地方については札幌や福岡などの大きな都市をイメージしがちですが、実態は小さな街がいっぱいあります。その街の真ん中にスポーツに触れられるコンパクトアリーナができると、日本で真の意味でスポーツが根付く瞬間になると思っています。ハンドボールはそれくらい小さなアリーナで行うことができます。また、スポーツの特性上、スピードが早くてコンタクトが激しい。一般の方にはあまりイメージが湧かないと思いますが、スポーツとしても面白いです。

──葦原さんが初めてハンドボールの競技を見たのはいつ頃でしたか?

これまで見たことがなかったので、オファーがあって、受諾が決まってからすぐ見に行きました。学生時代に体育などでやったことがある方も多いですが、私は全くやったことがないです。競技については本当何も知らない状態でしたね。

──当時見たリアルなハンドボールはいかがでしたか?

2015年などのNBLを思い出しましたね。会場はガラガラで昭和的な雰囲気。たまたま観に行った試合が、三重バイオレットアイリスのいつも使っている体育館とは違う古い場所だったので余計にそう見えたのですが、昔のバスケに近いイメージでした。

──その三重での試合を観戦されて、お客さんの層はどんな印象でしたか?

いつも使用しているアリーナとは違ったのでよくわからなかったですが、基本的に男性が多いなと。今も市場調査して結果を見ていますが、若い20〜30代の男性が多いです。

──そのなかで狙う客層はどこに置いていますか?

やはり若い人に来てもらいたいですね。年配の方がいらっしゃるのも嬉しいですが、どちらかといえば家族3世代でくる世界観がいいですよね。子供も安心してこられるような世界観です。

収支を整えるのはラグビーの10倍簡単

──お子さんのお話がありましたが、葦原さんが携わっていたバスケットボールは学校の体育で触れる機会があります。一方でハンドボールはそういう場が多くないなか、未知のスポーツに人を引き込む難しさはありますか?

日本の人口は約1億3000万人で、その全員に興味を持ってもらうことは嬉しいですが、簡単ではないです。一方でいきなりそこまでやる必要はなくて、ちゃんとターゲットを決めて一定の層に観てもらって、触れてもらうことが大事だと思います。

──狙いを持った層にハンドボールをしっかりと届けることが大事?

スポーツというと多くの人はマス・マーケティングでやりたがります。ラグビーやサッカーなどワールドカップの印象が強く、どうしてもマスで戦略を考えがちです。でもまず収支を整えていくことを考えるのであれば、そんな規模を追いかける必要はないです。今のハンドボールは大体2億円かかっています。その2億円をちゃんと回収するためには1500〜2000人くらいのお客さんを入れればいい。なのでいきなり1億人たちに訴える必要はないと思っています。

──実際にラグビーはかなり多くの費用がかかっていると聞きます。

ラグビーは20~30億円ぐらいかかっていると聞きます。その20~30億円の売上を作るのはなかなか大変なプロセス。ハンドボールでは過度な成長を求めるより、まず確実に2〜3億円を稼げるものを作った方がいいと思っています。

──大きなビジネスをやるのではなく、着実なビジネスモデルを作ることが必要?

ハンドボールはアリーナスポーツで、また選手数が少ないのでかけているお金は2億円くらいです。ラグビーの方が難しくて、選手数も多いですし、稼働率が低くなる天然芝のスタジアムを利用するので、収支をと整えるのがなかなか簡単ではない。確かに人気にさせるのはメディア露出も多いラグビーの方が簡単ですが、収支を整えるのはハンドボールの方が10倍簡単だと思っています。ラグビーのポテンシャルはあると思いますし、面白いしスポーツで私も好きですが、ビジネスの仕組みの作りやすさはハンドボールがやりやすい。サステナブルなモデルにしていくためにはまずは収支を整えることが大事だと思います。

──ハンドボールはマス・マーケティングではなくニッチ・マーケティングを考えている?

ニッチ・マーケティングという言葉が適切かはわかりませんが、いづれにせよそこはステップ・バイ・ステップですね。いずれは事業規模も大きくしていきたいですが、まずは2億円を使うなら、ちゃんと2億円を稼ぎましょうという話。ハンドボールがうまくいけば、他の競技団体にとっても希望の光になると思います。でもそんなに難しい話ではなくて、きっちりコツコツやればちゃんと良くなる。もしハンドボールがうまくいったら、他の競技団体にもナレッジを共有できればと思います。

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