スペシャルコンテンツ 葦原一正 KAZUMASA ASHIHARA Vol.2「スポーツリーグは “ガバナンス”が命」

2016年、バスケットボールの新リーグとして立ち上がった「Bリーグ」は華やかな演出手法、デジタルチケットの導入、SNSを活用した広報戦略などでインパクトを与えた。
そんなBリーグを初代事務局長として戦略立案を牽引してきたのが葦原一正氏だ。ラグビー、バレーボール、女子サッカーなど新リーグが設立する中、成功の鍵を握るものとは。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

名古屋グランパスが伸びている理由

――葦原さんは海外のスポーツビジネスこそが最先端であるとい風潮についてはどう感じていますか? もちろん勉強になる部分は多いと思いますが、Bリーグで何でもかんでも海外事例をそのまま導入しているというわけではありません。日本特有の事象もあるので。そして何より事業規模が違いすぎます。でもこれからのBリーグは少しずつ海外の事例も導入できるフェーズになっていくと思います。 ――JリーグもMLSの方式でリーグとして一括管轄して放映権も含めてコントロールしていますが、それはBリーグが立ち上がるまではなかなか他のリーグではできていなかったことですよね。 放映権のリーグ一括管轄はJリーグが昔からやっていますが、映像制作をリーグで実施したり著作をリーグに帰属させることはB.LEAGUEが野球、サッカーなどより先に取り組みました。またチケッティングプラットフォームもリーグで構築することは野球、サッカーではできていないですが、B.LEAGUEは立ち上げ当初から展開しています。でもJリーグのデジタルマーケティングは今とても進化していると思います。 ――Jリーグも「JリーグID」というプラットフォームを作って、そこからチケットやグッズを購入させることで、購入者が属性として認識できるようになっていますよね。こういうのもいわゆるJリーグもBリーグを模倣しているんでしょうか? 模倣と言ってもJリーグのほうが規模は大きいですからね。最近注目しているのは名古屋グランパスです。専務取締役の清水克洋さんとも話しましたが、観客動員がものすごく伸びていて昨年度の平均が約27600人と聞きました。チケット販売のうちJリーグチケットの比率は数年前までは20%を切っていたのが、今は80%近くまで増大したと聞いています。 ――すごい成長率ですよね。やはりJリーグIDというのは一つの大きな要因ということですか? 私は正直、データを集めたからといってすぐには動員に繋がらないと思っていました。動員を増やすのはそんなに簡単なことではないので。でも明らかに時代は変わっていて、ちゃんとIDからのデータを貯めて、コツコツとヒット&エラーを繰り返していけば数字が作れてしまう時代なんですよね。 ――葦原さんから見て名古屋グランパスはなにか特別なことをやっているような印象ですか? 名古屋グランパスがやってきた施策を見てみると2回観戦するとプラス1マッチとか、特定の3試合どれかに来たら無料チケットをもらえるとか、正直特別なことはしていないんですよね。ただ、それをやり込むことが大事なんだと思います。 ――やり込むというのは? うまいなと思ったのが、例えば3人のグループで来てくれたお客さんがいて、その3人に次の試合のチケットを無料でプレゼントしますと、その場でプッシュで渡すんですね。そうすると元々は3人のうちの1人が3人分のチケットをまとめて買ってくれていて、買ってくれた人のデータは取れても連れられた2人分はわからないわけですよ。そこでプラス1マッチのチケットを試合当日に渡して、特定の試合であれば無料でもらえますとなると当然また行こうとなりますよね。そのときに無料のチケットをもらうためにはIDを個別に登録しなければいけないからデータの見えなかった2人分が見えるようになるんです。 ――データ上では見えていなかった0から1になった人が、データ上でも見えてくるわけですね。 やっぱりクラブが知りたいのは、この一緒に連れられて来た人が誰なのかということ。そこをどのタイミングで無料のチケットを渡せばIDを登録してもらえるのかというのをしっかりとやり込んでいるんです。施策そのものはよくあるものでもやり込み方が他と違うことで、これだけ結果として表れているんだと思います。今まではパワーセールスでなければ伸びないと思っていたのが、もうそういう時代ではなくなってきているんだというのを名古屋グランパスは示してくれましたよね。 ――名古屋グランパスがこれだけやり込めている理由はどんなところにあると思いますか? 名古屋グランパスはちゃんとビジネスバックグラウンドの人材を連れてきているんです。先ほどの清水さんはもともとマッキンゼー&カンパニーにいて、ヴィッセル神戸の社長も歴任した人です。チケットでは遠藤さんというチケット業界で経験のある優秀な人が入っていますよね。当たり前ですけど最後は人材なので、そうした優秀なビジネスバックグラウンドを持った人を連れて来ているというのは大きなポイントだと思います。

1人で動かせない組織にしなければいけない

> ――葦原さんは以前、講演会で一番大事なのはガバナンスであるという話をされていました。その言葉の真意を改めて聞かせていただけますか。 例えばリーグの中央集権である意思決定の仕方ですね。他の競技団体では理事会や実行委員会を開いてもなにがどこで決められるかが曖昧なケースが多いわけです。ここまでは理事会が決める、ここまでは実行委員会が決める、そういうことを明文化すること重要ですよね。 ――まずは意思決定の仕方を明確にするということですね。 それから理事会のメンバーにしても協会・リーグ関係者が1/3、クラブ関係者が1/3、外部識者が1/3と、しっかりと1/3で分ける必要があります。そうしなければ何かを決めるときに間違いなく、協会・リーグ関係者とクラブ関係者との間で利益相反が起きるので、そのときに外部識者の存在が大事というのはわかりますよね。他の競技団体はこの外部識者がいない場合があったり、いたとしても1人くらいだったり。こうしたところをまずしっかりと整える必要があります。 ――その理事会のメンバーの選考も大事なわけですよね? 選考プロセスもとても大事ですね。ちゃんと選考委員会を設ける必要があります。最後は結局、権力であり、権利であり、人事だと思うので。やはり1人の強い思いだけでは動かせない組織にしなければいけないです。ただ、実際はそうなっているケースが多いので、そこをしっかりと理事会で意思決定をできるようにしなければいけないと思います。 Vol.1「Bリーグはなぜ稼げるようになったのか?」 (ハイパーリンクURL) https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae5104ffd27a3d61400c02 Vol.3「アフターコロナの勝ち筋を見つける」 (ハイパーリンクURL) https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae512382f02561e9268813

■プロフィール

葦原一正(あしはら・かずまさ) 1977年生まれ。外資系戦略コンサルティング会社、オリックス・バファローズを経て、2012年より新規参入したプロ野球の横浜DeNAベイスターズに立ち上げメンバーとして入社。 2015年、「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」に初代事務局長として入社し、男子プロバスケの新リーグ 「B.LEAGUE」を立ち上げ。2020年、「株式会社ZERO-ONE」設立。 https://twitter.com/kazu_ashihara

■クレジット

取材・構成:Smart Sports News 編集部

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