球技最速の時速350キロ バドミントンのシャトルの奥深さとは

下川裕一,バドミントン

バドミントンと聞いて、羽のついたシャトルを思い浮かべる人も少なくないだろう。バドミントンならではの存在だが、ひと口にシャトルと言っても、その種類はさまざまだという。夏と冬では、なんと使うシャトルが違ってくる・・?

バドミントン用シャトルの種類、その選び方について、実業団チームの選手として16年のキャリアを重ね、現在は選手兼コーチを務める下川裕一さんに聞く。

最上級のシャトルは1ダース4000円から

下川裕一,バドミントン

――シャトルはどうでしょう。おもちゃのバドミントンだとプラスチックだったりしますが……。

下川:競技用は水鳥の羽を使います。アヒルとかガチョウとか。シャトルにはグレードがいろいろあって、プロが試合で使うのは一番グレードが上の一種検定品です。バドミントン協会の認定済みのシャトルですね。これだと1本(1ダース)で4000〜4500円くらいです。このシャトルを使って練習することもあります。検定外のシャトルだともっと安く、1本で1500〜2000円くらいのものもあります。ナイロン製のシャトルもありますが、上級者は使いません。

――たとえばプロ野球だと、ちょっと土がついただけでボールを替えちゃうじゃないですか。シャトルの場合、替えどきというのはどう判断するんですか?

下川:羽が折れると飛び方がブレたりするので、そういうのはわかりやすいですよね。あるいは、折れなくても羽が開いたりして全体的にバッサバッサになってくると、急に飛ぶようになったり、飛ばなくなったりするんですよ。そういうときも替え時ですね。

――あれだけパンパン打ってたら、確かにあっという間にボロボロになりそうですよね。

下川:1試合でシャトルを1本使い切るようなこともありますが、練習で使う場合は、そんなに頻繁に変えずに使い続けるようにしたりしてますね。結構なお金がかかっちゃいますから……。シャトルは否応なく消耗するし、ガットは結構な頻度で切れるし(苦笑)。

試合中のシャトル交換は駆け引きの要素も

下川裕一,バドミントン

――試合中にシャトルを変える、変えないというのは選手が決められるんですか?

下川:試合中は選手が主審に確認して、OKが出れば変えられます。単に試合の流れを変えたいとか、そういう理由で交換するのはダメですし、主審に「まだ使えますよ」と言われたらそのままです。ただ基本的には、よっぽど故意的に、たとえば変えたばかりのシャトルを変えたいですとか言わない限りは認めてもらえることが多いです。

変えたばかりのシャトルと、何ラリーかしたあとのシャトルだと飛び方が変わります。急に速度が落ちたりもします。ですから、たとえばスマッシュ主体の選手はなるべく新しいシャトル、スピードが出るものを使いたいですし、逆につなぐタイプの選手は球が取りやすいように、なるべく相手から交換の要望が来るまでは飛ばないシャトルで我慢したりだとか、そういう駆け引きの要素もありますね。ただ、先ほども言ったように、どちらかが交換をアピールした時点で基本的には交換することが多いですね。

――長いラリーだと1回のラリーの間で飛び方が変わってくるわけですか?

下川:そこはもう。刻々と変化していきますね。同じシャトルだけど同じじゃない、みたいな感じ。そこも見越した駆け引きがあるわけです。もちろん1ラリー中では、シャトルになにがあっても基本的にはそのまま続行です。たとえば飛びすぎたからといって、急に「やっぱ今のナシで!」とは当然ならないですね(笑)。

プロは気温や気圧でシャトルを使い分ける

下川裕一,バドミントン

――シャトル交換ひとつとっても、そんな攻防があるんですね。

下川:ちなみに、鳥の羽を使っているせいもあるのか、気温や気圧によってシャトルの飛び方が変わります。暑い体育館だったり、山の上のほうへ行ったりすると「飛ぶ」んですよ。なので、冬と夏では、飛びやすさの異なるシャトルを使います。シャトル番号というのがあって、試合会場の室温などを基準に大会主催者がどの番号のシャトルでいくか決める感じです。数字が大きいほど、低温向きのシャトル、つまり「飛びやすい」シャトルです。夏は飛びにくい番号の小さいシャトルを、冬は逆に番号の大きいシャトルを使う、そんなイメージです。

――そんなに変わるんですか?飛べばいい、という単純なものではないんですね。

下川:飛び方が違うものを使わないと、会場のコンディションによって、同じ力で打っていても結構アウトになっていしまったり、逆に全然飛ばなかったりします。同じ番号でも、製造メーカーや会場環境、温度、気圧などによって飛び方がだいぶ変わるところもあり、そこはぴったり全部同じにはなりません。毎回、試合の場所などによってコントロールする必要はあります。

――同じ場所でも午前なのか午後なのかによって、飛び方が変わっちゃうわけですね。

下川:そうですね。そこのアジャストに時間がかかる選手だと、スロースタートになってしまいます。逆に言えば、そこの調節が早ければすぐ実力を発揮できます。ですから、本番前の練習はかなり大事なポイントになりますね。

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■プロフィール

下川裕一,バドミントン

下川裕一(しもかわ・ゆういち)
1981年生まれ。東京都出身。祖父の手ほどきで3歳からバドミントンを始める。淑徳巣鴨高等学校、淑徳大学を卒業後、旭工芸株式会社に入社。実業団選手として16年プレーし、昨年からはコーチ兼選手として活動している。