27歳で卓球場を開業し生徒100名以上 「中間層を強くしたい」Kスタジオ卓球教室が人気を集める理由

岐阜県羽島郡にあるKスタジオ卓球教室。子どもから大人、さらには障がいを持つ方まで幅広く受け入れ、レッスンはキャンセル待ちが続く人気のクラブだ。

今回、代表の長屋洸佑さんに、教室立ち上げの背景から指導方針、そして地域との関わりや家族との関係まで、じっくりお話を伺った。

バイトで貯めた1000万円、27歳で土地を購入して開業

――まず長屋さんの卓球の経歴をお伺いしても良いでしょうか?
長屋洸佑さん:高校は京都の東山高校に進学し、卓球に打ち込みました。しかし、怪我で高校2年生のときに岐阜聖徳学園に編入という形で岐阜県に戻ってきました。

一度選手として頑張ることを諦めたのですが、高校3年のインターハイ前に「やっぱりもう一花咲かせたい」と思い、一念発起。何とかインターハイには出場することができました。

写真:現在は指導者として活躍する長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部
写真:現在は指導者として活躍する長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部

長屋洸佑さん:その後は子供が好きだったので、短期大学に進み、保育士資格や幼稚園教諭免許も取得しました。

当初は保育士や幼稚園教諭の道も考えましたが、「子どもと関わりたい」という思いは卓球にも通じると感じ、Kスタジオ卓球教室を27歳でオープンしました。2024年の10月で3年目に入ります。

写真:保育士資格や幼稚園教諭免許取得で学んだことを活かして卓球以外の指導も行う/提供:Kスタジオ卓球教室
写真:保育士資格や幼稚園教諭免許取得で学んだことを活かして卓球以外の指導も行う/提供:Kスタジオ卓球教室

――若くしての卓球場オープンは不安などはありませんでしたか?
長屋洸佑さん:高校時代に卓球に挫折してからはアルバイトを始めて、貯金することが好きだったので、コツコツ貯めて24歳で開業できる金額を準備することができました。これは皆さんに驚かれますね(笑)。

27歳でローンを組んで自宅兼卓球場をオープンしたのですが、それまで貯めていたキャッシュで土地を購入できたのも大きかったと思います。やればできるなっていう感じですね(笑)。

写真:Kスタジオ卓球教室の外観/提供:Kスタジオ卓球教室
写真:Kスタジオ卓球教室の外観/提供:Kスタジオ卓球教室

――すごいですね…。やればできるの範囲が広すぎます(笑)。
長屋洸佑さん:周りの手はもちろん借りていますが、できる限り最初は自己資金でと考えていたので、自分の中でもちょっと自信には繋がりましたね。

写真:Kスタジオ卓球教室の練習風景 レッスンの生徒はほぼ満員状態とのこと/提供:Kスタジオ卓球教室
写真:Kスタジオ卓球教室の練習風景 レッスンの生徒はほぼ満員状態とのこと/提供:Kスタジオ卓球教室

平等な指導で“中間層”を強くしたい

写真:生徒たちに声をかける長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部
写真:生徒たちに声をかける長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部

――指導方針で大切にしていることはどういうところでしょうか?
長屋洸佑さん:僕がよく言ってるのが「中間層強化」です。具体的には、「部活動でレギュラーになれるまで」というところを指導したいと思っています。

全国レベルの選手も数名いますが、基本的にはどの子にも平等に接しています。

週1で来ていた子が上達していく中で、週2、週3と練習を増やしていきたくなるような流れを大切にしています。

――素晴らしい指導方針ですね。他に何かKスタジオ卓球教室ならではの特徴はございますか?
長屋洸佑さん:大人コースは最大10人まで、ジュニアコースは最大15人までと定員を設けて、必ずスタッフが全員を見るようにしています。

キャンセル待ちが多く発生してしまい、申し訳ない気持ちもありますが、質を落とさないことを優先しています。

写真:Kスタジオ卓球教室の様子/撮影:ラリーズ編集部
写真:Kスタジオ卓球教室の様子/撮影:ラリーズ編集部

――家族での指導体制も1つ大きな特徴ですね。
長屋洸佑さん:私は“怖い先生”の役割です(笑)。

他のコーチにはそれぞれ役割があり、たとえば妻の長屋みなみコーチが叱ったら「それは本当にまずいぞ」という合図。

逆に義父の後藤コーチは子どもたちにとって“なんでも話せる存在”。このバランスが教室のメリハリを生んでいるのではないかと思っています。

写真:球出しをする長屋みなみさん 岐阜商業高校ではインターハイ学校対抗ベスト8/撮影:ラリーズ編集部
写真:球出しをする長屋みなみさん 岐阜商業高校ではインターハイ学校対抗ベスト8/撮影:ラリーズ編集部

