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鹿島アントラーズ×メルカリが生む、スポーツ界のデジタルイノベーション

鹿島アントラーズ×メルカリ

2017年4月7日、日本サッカー界にある1つの大きなニュースが流れた。それは、若年層に大きな支持を得ている日本最大のフリマアプリ「メルカリ」が、2016年度の明治安田生命J1リーグチャンピオン・鹿島アントラーズのクラブオフィシャルスポンサーになるというもの。

1月には障がい者アスリートを雇用してスポーツ界へ足を踏み入れたばかりのメルカリの次なる舞台への取り組みに移るスピード感には驚かされるばかりだが、今回のパートナーシップ締結の裏にはどういった経緯があったのか。そして、その狙いとは。

“世界を目指す”という共通点

スポーツチームとIT企業という別のカテゴリに属する両者だが、二つの共通点がある。それは”勝ちにこだわること“、“世界を目指す”という点である。2016年、FIFAクラブワールドカップで決勝に進み、世界の頂点まであと一歩に迫った鹿島アントラーズ、そして「新たな価値を生みだす世界的なマーケットプレイスを創る」というミッションを掲げる株式会社メルカリ。フリマアプリの市場で”勝利にこだわる”という部分も含めて、鹿島アントラーズと通ずる部分はある。フィールドは異なるが、目指すところは一緒だ。

※ 参考記事:メルカリの次のステージはスポーツ!?新たな領域へ進出したその理由とは

その共通項が今回の提携に繋がった1つの要因だが、メルカリとしてこのパートナーシップ契約において重視している点は、単なる企業名の露出ではない。

「メルカリさんと今回パートナーシップ契約を結んだメリットとしては、両社が獲得している顧客が不一致している点にあります。メルカリさんのユーザーは20〜30代の女性が中心ですが、アントラーズは30〜40代の男性やファミリー層が多い。そのためマーケット・新規顧客の開拓に繋がるというメリットがあると感じました」

鹿島アントラーズでスポンサー営業担当を勤める大澤隆徳氏はこう語る。鹿島アントラーズとして欲している新たなサポーター層とメルカリのユーザーが一致することで、互いに補完しあい、持っている事業の拡大のための新規顧客獲得に繋がる可能性があるということだ。そして、メルカリ側としてもその期待感を持っている。

メルカリの広報を務める中澤理香氏は「メルカリは国内4,000万ダウンロードを超え、中でも女性ユーザーが多いというイメージがあります。ただ、女性ばかりではなく男性や、幅広い年齢層の方にもユーザーになってもらえるようなサービスにしたいと考えているんです。その中で”スポーツ”というカテゴリは特に男性が多い。鹿島アントラーズさんとパートナーシップを結ぶことは、メルカリに男性を引き込める可能性があると感じています。また、スポーツクラブ側としてもメルカリの主な顧客である若い女性を取り込むことができるきっかけになる」と語った。

「メルカリとして一番メリットが大きいのは、鹿島アントラーズ提供品の出品です。難しいと言われがちなグッズの提供ですが、鹿島アントラーズさんがクラブアカウントを作成し出品していただくことになりました。スポンサーというと名前を出すだけになりがちですが、様々な取り組みを行う中で出品も選手とサポーターの距離が近く直接的なやり取りができることはクラブ、ファン・サポーターの両者にとっても良い点だと感じています」

(中澤氏)

「サッカー界は閉鎖的な部分も多いので、メルカリさんの様な企業がクラブのスポンサーになっていただくことで、我々の価値観、クラブの見方、ファン・サポーターの皆様へのサービスが劇的に変化するチャンスだと思っています。

カシマサッカースタジアムのコンコースは、他のスタジアムと比べてもかなり広く、スポンサーやホームタウン・フレンドリータウンのイベントを行う際にメリットになる部分は多いです。ただし、昨今スポンサー企業からは広告露出やブランド名露出だけではなく、リアルの場でのアクティビティの要望も多くなり、コンコースが広いといえども限界は出てきます。その中で今回のスポンサー契約の中の1つであるスタジアム太陽光パネル下を、マッチデーにおいて、「メルカリロード」と命名しましたが、このスペースを活用したイベントやクラブが進めるデジタル戦略において、メルカリさんのノウハウをお借りし、様々な施策を行い、ファンサービスの向上を図りたいと考えております」

(大澤氏)

両者ともにこの提携から生み出される新たなスポンサーシップの形に、大きな期待を寄せている。

“メルカリ×鹿島”のデジタル施策を指揮する、ある企業

今季、鹿島アントラーズは“デジタルという新たなプラットフォームで、サポーターと心をつなぐ”というスローガンを掲げている。その中の1つとして、高密度Wi-Fiをスタジアムに飛ばす施策をスタートさせた。クラブとしてもデジタル化を進めていく中、日本を代表するITサービス企業であるメルカリとも連動して様々な取り組みをしていこうと考えている。

そんな中、メルカリと鹿島アントラーズの双方にとってデジタル面で大きなメリットを生み出すために“スポンサーアクティベーションパートナー”として間に立つのがSkyBall株式会社だ。

サッカー動画サービスである「サカチャン」を運営する同社は契約交渉・締結、看板広告など一般的な広告代理店の機能はもちろん、デジタルを中心とした施策を企業、クラブの間に入って、企画、制作していく。2017年4月8日に行われた施策であるメルカリウォールやPICSPOTに関しては、スタジアムに来場したサポーターだけでなく、いかにweb上で拡散させられるかが肝であった。その中で“どうやってSNSに投稿してもらうか” “そこからどうやって更なる反響を呼ぶか” という部分をクラブと一体になって共に設計していったのが同社である。

