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ロシアのウクライナ侵攻がバスケ界にも飛び火。揺れるユーロリーグは「軍事侵略国のクラブと一緒にプレーしたくない」との声も<DUNKSHOOT>

ロシアのウクライナ侵攻は、ユーロリーグにも大きな影響を与えている。(C)Getty Images
2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻したことで、現在両国の間で戦闘が続いている。これを受けてユーロリーグでは、同日の夜に予定されていたバイエルン対CSKAモスクワ戦、バスコニア対UNICSカザン戦をティップオフ直前に中止。25日のゼニト・サンクトペテルブルク対バルセロナ戦も延期となった。

すでにバイエルンの本拠地アウディ・ドームに到着し、コートへと向かう10分前に中止を知らされたというCSKAのディミトリス・イトゥーディスHC(ヘッドコーチ)は「もうすっかり準備はできていた。選手たちも驚いていたよ。バイエルンのコーチや選手たちとも話をして、彼らもプレーする準備はできていた」と困惑。

続いて「スポーツとは本来、人々を団結させるものだ。それにCSKAは国際的なチームであり、多くの外国人選手やコーチが在籍している。私たちはCSKAのカラーを守ってプレーしたいのだ」と訴えた。

この言葉の意図は、CSKAという略語が『軍隊のスポーツクラブ』を意味するように、元はアーミーのクラブだったCSKAが、世界的な非難の対象になりかねない状況を懸念してのものだろう。
この節は、冒頭に挙げたロシア勢の3試合以外は通常通りに行なわれたが、オリンピアコス対アルマーニ・ミラノ戦では、主審を務めたウクライナ人レフェリーが『STOP WAR』と書いた紙を掲げる一面があった。

試合に67−58で敗れた後、ミラノのエットーレ・メッシーナHCは「バスケットボールの試合に負けても、今ウクライナで起きていることに比べれば大したことはない」とコメント。そして「主審のボリス・リジーク氏にお見舞い申し上げる。彼はウクライナで戦争が始まり、ヨーロッパにとって恐ろしい1日となった今日、ここに足を運んでくれたのだ」と彼の勇気を称えた。

ユーロリーグは25日に声明を発表し、3月22日に行なわれるゼニト・サンクトペテルブルク対UNICSカザン戦、4月1日のゼニト・サンクトペテルブルク対CSKAモスクワ戦を除き、ロシア国内で行なわれる予定の試合を、ロシア連邦領域外の中継地で開催する方針であると発表。株主執行委員会の承認を得て正式決定となるが、すでにコロナ禍でスケジュールに影響が出ていることもあり、中断せずにシーズン残りの試合を消化するためには、決定は免れないだろう。
この発表以前から、複数のクラブはすでにロシア勢との対戦をボイコットする意向を発表していた。

翌節の3月3日にUNICSカザンと敵地で対戦する予定のアスヴェルのトニー・パーカー会長は「すでに選手やスタッフには発表している。これはスポーツの枠を超えている。我々の価値観とまったく正反対の状況を受け入れることはできない。我々のチームをロシアに送ることは問題外だ」と、遠征はしないことを断言。

リトアニアのジャルギリスのパウリウス・モティエジュナス会長も「我々は、軍事的な侵略をしている国のクラブとは一緒にプレーしたくない」と発言している。

ウクライナと同じく旧ソビエト連邦だったリトアニア勢の思いは強い。モティエジュナス会長は、ユーロリーグと他クラブにも同じ立場をとることを提案していた。
結果的に、リーグを終わらせることを優先させるという判断から、ロシア以外の領土で行なわれるロシアチームの試合は予定通りに開催されることになったが、モティエジュナス会長は“0−20というスコアで不戦敗”という最小限の制裁で済むなら、自陣で行なう試合もボイコットする意思があることを匂わせている。ただ、ユーロリーグの制裁は、事案によっては10~20万ユーロの罰金や、厳罰となると1~3年の参加資格剥奪もあり得る。

「よって我々は最後通牒を投げつけることはせず、リーグと他クラブと話し合いを続け、統一した決定策を見出したい」とモティエジュナス会長は話した。

一方、ロシア勢のCSKAのアンドレイ・バチューチン会長は「今日、他のクラブの同僚たちの間で、ロシアの安全に対する極めて深刻な懸念があることを目の当たりにしている。残念ながら、我々もゼニトもUNICSも、この件に関して100パーセントの保証はできないし、我々の範疇を超えている」とリーグの決定に理解を示しつつも「中立地では、ロシアのチームは不利な立場に置かれ、ファンを奪われ、追加費用が発生し、スポンサーへの義務を十分に果たすことができなくなる」と、切実な思いを吐露。
ロシアの人々の多くも、同じようにこの戦争を強く非難しているだろうが“攻撃している側”に立たされる彼らの立場は辛い。

とりわけ今シーズンは、レギュラーシーズンが残り10試合ほどとなった現時点で、プレーオフに進出できる上位8位以内に3クラブ(CSKAモスクワ、ゼニト・サンクトペテルブルク、UNICS カザン)を送り込むという、ロシア勢にとっては近年でも際立った活躍の年だった。

また、選手たちの離脱も相次いでいる。

CSKAからはすでに、2012年のドラフトでNBA入りしたジョージア人フォワード、トルニケ・シェンゲリア(元ブルックリン・ネッツ)をはじめ少なくとも4人が離脱。そのなかの1人、デンマーク人ガードのガブリエル・ルンドベリは「家族の安全のためにデンマークに戻る。早くまた元の生活に戻ってほしい」と、「#SayNoToWar」 のハッシュタグ付きでツイートしている。

そのほか、ゼニト・サンクトペテルブルクからは、スモールフォワードのミンダウガス・クズミンスカス(元ニューヨーク・ニックス)ら、リトアニア人選手2人が離脱。2019−20シーズンにはワシントン・ウィザーズで八村塁とも共闘しているポイントガードのシャバズ・ネイピアーも、負傷で欠場中だったこともあり、すでにアメリカへ帰国の途についているという。シーズン途中の離脱は本来であれば契約違反だが、CSKAは「各選手の個人的な状況を理解し、契約については情勢が正常化した時点で解決する」と、ひとまず保留にする方針だ。
選手たちは、それぞれのエージェントやユーロリーグ選手会、ユーロリーグ、FIBAと今後について話し合っていくとのことだが、選手会の会長は、真っ先にウクライナへの支援を表明し、CSKAからの離脱を決行したシェンゲリア。彼の祖国ジョージアも、旧ソ連構成国。ウクライナとは親しい関係にある。

選手会は「大会の継続に関するいかなる決定も、選手、コーチ、クラブ関係者、審判員の安全を絶対的に最優先に考えて行なわれることを強く求め、状況が進展するなか、選手個人および団体に最大限のサポートを提供する」という主旨の声明を発表している。

以前取材で訪れたウクライナの首都キエフは、素晴らしい建築物が立ち並ぶ広々とした美しい街で、地元の人たちは素朴でおっとりしていて治安もよく(ついでに美人も多く)、信じられないくらいに居心地のいいところだった。そんな彼らの穏やかな暮らしが脅かされているこの悪夢のような戦争が、一寸でも早く終わることを強く願う。

文●小川由紀子

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