悔しさの果てに成長を遂げてきた、法政大学・永戸勝也。新天地の仙台でもその姿勢を貫く
常に置かれた環境で結果を出す
永戸は、決して順風満帆にサッカー人生を歩んできたわけではない。それは、彼が歩んできた足跡を振り返えれば理解出来る。選手権で味わった悔しさを経て、進学した法政大学では「正直、試合に出られるとは思っていなかった」。だが、大学1年時から持ち味の“左足のキック”を武器にレギュラーに定着するなど、常に置かれた環境で結果を出し続けてきた。だからこそ、筆者は永戸を“自分と向き合える人間”だと強く感じるのだが、それに当たって印象的な出来事がある。それは、2015年8月の総理大臣杯2回戦、対戦相手は関西学院大学との試合だ。
法政大学は、2014年のこの大会で準優勝という結果を残した。永戸はこの記録を含めて1年をこう振り返る。「大学2年生は全てが変わったと思います。とにかく結果が出たのが1番大きいです。結果が出てくると全然違うんです。良い言い方ではありませんが、ピッチの上で相手を見下せるんです。対戦相手に恐怖を感じなくなるというか。そうなると、もう負ける気がしません」
大学2年時は、総理大臣杯準優勝、関東リーグ2部優勝など、1年を通して結果が出たシーズンであった。そして、成功体験は人を急速に成長させる。
だからこそ、翌年の総理大臣杯は“優勝”の2文字しか見えていなかったはず。だが、関西学院大学との一戦は、拮抗した戦いを見せたものの1−2で敗戦。 そして、ハイライトは、法政大学が逆転を許したシーン。永戸が関西学院大学・森俊介との1対1の駆け引きで上を行かれ、決勝ゴールを決められたのだ。その後、西の王者である関西学院大学は、歩みを止める事なく勝ち進み、“初優勝”という歳冠を得た。
優勝を目指して戦った法政大は、2回戦で敗退。悔しくないはずがない。しかし、試合後の取材では、永戸は悔しさよりも、とにかく自分と向き合っていた。常に己に矛先を向け、自分のレベルを感じ取る。「滅多に味わう事が出来ない気持ちになりましたが、あのようなシュートがあると自分の頭に入れておかなければいけませんし、その舞台で仕留める力という意味では、“差”があったと思います」こう言っていたのが、非常に印象的である。
“全国の舞台で仕留める力”というものを、身を持って体感して出た言葉だ。だが、自分の弱さに気づけた時に、人はまた1歩前に進む事が出来る。そして、弱さを素直に受け入れられる人間性もまた、彼の魅力である。
永戸を指導した多くの監督が彼のプレーだけでなく、その部分にも言及をする。
「大学1年時の永戸はヤンチャでした。だけど、ヤンチャな人間の方が良いんです。真面目な性格の人間は、試合の本番で80%ぐらいしか力が出せない事が多いから。だが永戸の様な人間は“自分を飛び越える”事が出来るんです。自分自身を飛び越える事が出来る人間は、試合の本番で120%の力を出せます。そこが彼の1番の強さです」。とは法政大学・大石和孝元監督の言葉。
「プロになる選手は、何か秀でた武器を持っていなければその舞台には行けない」と永戸は語るが、彼は目に見えない大きな武器も持っている。
だからこそ思う。新天地の仙台で、自分自身を飛び越え、彼の120%のプレーを見せてほしい。そして、多くの仙台のサポーターが永戸に魅せられていく事を楽しみにしたい。
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