スペシャルコンテンツ 葦原一正 KAZUMASA ASHIHARA Vol.3「アフターコロナの勝ち筋を見つける」


2016年、バスケットボールの新リーグとして立ち上がった「Bリーグ」は華やかな演出手法、デジタルチケットの導入、SNSを活用した広報戦略などでインパクトを与えた。
そんなBリーグを初代事務局長として戦略立案を牽引してきたのが葦原一正氏だ。ラグビー、バレーボール、女子サッカーなど新リーグが設立する中、成功の鍵を握るものとは。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

新リーグ立ち上げは簡単ではない

——ラグビーが2022年1月開幕を目指して新リーグを立ち上げますが、率直に葦原さんはこの新リーグに関してどう感じていますか?

新リーグ立ち上げというのはなかなか簡単ではないと思います。Bリーグの場合は1部リーグの基準やアリーナの基準など細かくリーグの方針があって、それが分かった上で加入したいチームだけ来てくださいというスタンスでした。そこの線は明確に引いていました。各クラブがやれるか、やれないかではなく、リーグとして“こうあるべき“という基準ですべての物事を決定してきたわけです。そうすると来ないクラブは多いかもしれないと思いましたが、最終的にどのクラブも行政交渉などもしてこちらが提示した基準を満たして加入までこぎつけてきました。だから当然リーグの質は高いものになりました。

——ラグビー新リーグはそうした基準がBリーグと比べて不安な部分があると?

Bリーグほど徹底してやってはいない印象なので、難しい局面が出てくるかもしれません。ただ、ラグビー自体は2019年のワールドカップで世間の認知度や人気は飛躍的に上がって、ポテンシャルはものすごく高いものがあると思うので頑張ってほしいですね。また、Bリーグと比べてというところで言うと、Bリーグをそれほど意識する必要はないと思っています。当然、良いところも悪いところもあるので。それにラグビーは代表チームを中心としたキラーコンテンツがあるので、リーグ設立当時代表の人気があまりなかったBリーグとは設計の仕方がガラッと変わると思っています。

——良いところも悪いところもあるということですが、Bリーグを離れた今だから見えてきたこと、こうすれば良かったと思うことなどはありますか?

もっとこうあったら面白かったかもしれないなと思うことはいくつかあります。一つは戦力が均等になるシステムを作っていたらどういうなっていたかですね。

——“戦力均衡”というのは具体的にどんな形を考えていたんですか?

具体的な案というより、日本のプロリーグで今までいわゆるアメリカ的な戦力均衡のシステムを作っているところはないので、日本で先進的にそれをやったら面白いと思いました。それこそラグビーだったり、女子サッカーだったり、新しくリーグを立ち上げる団体はそういうところにチャレンジしたら面白いと思いますね。もう一つはチーム数をもっと少なく、試合数を少なくしたらどうなっていたかなという思いもあります。

——葦原さんとしてはどれくらいの規模感が理想ですか?

勿論全国各地にたくさんのチームがあることも素晴らしい世界ですが、1つ1つの価値を高く見せていくためにはもっと少なかった方が良かったかもしれませんし、チーム数も試合数も少ないのを増やすことはできますが、多いのを減らすというのは基本的に難しいわけです。それもあって新リーグ立ち上げで相談されるときは、できる限りチーム数と試合数は少ないところからスタートしたほうがいいとお話ししています。

——その規模感でいうと、来年開幕する女子サッカーの新リーグ“WEリーグ”は11チームでのスタートが発表されました。WEリーグついてはどう感じていますか?

奇数というのはびっくりしましたよね。それでも運営的には問題なくやれると思いますが、注目していきたいですね。今後女子スポーツは世界的にトレンドになると思うので、その中で日本でもサッカーがプロ化を先陣を切るのはいいことだと思います。制度設計自体もいいと思いますし、チェアも女性の方で楽しみです。今後いろいろなビジネスプランを作れるかが焦点になると思いますが、非常にいいチャレンジだと思うので期待しています。

親会社がいることは決して悪くない

——今、コロナ禍の真っ只中でエンターテイメントはどの業界も生命線である観客動員という面で苦しい状況にあります。来年以降も動員を増やすというところで強烈なブレーキがかかってくると思いますが、こうした状況の中でこれからのクラブはなにをしていけばいいと思いますか? チケットに関しては単価を上げるというのは必要になってくるでしょうね。ただ、チケット収入と言ってもBリーグは全体の25%で、Jリーグもそれくらいですよね。それでいてスポンサーは比較的維持できているので、ある程度は大丈夫だとは思います。ただ、スタジアムやアリーナをクラブで所有しているクラブは厳しい状況になると思います。

——これまではハードを持っていることがスポーツクラブにとって勝ち筋だと言われてきましたが、今は逆にそれがデメリットになっているということなんですね。

チケット収入を頑張って売り上げの50%くらいまで頑張っているクラブもあったり、ハードを持った方がいいと言われてそこへ向けて一生懸命やってきましたクラブがあります。いわゆるその勝ち筋を真面目にコツコツやってきたところが、今一番苦しい状況に追い込まれているということなんですね。もう一度そこは議論した方がいいと思うんですが、基本的にハードを持つことが勝ち筋であることは今後も間違いないと思います。ただ、今後コロナが収束したとしてもまた別のウイルスなのか、また違う何かがあるかもしれない。誰にも先が読めない不確実な時代になってしまっているので、これまで以上にある程度リスクヘッジするような仕組みを考える必要があると思います。

——そのリスクヘッジの部分で、葦原さんはどう考えていますか?

例えばファンやメディアの方によく親会社はない方がいいと言われますけど、私は逆だと思っています。結局、こうした危機にも親会社があると助けてくれるわけですよね。なにか大きな投資をしようと思ったときも親会社があったほうが安定するわけです。

——なぜ日本では親会社がないほうが良いというイメージがあるのでしょうか?

親会社があるからいけないわけではないんです。親会社と子会社の責任と権限が分岐していなくて、親会社の人が子会社の中に干渉しすぎるとダメになるわけです。DeNAがうまかったのは絶対に干渉しなかったこと。オーナーシップと経営執行が完全に分かれていた。それが一番理想の関係だと思います。つまりガバナンスのあり方を変えるべきであって、親会社がいることは決して悪くないわけです。

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