Gリーグで2戦合計100得点!NBA定着のチャンスを掴んだ28歳苦労人の波瀾万丈のキャリア<DUNKSHOOT>

Gリーグで今季平均26点をマークするスタウスカス。高い得点力を買われてセルティックスと2年契約を結んだ。(C)Getty Images
Gリーグで2戦合計100得点をマークし、その2日後にボストン・セルティックスと2年契約を締結。そんなキャリアのビッグチャンスを掴んだのが、カナダ人ガードのニック・スタウスカスだ。

デンバー・ナゲッツの下部組織、グランドラピッズ・ゴールドに所属していたスタウスカスは、3月1日のウィスコンシン・ハード戦で3ポイント11本を含む57得点、翌日のレイクランド・マジック戦で3ポイント9本を含む43得点をマーク。Gリーグで初となる2連戦で計100得点という偉業を達成すると、4日に現在イースタン・カンファレンスで5位につけるセルティックスに迎えられた。

彼が最後にNBAのコートに立ったのは、マイアミ・ヒートと10日間契約を結んだ今季の年末年始。その時は2試合で計24分プレーし、平均5.5点に終わっていた。

リトアニアにルーツを持つスタウスカスは、カナダのトロント郊外で生まれ育った。トロントにはカナダ在住のリトアニア人の3分の2が暮らしている。スタウスカスはそこにあるリトアニアコミュニティのスポーツクラブでバスケットボールを始めた。
高いシュート力を評価されて2012年にミシガン大に進学。全米準優勝を果たしたチームで、成功率44%と3ポイントシュートを得意としていたのは、さすがリトアニアのバスケットボール仕込みという感じだ。

2年時にはビッグテン・カンファレンスの年間MVPという華々しい栄光を引っさげてドラフトエントリーを表明すると、サクラメント・キングスから全体8位で指名を受けて念願のNBA入りを果たした。なお、この2014年ドラフトでは1位でアンドリュー・ウィギンズ(現ゴールデンステイト・ウォリアーズ)、3位でジョエル・エンビード(現フィラデルフィア・76ers)、2巡目の41位でニコラ・ヨキッチ(現ナゲッツ)が指名されている。

期待されてキングスに迎えられたスタウスカスだが、1年目は平均4.4点と振るわず。するとわずか1年で76ersにトレードされたのを皮切りに、ブルックリン・ネッツ、ポートランド・トレイルブレイザーズ、クリーブランド・キャバリアーズと、5年間で5球団を転々とするジャーニーマンとなった。2019−20シーズンにはスペインに渡り、バスコニアでもプレーしている。

ヒザの手術のため、同シーズン途中に契約を解除してアメリカに戻ると、リハビリを終えた翌シーズンの1月、故郷トロントのラプターズの下部組織、ラプターズ905で約1年ぶりに実践復帰。今季は開幕前にナゲッツと契約後、下部組織のゴールドでGリーグを主戦場としていた。
ヒートとの10日間契約終了後は正契約に至らず、ゴールドに戻ってプレーしていたところ、冒頭の活躍もあってセルティックスに迎えられたのだった。

彼にとってはこれがキャリア10球団目。それでもまだ28歳だが、アップダウンの多い自身のキャリアについて、ラプターズ905時代のインタビューでこう振り返っている。

「ミシガン大時代は、自分はいつも勝利チーム側にいて、毎試合のように勝つことを味わっていた。ところがNBAデビューした当時のキングスはチーム状態がよくない時期にあり、次のシクサーズもちょうど再建の時期だった。勝てない試合が続くなかで、自分への自信もどんどん失っていった」

スタウスカスが在籍した2年間、ミシガン大は76試合で59勝と全盛期にあった。ところがプロ入り後のキングスは指揮官の入れ替わりが激しい安定しないシーズンで29勝、シクサーズ1年目の2015−16シーズンはわずか10勝、年間72敗という球団ワースト2位の壊滅的なシーズンだった。

「自分が良いパフォーマンスができた試合でも、チームは25点差とか、大差で負ける。そうすると、自分のプレーを喜べないし、評価もできなくなって、どんどん自信を失ってしまった」
ようやくチャンスが巡ってきたかという時もあった。ブレイザーズに入団した18−19シーズン、ロサンゼルス・レイカーズとの開幕戦で、ベンチから3ポイント5本を含むキャリアハイタイの24得点をマークして128−119の勝利に貢献。この日は子どもの頃から「憧れの選手」に名を挙げていたレブロン・ジェームズのレイカーズデビュー戦であり、奇しくも彼はその憧れのヒーローに土をつけた男として話題になった。

第1クォーターの終盤に投入されてから第2クォーターの前半にかけて、約5分間で16得点を奪取した新入りSGについて、ブレイザーズのテリー・ストッツHCは「彼が我々のリズムを作ってくれた。トレーニングで見せていたように、彼はシュートが上手い。新しいチームで、彼がこのようなシーズンのスタートがきれたことに満足だ」と高評価。

ゲームハイの28得点をあげた大黒柱のデイミアン・リラードも、「彼はこれまでタフな時間を過ごしてきた。チャンスを得られないまま、多くのチームを渡り歩いてきた。ここに来てからは、俺たちは彼を鍛え、自信をつけさせ、彼がもたらしてくれるものを俺たちが必要としているんだということを伝えてきた。彼は素晴らしいシューターで、今夜の試合でも重要なスパークを与えてくれた」と、今後の活躍に期待を寄せていた。
しかし翌戦は20分コートに立ちながら3得点。その後も安定した成績を残せず、2月にキャブズへトレードされることになったのだった。

NCAAの得点王だったジマー・フレデッテ(元キングスほか)など、学生時代に大エースだった選手が、NBA入りしてから期待通りの活躍ができない例は少なくない。

スタウスカスも、「大学では常勝、ドラフトで上位指名され、すべてが上手くいくものだと思っていた自分がいた」と、ラプターズ905入団後の会見で率直にコメントしている。変化した環境に上手く対応できなかったり、入団した球団の戦術と自分のプレースタイルが合わなかったりと、本人以外の事情も含め、その理由は様々だ。

そんなスタウスカスに、「これまでの経験はすべて成長の糧」と思わせたのが、ラプターズ905時代に師事したパトリック・ムトンボHCだった。彼はシーズン最初の試合で、選手たちにこう言ったという。
「君たちは全員、Gリーグでプレーすることを目標にここまでやってきたのではないはずだ。君たちが目指しているのはここではない。本来の目標を達成するのに必要な成長をするためにここにいる。そして私は、君たちがそれを実現できるようあらゆるサポートをする。だから常に、上を目指して向上しようとする気持ちを忘れてはいけない。常に競争心を忘れるな」

スタウスカスのように、NBA球団との“正式契約当落ライン”でもがいている選手はものすごく多い。彼がよく受ける質問も、「自分はこのリーグにふさわしい選手だと感じるか?」というものだそうだが、何度も契約のチャンスが得られているのはポテンシャルがある証拠でもある。

挫折を繰り返して培った精神力を武器に、直近15試合で13勝と好調なセルティックスで、自分の可能性に挑むスタウスカスに注目だ。

文●小川由紀子

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