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大坂なおみが世界の頂へと駆け上がった起点。記憶に刻まれたインディアンウェルズ初優勝【シリーズ/ターニングポイントPart1】

4年前のインディアンウェルズでツアー初優勝を飾り、トロフィーの横で初々しくスピーチした大坂。「思い出の場所」で再び頂点を目指す。(C)Getty Images
トップ選手には世界へと駆け上がる過程で転機となった試合や出来事があるものだ。このシリーズでは国内外のテニスツアーを取材して回るライターの内田暁氏が、選手自身から「ターニングポイント」を聞き出し、心に残る思いに迫る。第1回は大坂なおみだ。

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「誰にどうやって勝ったかなど、優勝へのプロセスを全て覚えているの。それは私にとって、ものすごく珍しいこと。だって普通は、何も覚えていないから……」

そう言い彼女は、少しばかり決まりが悪そうに笑った。当人がいぶかしがるほどに戦歴をよく覚えているのは、この大会が「ツアー初優勝だった」ことも大きいという。

カリフォルニア州で開催の女子テニスツアー「BNPパリバ・オープン」(インディアンウェルズ)は、大坂にとって、世界が変わるターニングポイントだ。

マリア・シャラポワ、アグニエスカ・ラドワンスカ、サーシャ・ビッカリー、マリア・サッカリ、カロリーナ・プリスコワ、シモナ・ハレップに、ダリア・カサキナ。これが、彼女が克明に「覚えている」という、優勝までの対戦相手たちである。

今から4年前の2018年——。彼女は世界の44位として、インディアンウェルズの会場にいた。そのシーズンから新たにサーシャ・バインをコーチにつけ、インディアンウェルズ大会では、パフォーマンスコーチとしてアブドゥル・シラーを招いた時分である。
チームとしての体勢を整え、本格的にトッププレーヤーへの道を歩み始めていた気配は、おのずと周囲にも伝わっていた。初戦で「子どもの頃から尊敬していた」というシャラポワを圧倒した時、彼女のなかで何かがカチリと噛み合う。

7つの白星のうち、最も苦戦したのは、4回戦のサッカリ戦。この関門を突破した後の彼女の加速は、ハレップ戦の第2セットを6−0で取った時にピークを迎える。その止めようのない疾走のまま、彼女は頂点を駆け抜けた。

「こんにちは、皆さん。私の名前は、ナオミ・オオサカです」

圧巻のプレーとあまりに対照的なぎこちないウイナースピーチが、観客たちの柔らかな笑いを誘う。祝福の声とまぶしい陽光を浴びながら、彼女ははにかんだ笑顔で、キャリア最高の瞬間を迎えていた。

あれから4年——。

「ここは本当に良い思い出がある場所。自信が生まれて、だから同じ年のUSオープンで優勝できたのだと思う」

幼い頃から夢見たUSオープン優勝、そして世界1位へと駆け上がる躍進の起点には、この砂漠の町で抱いた、バカラのクリスタルトロフィーがあったと振り返る。

「全豪の後は、あまり休みを取らずに練習を始めた。この大会で結果を残したいから。それがここに来た理由」

新たな追い風を求めて、彼女は思い出のコートへと向かう。

取材・文●内田暁

【PHOTO】大坂なおみの全豪オープン2022厳選ショット!

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