スペシャルコンテンツ 葦原一正 KAZUMASA ASHIHARA Vol.1「Bリーグはなぜ稼げるようになったのか?」

2016年、バスケットボールの新リーグとして立ち上がった「Bリーグ」は華やかな演出手法、デジタルチケットの導入、SNSを活用した広報戦略などでインパクトを与えた。
そんなBリーグを初代事務局長として戦略立案を牽引してきたのが葦原一正氏だ。ラグビー、バレーボール、女子サッカーなど新リーグが設立する中、成功の鍵を握るものとは。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

特別なマーケティングメソッドはない

――ここ最近、いろいろなスポーツの新リーグが立ち上がって、その多くがBリーグをベンチマークにしていると思います。Bリーグのマーティングでやろうとしたこと、できていたことを聞かせていただけますか。

よくBリーグはマーケティングが素晴らしいと言ってくださるんですが、実ははマーケティングに関しては大したことはやっていないと思っているんです。普通のことを普通にやっていただけです。ではその普通がなんなのかというのが大事なところですよね。

――その大事な“普通のこと”というのは?

マーケティングにおいてデータはもちろん大事なんですが、私はそこに本質はないと思っています。データはあくまでもツールですから。私は思考とマーケティングは一緒だと思っているんです。思考というのはつまりは頭の良さ。その頭が良いというのはどういうことか。だいたい頭の回転の速さとかを言ったりしますが、でも頭の良さには3つあると思っています。頭の回転の速さに加えて、視野の広さと思考の深さです。

――「速さ・深さ・広さ」の3つということですね。

その3つのバランスがある人が、頭が良いと思っています。これはマーケティングでも同様で特別なマーケティングメソッドというものはなくて、世の中で行われているマーケティング方法と同じことをしています。その中でマーケティングもまずは“視野の広さ”が大事になります。

――マーケティングにおいてその視野の広さを確保するというのは?

そこで最初になにをしたかというと、市場を俯瞰してその競技にどれくらいのファンポテンシャルがあって、どれくらいの人が観に来て、どれくらいの人がコア化していくのか。ざっくりでもまずは俯瞰して把握することです。競技団体の人にヒアリングをすると、まず大前提の事業環境すら把握できていない人が多いわけです。

――スタートラインである市場把握すらできていない団体が多いと。

そして僕が一番大事だと思っているのが“思考の深さ”です。マーケティングを考えるとき、今日はこの施策をやろう、あれをやろうと、とあれこれ考えると思うんです。だいたいそれで10個やった施策のうち8、9個失敗するわけです。それは悪いとは思いません。ただ、テーマはしっかりと決める必要があります。メカニズムを見据えた上で、テーマや課題を洗い出して、それに対してどういう施策をとっていくか議論することが重要なポイントになります。でもスポーツ界はまだそこの議論が浅いと思っています。

成功例も失敗例も共有する

――例えばチケッティングは重要なテーマですが、具体的にはどう議論を深めていくわけですか?

具体的な話をしていくと、例えば観に来てくれた人をコア化していくのは難しくありません。3回観に来てくれた人に「あと1回来てくれたら選手に会えます」と言ったら来場してくれますよね。それよりも0を1にすることが一番難しいわけです。実際、来たことがない人は誰かに誘われないと来ないケースがほとんどで、ここが大きなテーマだと思います。

――その0の人を1にしていくための施策と議論を深めていくと。

いろいろなチケット施策が考えられて、10や20の施策アイデアはすぐに出てくると思います。例えばですが、実際にとあるクラブで行われたもので「幹事は5人集めれば幹事のチケットが無料」という施策がありました。ちなみにこれはあまりうまくいかなかったとクラブ側から聞きましたです。おそらく誘ったみんながチケット代を払っているのに、幹事の自分だけタダというのはコアファンからしたらしのびなかったのかなと思います。そうであれば人数が多いほど安くなるというほうが成功するのではないかと、議論を深めていけますよね。こうしたマーケティングテーマのイシューを洗い出してからヒット&エラーを繰り返していくわけです。

――ただ闇雲にやるのではなく、しっかりとしたテーマをもとにヒット&エラーを地味に繰り返していくということですね。

それでも失敗していくので、それをしっかりと事例として共有することが大事なんです。それはBリーグ事務局内でスタッフによく言っていたことで、とにかくクラブ間でその事例共有できる場を設けることが大事でした。

――リーグが間を取り持ってクラブで事例共有をさせているんですね。

そのときにリーグがでしゃばってはいけないということも大切です。クラブ間の関係を繋いだらそこからはクラブ間のことで、リーグは口出しをせず、引くべきだというのもよくリーグスタッフに言っていたことの一つです。そこはお見合いの仲人と同じ感覚ですね。

――チケッティングに限らず、そういうクラブ間で事例共有させるというのは葦原さんが意識されてきたことですか?

徹底的にナレッジを共有したり、そういう文化を構築していくことは個人的に意識してきました。だからマーケティングで特別なことはしていません。データを分析して、ヒット&エラーで出てきた事例をチケットの担当者会議で共有して、あとはクラブの人たちが手売り含めチケットをコツコツと売っていくことで結果がついてきたというだけです。よく言うんですがマーケティングに「金のオノはなにもない」と。当たり前のことを当たり前にできていないスポーツ界が問題であって、当たり前にやればいいだけなんですよね。

――そうして共有した事例を元に各クラブがまた施策を考えるわけですよね。その施策の精度や成功率はどうだったんですか?

そこはメーカーの研究開発と同じで、100個のアイデアがあって1つか2つ事業化できれば良いわけですよね。チケット動員はひたすらヒット&エラーの繰り返しです。そこでなにか良い方法があるのではないかとじっくりと検討しすぎて動かないというのは往々にしてあります。でも基本は動かないと始まらないですから。ただ、先ほども言ったように意味もなく動くのも違いますよね。最低限のテーマを決めてやることが非常に大事だと思います。

――チケットに限らず、いろんな分野の担当者会議の場をリーグが作っているわけですね?

Bリーグではチケット、スポンサー、グッズ、広報、運営、ユース、ヘッドコーチなど、担当者会議は10以上あります。そこでひたすらナレッジを共有していく。そこがすべてだと思いますね。それは特別なことではなく、どの競技団体でも可能なことだと思います。

Vol.2「スポーツリーグは “ガバナンス”が命」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae51113c2e44612b727602

Vol.3「アフターコロナの勝ち筋を見つける」
(ハイパーリンクURL)
https://ssn.supersports.com/ja-jp/articles/5fae512382f02561e9268813

■プロフィール

葦原一正(あしはら・かずまさ)

1977年生まれ。外資系戦略コンサルティング会社、オリックス・バファローズを経て、2012年より新規参入したプロ野球の横浜DeNAベイスターズに立ち上げメンバーとして入社。 2015年、「公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグ」に初代事務局長として入社し、男子プロバスケの新リーグ 「B.LEAGUE」を立ち上げ。2020年、「株式会社ZERO-ONE」設立。

https://twitter.com/kazu_ashihara

■クレジット

取材・構成:Smart Sports News 編集部

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