
ネットを挟んだコート内を、ラケット片手に縦横無尽に動き回るバドミントン。どんな人が向いているスポーツなのか?何より腕力が重要なの?ラケット競技は、やはり利き腕だけ太くなってしまう?
そんな疑問の数々を、実業団チームの選手として16年のキャリアを重ね、現在は選手兼コーチを務める下川裕一さんに聞く。
身体能力だけでは追いつけない
――バドミントンが向いている人の条件のようなものはありますか?
下川:バネがあること、つまり身体の可動域が広いことですね。いわゆるしなやかな筋肉、というのに似ているかもしれません。桃田賢斗選手は、結構しなやかですね。素人から見ると、しなやかなゆっくりした動きに映るんですけど、あれはそう見えてるだけで、実際の動きは相当速くてダイナミックです。あとはもちろん、基本的な身体能力が高いのに越したことありませんが。他の競技で似てるのは野球だとかバレーボール、ボールを投げるスポーツとは結構近いですね。ラケットを使い、振りかぶって羽を打つという動きに近い要素があると思います。
――そういった競技をやっていた人が、中学とか高校からバドミントンを始めて、大成するケースもあったりするんですか?
下川:いや、今はなかなか難しいです。ラケットワークとか打ち方とかの技術の部分も不可欠なので、やっぱりもっと小さいときから積み重ねる必要があります。昔は日本の技術力も低かったので、運動能力が高かったりすれば、中高生の段階からでも挽回できました。最近は細かいプレーだとか、ラケットの振り方、そういうところでも大きな差になるくらい、技術力が上がっています。同じ打つといっても、打ち方、弾き方、手の感覚みたいな、そういうところに差が出てきます。身体能力だけであとからカバーできるかというと、ちょっと難しい競技になってきていると思います。
まずはとにかくフットワークが大事
――ラケットを手にコートを動き回り、ときにジャンプもする……全身運動のように見えますが、どこの筋肉を一番使いますか?
下川:やはり足、でしょうか。打つ瞬間だけ見ると、バーンと手で打ってるように見えますけど、ああやってシャトルにヒットする地点まで行かないときれいなフォームで力を使えないので、フットワークがまずは前提となります。どれだけシャトルの下に早く入れるか、どれだけ姿勢を整えられるか、しっかりシャトルに力を伝えて意図通りに打ち返せるかというところが大事なんです。手元の動きだけしっかりできても、その動きにいたるまでの条件が揃わないとシャトルに届きませんよね。ですから、基本的には足が一番大事かなと思います。
――きれいにスマッシュを決めるシーンがクローズアップされがちですが、まず重要なのは足なんですね。
下川:足ですね。筋肉だけかっていうとまた別なんですけれど、足を使ってシャトルを打ち返せる位置にうまく体を持っていく能力がとにかく重要です。そして、よじれるのではなくできるだけまっすぐ、きれいに打つ姿勢に入って、ストレスなくいつも同じ打ち方、狙った場所に打ち込める動作を常に保持できる体幹の強さも求められます。
シャトルランを繰り返すようなイメージの競技
――足腰が大事ということは、練習としてロードワークとかもやるんですか?
下川:距離を走ったり、ダッシュしたりというのは、他の競技と比べてというか、シャトルを打つのと同じぐらいやってるチームは多いですね。高校でも、陸上部なのかっていうぐらい走ったりするところもあるようです。ほかにも基本的には、たとえば3時間のトレーニングのうち、息を上げたり、体を追い込む練習は必ず入れないとダメです。心肺機能とか乳酸が溜まったあとどこまで動作を保てるかといった面を強化する必要があるんです。うまくラケットにシャトルを当てる練習だけ一生懸命やっても、なかなかそういった面を追い込むことはできません。
――かなりしんどそうですね。
下川:バドミントンって、長い試合だと1時間を平気で超えることもあるんです。止まって動いて、止まって動いて、それをずっと繰り返すわけですから、なかなかに苦しいものがあります。
――ダッシュあり、反復横跳びあり、ジャンプもありみたいな感じですね。
下川:はい。シャトルランを数十分、ときに1時間以上やり続けるようなイメージが近いかもしれません。バドミントンやってる人はシャトルラン、結構速いですね。
利き腕と「利き足」が太くなる
――「ラケット競技あるある」かもしれませんが、やっぱり利き腕だけ太くなったりしますか?
下川:ありますあります。(自分の右腕を見せながら)こっちはこのぐらい筋肉が出ますけど、左腕はそんなに出ないんですよ。もう前ほどはトレーニングしてないのでいまはこんな程度の差ですけど、もっと昔はすごかったですね。Tシャツを着ると右腕だけがパンパンで、左腕はガバガバ、そんな状態でした。
――使わない腕も鍛えるんですか?
下川:一緒に腕立てするなどして、もちろん両方鍛えますけど、やっぱりラケットを振ってる時間が利き腕に偏ってしまうので、これはもう仕方がない。右利きであれば、足の太さも右足の方が上回ってきますよ。踏み込んだ時に、最後右足で止まりますからね。バドミントンって結構、踏み込むっていう動作が多いんです。前にダッシュして、グッと右足で踏み込んでジャンプ、あるいは止まったり、とにかく負荷がかかりやすい。腕と足以外だと……そうですね、あとは腹筋がズレてきたりもします。
――腹筋がズレるんですか?
下川:(自分の腹筋を見せながら)もう、腹筋は、見てもらえるとわかりますよね。バドミントン選手全員がそうかはわからないですけど、腹筋ズレますよ。はっきり理由を調べたわけではないですが、おそらく一方の腕だけ振りかぶってブンブン振ってるからじゃないですか?腹筋込みでのけぞるように体もひねりますからね。
■プロフィール
下川裕一(しもかわ・ゆういち)
1981年生まれ。東京都出身。祖父の手ほどきで3歳からバドミントンを始める。淑徳巣鴨高等学校、淑徳大学を卒業後、旭工芸株式会社に入社。実業団選手として16年プレーし、昨年からはコーチ兼選手として活動している。
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