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大坂なおみ、全豪3回戦敗退でランニング急降下確定も「今はとてもポジティブな気分なの」と笑顔を浮かべる理由<SMASH>

前年優勝のポイントを失った大坂は大会終了後にランキングを大きく下げるが大坂本人はそれ以上の精神的な落ち着きを手に入れたようだ。©Getty Images
広いインタビュールームの席に座る彼女は、ときおり、笑みさえ浮かべていた。

「外界を遮断するために付けている」と告白していたヘッドホンも、首元に見当たらない。

6−4、3−6、6−7(5)の大接戦の敗戦から、約30分後の会見。敗戦を振り返る大坂なおみは、「やれることは、全てやった」と、穏やかに言葉をつむいだ。

全豪オープン3回戦で対戦するアマンダ・アニシモワを、大坂は戦前から、危険な相手と踏んでいただろう。14歳でグランドスラム予選に出場し、17歳の時には、全仏オープンでベスト4へと駆け上がった早熟の女王候補。ここ2年ほどは足踏みの時が続いたが、潜在能力の高さは誰もが認めている。名コーチのダレン・ケイヒルをコーチに招いた今季は、開幕戦のWTAツアーで優勝し、連勝街道疾走の最中で迎えた、両者の初顔合わせだった。

初めての選手と対戦する時、大坂は事前に得る情報を「鵜呑みにしないようにしている」という。大坂と対戦する時、多くの選手は、「速く攻めリスクを負った、いつもと違うプレーをしてくる」から。加えて、その選手の打つボールの質やスピードも、実際に受けてみることでしかわからない、精緻な身体感覚だ。
実際にアニシモワと対峙した時、大坂は「驚いた」と認めている。

「凄く強かったり、重いというのも違うけれど……ものすごく早く返ってくるので、備える時間が無かった」

それが、大坂が覚えた「驚き」の内訳だ。大坂の強打に一歩も引かず、ネットすれすれの強打で真っ向勝負を挑む20歳の姿には、並々ならに覚悟がみなぎる。打ち合うごとに加速する超ハイペースのストローク戦を、大坂は「テーブルテニス(卓球)風テニス」と表現した。

加えて大坂を苦しめたのが、アニシモワのリターンである。第1セットこそ大坂のサーブ力が上回るも、ゲームが進むにつれ、タイミングとコースを読んだかのように、アニシモワのリターンがコートに刺さった。

セットを分け合い走り込んだファイナルセットでは、両者激しく肩をぶつけ合うかのような、並走状態が続く。ゲームカウント5−4のアニシモワのサービスゲームでは、大坂が2本のマッチポイントをつかみもした。だがこの局面で大坂は、いずれもやや力んだバックの強打をネットにかける。結果的には、好サーブを連発したアニシモワが窮状を切り抜けた。
流れがめまぐるしく変わり、両者の気合い籠る「カモーーン!」の叫び声が交差するなか、試合の行方は10ポイント先取のタイブレークにもつれ込む。

結論から言うと、勢いがモノを言うこの短期決戦を制したのは、「タイブレークが、一番リターンが良かった」と後に笑う、アニシモワ。178キロのエースで死闘にピリオドを打った20歳は、ラケットをその場に落とし、こぼれる笑みを掬うように両手で顔を覆った。

負けはしたものの、大坂にとっても良い試合だったのは、間違いない。ただ、前年優勝者という立場を考えた時、3回戦での敗退は痛手ではある。大会後、大坂のランキングは80位台まで落ちることが、ほぼ確実。全てのツアー大会に、出たいように出られる立場ではなくなる。

約4か月間のブランクが、今日の結果に影響したか——?

その問いに大坂は、「私は感じなかったけれど、コーチは、事前にリターンの良い選手との試合経験があれば、結果は違っていたかもと言っていた」と応じる。ただ「これは私が選んだこと」と、選択そのものに悔いはないと断言した。

「神ではないのだから、全ての試合に勝つことは不可能」と穏やかに語る姿は、「全ての試合で勝たないとダメだと思ってしまう」と目を伏せたかつての姿勢とは対照的。

そのような心持ちになれた理由を、彼女は次のように語った。
「今シーズンを迎えるにあたり、わたしは、年間を通してプレーすること、そのためには、素晴らしい態度を維持しないといけないと自分に言い聞かせた。すべてのポイントを全力で戦い、持てる力を出し切れば、観ている人たちも、それ以上を望まないということが分かった」。

同時に彼女は、アニシモワのような若き力の台頭を嬉しく思うと、幾分興奮気味に言った。

「自分を成長させてくれる相手と対戦するのは、すごく嬉しいことでもある。私は今日の試合で、彼女のようなリターンが打てるようになりたいと思ったもの。だからすぐにでも、練習がしたい気分なの」

でもそれは、たぶん明日ではないわね——そう付け加え、彼女はいたずらっぽく笑った。

大きく下がるランキングは、年間を通じ世界各地を転戦する、“プロツアープレーヤー”の原点に、彼女を立ち返らせるかもしれない。

「今日の試合から多くを学んだ。次の大会に向け、今はとてもポジティブな気分なの」

そう語る彼女の口角があがり、自然と穏やかな笑みがこぼれる。

頂点を目指し山を登る過程では、一歩ごとに変わる景色を目に移し、空気の変化を肌身で感じる喜びがある。

その新たな冒険を、大坂は純粋に楽しみにしているようだった。

現地取材・文●内田暁

【PHOTO】全豪OPを戦う大坂なおみの厳選ショット!

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