• HOME
  • 記事
  • テニス
  • 日本リーグで鮮烈なデビューを飾ったプロ1年目の熊坂拓哉。急成長を支えたサービス特化型トレーナーの存在<SMASH>

日本リーグで鮮烈なデビューを飾ったプロ1年目の熊坂拓哉。急成長を支えたサービス特化型トレーナーの存在<SMASH>

昨春、亜細亜大学を卒業してプロになった熊坂拓哉。初めて出場した日本リーグで旋風を巻き起こした。写真:田中研治
先日幕を閉じた「テニス日本リーグ」で鮮烈なデビューを飾った選手がいる。亜細亜大学を2021年春に卒業、プロ転向して1年弱の熊坂拓哉(マイシン)だ。

大学時代は4年生の時に関東学生トーナメントで準優勝、インカレ室内でベスト4と、学生テニス界のトップグループにいた選手であることは間違いないが、国内上位のプロを相手にいきなりここまでやるとは正直思わなかった。日本リーグ1stステージ、2ndステージと熊坂は全勝。しかも徳田廉大(イカイ)や斉藤貴史(橋本総業HD)といった実力者たちを破っているのだ。

いったい熊坂に何が起こったのか? 話を聞いてみた。

「実は半年ほど前からサービスを強化していて、今までよりいいプレーができると思ってはいたんです」。日本リーグでの活躍について尋ねると、こんな言葉が返ってきた。「(予選ステージを)全部勝ったのは自分でもびっくりしましたが、サービスが良くなっているのは実感していたので…」
昨春プロ転向した熊坂は、6月から新たなトレーナーに師事し始めた。柴原瑞樹氏——女子選手の柴原瑛菜の実兄で、サービスに特化した指導やトレーニングを施すトレーナーとして知られる。それまで決してサービスが得意ではなかった熊坂は、柴原氏によってサービスを根本から矯正されたという。

「身体の使い方に始まって、腕のスイング、柔軟性の生み方、トスの位置、トレーニング法……など、簡単なことから細かいところまで指導してもらいました。自分で動画を見比べても、フォームが半年前とはだいぶ変わりましたね」

それによってどんな効果がもたらされたのか?「スピードも回転量も上がった」と熊坂は言うが、一番大きかったのは「トスの位置がどの球種でも“1時方向”になった」ことだ。

「同じ打点で打つことで、相手に球種やコースを読まれにくくなったので、エースが増えたし、セカンドを叩かれることも減りました」。これは単純な球速や回転量のアップ以上に、計り知れないメリットになっているという。
その効果が少しずつ試合にも表れてきたところで迎えたのが日本リーグだった。だから今回の活躍は本人にとって想定外ではなかった。徳田や斉藤は熊坂から見れば「格上の選手」だが、1stステージで見事に勝利。これまでは「そういう相手に勝ち切れないことが多かったけれど、勝ち切れて自信になりました」と確かな手応えを得た。

決勝トーナメントでは徳田に雪辱を許したが、今度は菊池玄吾(エキスパートパワーシズオカ)から白星をもぎ取り、また存在感を示した。今や若手プロの中でも警戒される存在になってきている。

熊坂は日大山形高校出身。ジュニア時代の最高成績はインターハイ3回戦で、決してトップジュニアではなかった。しかし大学の4年間で力を付け、卒業後も成長を続け、ここまでになった。
彼がプロになろうと決意したのは、大学1年の冬に全豪オープンをセンターコートで観戦し、「いつかここでプレーしたい」と思ったことが原点になっているという。当時は何の実績もなく、こう言っては失礼だが、プロなど非現実的な目標だったろう。

しかしそれを本気で思い続け、実現してしまう執念深さのようなものが彼には感じられる。亜大の森稔詞コーチによれば、普段の練習でも、相手がいなければ球出しマシーンを持ち出して何時間でも打ち続けるのが常だという。

熊坂に今後の目標を聞くと「グランドスラムのセンターコートでプレーすること」とブレがなく、「ここ5年くらいで達成したい目標」だと言い切る。

これも多くの人が途方もない夢だと思うだろう。だが、熊坂のことだからまた少しずつ階段を上り、実現してしまうかもしれない——そんな期待を抱かせる未知数の選手である。

取材・文●渡辺隆康(スマッシュ編集部)

【PHOTO】身体を柔軟に使った熊坂拓哉のフラットサービス『30コマの超分解写真』

関連記事