「スポーツ業界で約1年活動してきた中で改めてスポーツの偉大さを感じ、その力をもっと大きくしていきたいと感じました。その中でメルカリ小泉さんとスポーツマーケティングを議論する機会があり、このような展開になったんです。

鹿島アントラーズはクラブW杯準優勝、メルカリもグローバルを本気で獲りにきている。この2社の組み合わせはベストだと思いました。個人的には、子どもの頃に楽天野球団の参入を見ていて、非常に刺激を受けました。メルカリと鹿島アントラーズの両社の発展に貢献することが、我々の使命であり、そこで新しい事例を作ることが、スポーツ業界の発展につながると思っています。このような大きな取り組みは初めてですが、クラブや関連団体と連携して、あらゆるアクティベーション事業は行っています。東京五輪・パラリンピックもあるので、弊社が主導で新たなスポーツマーケティングを創っていきたいとも考えています。

スポーツ系スタートアップに大きな成功事例がないのも、スポーツ業界のイノベーションが遅れてしまう原因だと思っていますので、弊社としてはそれを創っていきたいなと。それも我々のスポーツ業界発展に向けた使命だと感じています。」

SkyBallの代表を務める熊谷祐二氏は参画の経緯とこの取組に掛ける想いをこう語った。

参考記事:中村俊輔360°FK動画の仕掛け人。iemoから独立した熊谷祐二が語るスポーツ×VRの新たな時代

ノベルティが取り付けられた“メルカリウォール”

パートナーシップ契約に伴い、アントラーズのホームゲーム及びクラブ関連イベント開催時に限りJR鹿島サッカースタジアム駅から茨城県立カシマサッカースタジアムに続く道が「メルカリロード」と命名された。そしてこのメルカリロードには、2017年4月8日限定で全長約16メートルに及ぶ「メルカリウォール」が設置され、限定のノベルティグッズが取り付けられた。全てのノベルティグッズを取り外すとメルカリからのメッセージが表れる仕組みとなっていたが、9:30に配布開始となったグッズは約一時間で全てサポーターの手元へ。

鹿島アントラーズ×メルカリ

取り付けられたノベルティグッズがなくなるとメッセージが出現する

ノベルティグッズ

ノベルティグッズはTシャツ、リストバンド、サングラスの三種類が1セットになったもので合計1000セット用意された

メルカリウォールにてオリジナルのメルカリ×鹿島アントラーズノベルティグッズを手にしていた親子に尋ねるとスタジアムの近隣に住んでいるということで、先日のイベント情報を聞き9時半にはスタジアムに到着していたという。

オリジナルステッカー

写真提供:メルカリ

入場特典として全員に鹿島アントラーズ公式マスコットキャラクター「しかお」とメルカリがコラボレーションしたオリジナルステッカーの配布がされた。ステッカーの裏の招待コードを見ながらアプリをダウンロードしているサポーターも多く見られた。※6つのデザインの中から1枚配布。

PICSPOT

スタジアム内コンコースでは来場者がスマートフォンで撮影した写真に“#メルカリアントラーズ”とハッシュタグをつけてSNS(TwitterまたはInstagram)に投稿すると、その場でアントラーズオリジナルフレームがついた写真としてプリントされる「PICSPOT」が設置された。来場者に操作説明をするクラブOBであり元サッカー日本

代表である中田浩二C.R.Oの姿が。

PICSPOT

PICSPOT

中田浩二氏

PICSPOTで撮影を楽しむ子どもたち

試合後もアプリ内で…

施策は試合前だけにとどまらない。試合当日の19:00には、メルカリのアプリ内において鹿島アントラーズの監督・全選手サイン入りユニフォームが出品された。こちらも人気ですぐにSOLD OUT。

鹿島アントラーズの監督・全選手サイン入りユニフォーム

写真提供:メルカリ

今後は、ホームゲーム開催時に限り、試合後に鹿島アントラーズに関連したグッズを、LIVE配信で出品する「(仮)リアルタイム出品」などの実施を検討しているという。

「今はスマートフォンを誰もが持ち歩くようになったため、スマホを通じて “いかに人々と接点を持つか”というのが大事になってきます。サッカーチームとファンの間に自分たちのような事業会社が入ることで、選手の物がメルカリを通してファンのもとへ行くことになります。今まではニュースなどで一方的に情報を流しファンをエンゲージメントしてきたのですが、こういう形を採ることでファン・選手・メルカリの三者にとってハッピーになりますよね。

アントラーズは現在、チームとしてのアプリはなく、準備中と聞いています。試合のない日はファンとクラブの距離が遠くなりがちなところを、アプリと物を通して両者を繋ぐことができる。こういう部分を、デジタルの側面から追及していきたいという思いがあります。

スポーツ、特にJリーグでは企業色を出すのが悪のように誤解されてしまったと思います。企業色を出しすぎるのは良くないかもしれないが、出すことで得られるメリットはたくさんあると思うんです。特にデジタルの側面はもっとエンゲージメントが出来るので、ITを遠ざけずに多くのクラブが私達のような会社と一緒に取り組んでいけたらなと思います」

2017年4月14日にメルカリの取締役社長兼COOに就任し、今回のパートナーシップ締結をまとめた中心人物でもある小泉文明氏は、IT企業がスポーツクラブへ投資する意味と、その先に作っていきたい世界観をこのように語った。

新興IT企業とサッカークラブの提携、そしてそれに伴う施策の前例はほぼ無い状況だ。そんな中で1つの成功例が生まれれば、新たな資本がサッカー界に入り、業界が活性化される可能性が高まってくる。今後動きとその成果には、ある意味スポーツ界の未来がかかっていると言っても過言ではない。そういう意味で、両者が見せるこれからの取組みに関しても、大きな期待を寄せたい。

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