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中村俊輔(横浜FC)

魔法使い・中村俊輔の引退、華麗なキャリアの裏にある挫折。気になる次なるキャリアは指導者か?

写真:中村俊輔(YUTAKA/アフロスポーツ)

(大会直前のため再掲載)

2022年10月18日に発表されたのが、元日本代表MF中村俊輔(横浜FC)の今季限りでの現役引退。神奈川の名門・桐光学園から1997年にプロ入りして以来、横浜F・マリノスをはじめ3チームでプレーしたJリーグ、イタリア、スコットランド、スペインと3ヶ国でプレーした欧州の地で輝きを放ってきた。また、日本代表では長年にわたり背番号10を背負い、栄光も挫折も経験しながら10年にわたり日本を牽引してきた。唯一無二の存在として君臨してきたレフティーが、26年の現役生活に別れを告げた。(文・井本佳孝)

ワールドクラスのFKで世界を魅了

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(Photo by alphaspirit)

稀代のレフティー、ファンタジスタ、魔法使い…。中村俊輔を表現した呼称は多数あるが、多くのファンに支持されたのがそのテクニックを活かした華やかなプレーである。左足を活かした繊細なテクニックやドリブル、長短織りなす精度の高いキックは一振りで試合を変えてしまうほどの影響力を持つ。味方FWにとっては心強い存在であり、相手DFにとってはその存在だけで驚異に落とし入れてしまう選手であった。

現代サッカーでは中央で試合を組み立てる“10番タイプ”の選手が少なくなり、サイドアタッカーに技術の高い選手を置く傾向に変わり、次第に右サイドでもプレーするようになった。そんななかでも、中村の持ち味が一番活きるのはトップ下であり、中央でゲームを組み立てゴール、アシストに絡むプレーは魅力的だった。日本代表ではジーコが監督を務めた2002年から2006年にかけて、中田英寿や小野伸二といった司令塔タイプと共存し、稲本潤一を含めたカルテットは“黄金の中盤”と呼ばれ、個性が重なり合う夢のメンバーで一つの時代を築いた。

また、中村の代名詞と呼べるのがフリーキックの精度で、国内ではJ1最多となる24本もの直接FKを沈めてきた。イタリアのレッジーナを経て移籍したスコットランドのセルティックではチャンピオンズ・リーグに出場し、当時“世界最強”の一つであったマンチェスター・ユナイテッドから2試合連続の直接FKを決めてみせ、チームを初のCLベスト16に導いた。スコットランドリーグMVPにも輝くなどセルティックの伝説になった中村の存在は、その後、日本人選手に対してのポジティブなイメージを作り上げた。古橋亨梧や前田大然といった選手たちがセルティックでプレーする今も、同クラブの栄光を知る伝説の選手として、中村俊輔という名前が語られている。

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(Photo by FrankCornfield)

苦境味わったW杯をバネに進化

そんな中村だが、栄光に彩られたキャリアの一方で多くの挫折も味わってきた。2002年の日韓ワールドカップでは直前にメンバー落選の屈辱を味わい、日本史上初のベスト16入りのメンバーに入れなかった。また、2010年南アフリカ大会では、メンバー入りはしたものの、チームの不調もありレギュラーから外れ、日本の背番号10はチームをベンチからサポートする側に徹した。この大会で日本代表から引退することとなった。グループリーグ敗退となった2006年ドイツ大会と合わせて、W杯は中村にとってほろ苦い舞台となってしまった。

しかし、W杯で味わったそれぞれの苦境を力に変えてきたところが中村のキャリアにつながっていった。2002年日韓W杯メンバー落ちを経て、移籍したレッジーナで経験を重ね、2006年ドイツ大会後セルティックで全盛期と呼べる時期を過ごした。2010年の代表引退後のJリーグでは、2013年に自身初の2桁得点を達成し、渡欧前の2000年以来自身2度目となるMVPを獲得した。華麗なプレーの半面、節目で訪れた逆境や挫折をバネにして生き抜いてきた泥臭さも中村が人を惹きつける要因かもしれない。

その後、ジュビロ磐田でのプレーを経て加入した横浜FCではキャリア初となるJ2でのプレーも経験した。三浦知良(現鈴鹿ポイントゲッターズ)、松井大輔(現Y.S.C.C.横浜)という海外経験も豊富な元日本代表選手たちとも共闘するなど、メディアからも多くの注目を集め続けた。また、年齢を重ねてもなおサッカーを探求する姿勢は、生きるレジェンドとして若い選手たちの教科書となっており、来季J1に昇格する横浜FCが“俊輔イズム”をどのように受け継いで、J1の舞台で躍動していくかは興味深い。


(次のページ「期待される指導者としての姿」へ続く)

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