――家族と言えば、太陽くんのホカバでのプレーが大きな話題を呼んでいましたね。
長屋洸佑さん:大きい体育館で試合するときに泣かないよう、雰囲気を味わせようと思い申し込みました。しかし、4人しか予選に申し込んでなくて、予選なしでバンビの部で通過してしまいました。

まさか通過するとは思いませんでしたが、出る権利が得られたならわざわざ断る理由もないので、本戦も出場しました。

写真:講習会の空き時間に一般用の台で打っていました 卓球台の下から打つことになるまだまだ小さい長屋太陽/撮影:ラリーズ編集部
写真:講習会の空き時間に、一般用の卓球台で練習していました 卓球台の下から打つことになるまだまだ小さい長屋太陽/撮影:ラリーズ編集部

――YouTubeでも2000万回を超えた再生回数になっていましたね。
長屋洸佑さん:テレビ東京さんがYouTubeにもあげてくれて、感覚がわからないのですが、おそらくすごいバズり方をして。再生回数2000万回と想像を超える数字になっていました。

慣れていなくてコメントも全て見てしまいました。

良いことが大半だったのですが、中には心無いコメントもありへこみました。出さなければよかったとまで思っちゃいましたからね。

写真:ホカバ本戦での長屋太陽(Kスタジオ卓球教室)/撮影:ラリーズ編集部
写真:ホカバ本戦での長屋太陽(Kスタジオ卓球教室)/撮影:ラリーズ編集部

――確かにYouTubeのコメントは心無いものもありますからね…。
長屋洸佑さん:まあ申し込んじゃった僕が悪いんですけどね。今はもう吹っ切れました。

太陽には「自分の人生、頑張れば良いことを味わえるし、普通にやっていたら普通のままだよ」と伝えています。

次は実力で注目されるようになってもらいたいですね。

写真:台に乗って練習する長屋太陽/撮影:ラリーズ編集部
写真:台に乗って練習する長屋太陽/撮影:ラリーズ編集部

卓球が生徒の人生を変える

――どのような方が通われているのでしょうか?
長屋洸佑さん:今は4歳から80代まで幅広い層の方が通っていて、障がいを持つ方も15〜16名在籍しています。

「一緒に過ごすことで学べることがある」と考え、すべての方を平等に受け入れています。

卓球の上達はもちろん、体を動かす楽しさや、チームとしての連帯感も大切にしています。

写真:Kスタジオ卓球教室での講習会の様子/撮影:ラリーズ編集部
写真:Kスタジオ卓球教室での講習会の様子/撮影:ラリーズ編集部

――運営をしていて、印象に残っているエピソードはありますか?
長屋洸佑さん:もちろん全国大会に出場したり、上位にランクインしたりという結果は嬉しいです。

でも一番印象に残っているのは、学校でいじめを受けていた生徒が、地区大会で結果を出して学校で表彰され、その結果いじめがなくなったという話です。

「卓球を通じてその子の人生が変わった」と実感した瞬間でした。

――素晴らしいエピソードをありがとうございます。

逆に運営をしていて大変なことはどういうところですか?

長屋洸佑さん:気づけば3年間、ほぼ休みなく働いていました。レッスンが終わった夜に個人レッスンを入れたり、家族との時間が後回しになってしまったり。

でも、今が一番頑張るべき時期だと思っているので、少し無理してでも“土台”を作りたいと考えています。

とはいえ、家族の理解も必要ですし、今後は働き方も見直さないとと思っています。

写真:長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部
写真:長屋洸佑さん/撮影:ラリーズ編集部

――これからの目標や展望について教えてください。
長屋洸佑さん:「日本一を目指す」というよりは、平等にしっかり一人ひとりを見られるクラブでありたいと思っています。

もちろん上を目指したい選手には、向き合って指導しますが、「ほぼ初心者でも一生懸命教えてくれる」とか「運動が好きになるよ」とか言われるようになる方が、僕は良いような気がしています。

いろいろ悩むこともありますが、妥協せずに卓球に向き合っていきたいですね。

写真:Kスタジオ卓球教室の集合写真/提供:Kスタジオ卓球教室
写真:Kスタジオ卓球教室の集合写真/提供:Kスタジオ卓球教室

取材・文:山下大志(ラリーズ編集長)