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サポーター社員をヴェルディへ!アカツキが描く「クラブW杯決勝」への道

大手IT企業のアカツキが、Jリーグの古豪である東京ヴェルディの株主となり、経営に参画した。昨今、多くのIT企業がスポーツチームへ投資をするケースが増えてきているが、“人材とノウハウの提供”という側面においても積極的に行っていくという。彼らが“スポーツビジネス”に参入して描く世界像とは?

CEOである塩田元規氏と、アカツキからヴェルディへ出向という形でファンディベロップメントに関わる菊地優斗氏に話を聞いた。

僕らの世代に響くチームはヴェルディだった(塩田)

−今回のサッカー界への参入ならびにヴェルディのスポンサーとなった背景を教えてください。

塩田:そもそもなぜスポーツなのか、なぜサッカーか、なぜヴェルディかという話があると思います。アカツキという会社は“ゲーム会社”と思われている方も多いかもしれませんが、僕たちはアカツキの提供価値は、ワクワクするような体験を作り、それをユーザーに届けることだと考えています。

アカツキのビジョンは「“A Heart Driven World.” 心がワクワクする活動で世界をカラフルに輝かせる」なのですが、これは創業以来ずっと言っていることで、僕はそれに人生をかけてコミットしています。

中でも、モバイルゲームはデジタルの領域で人々がワクワクするものです。アカツキは、モバイルゲーム以外にも数多くの領域に事業拡大をしていますが、スポーツという産業自体まさに僕らが実現したい「心がワクワクする活動で世界をカラフルにする」というビジョンにすごく合っているんです。

スタジアムでサッカーを見ている時のワクワクや高揚感、悔しさ、悲しさを含め、サッカーは感情の振れ幅が最も大きい分野とも言えますよね。そういう観点から、サッカーは僕らにとってビジョンの“ど真ん中”だったので、いつかやりたいよねという話をしていました。

また、僕を含めアカツキにはサッカーを愛する人がすごく多いというのがあったんです。アカツキで新しいビジネスとして始める時の判断基準は、まずビジョンと一致しているか、そして、その事業をやりたい人がいるか、です。事業をやるにあたって好きな人がいるか、というのがとても重要です。

−その中でヴェルディという選択をとったのは。

塩田:いくつか要素があります。最近、友人とサッカーの話題になっても「ヴェルディって今J2なの?」という感じなんです。僕ら世代(注:塩田氏は1983年生まれ)は黄金期のヴェルディを見ているんです。カズさん(三浦知良)がいて、ラモスさん(ラモス瑠偉)、北澤さん(北澤豪)というレジェンド達が活躍していた時代の印象しかないわけです。野球で言うとV9の巨人軍みたいな。

僕たちの事業で重要なことは物語があるか、ファンがいるか、という部分。ここが資産としてものすごく大きいと思っています。今現在が上手くいっているか、というところで判断する人は多いと思うのですが、そもそもストーリーがあるかどうかがものすごく重要なんです。

僕たちがゲーム事業でやっていることも、元々素晴らしい作品やタイトルをモバイルゲームで新しい体験にして届けることで、昔その作品を好きだった方々が戻ってきたり、新しいファンが生まれたりします。サッカーについて考えた時にも、そんな可能性を秘めているストーリーのあるクラブとの出会いを求めていました。

更にヴェルディは首都の東京にあります。ビジネスの観点でもそうですが、僕たちは「やるなら世界でやりたい」と考えています。多くの外国人も集まるこの東京で、ヴェルディが復活していくストーリーがあれば本当に世界中に冠たるクラブチームになるんじゃないかなと思ったし、ビジネス的に見てもマーケットがすごく大きいと考えたんです。

塩田元規氏

−今回ヴェルディと一緒にやっていくと決めた中の手法として、第3者割り当てで株を取得するという仕方をしました。

胸スポンサーでお金を出すというところだけではなく、株を取得するということまで踏み込んだ理由はどういった理由なのでしょうか?

塩**田**:僕らがやりたいのは、ヴェルディがもう1度、世界に向けて復活していく旅路を共にしっかり歩むということ。アカツキには、今までデジタルのゲームを含めエンターテインメント領域で培った能力とか、事業の経営や組織を含め、広くラーニングしてきたノウハウがあります。

僕たちの知見と、リアル領域で歴史を刻んできたヴェルディとが組むことで本当に素晴らしい体験が作れるんじゃないかと思っているわけです。ただお金だけサポートするのも、それはそれで素晴らしいことだと思うんですけど、僕らの持っている強みをヴェルディに活かしたいと考えています。

ただ強くなっていけば良いというコンテキストだけではなく、ファンの方々にもっともっと愛されるチームとは?今までなかったエクスペリエンスってどういうものだっけ?という部分を一緒に考えて広げる過程まで踏み込んでいきたいと思います。

−2018年に担っていた最初のスポンサーは小口でやっていたんですよね?

塩田:もともと我々もやるならガッツリ組んでいきたいと思いがあったんですけど、やってみて初めて理解できるお互いの相性やビジョンがありますよね。ですから1回スポンサーをやって色々話してみようよ、ということで。まずは、このプロジェクトを温めてきた執行役員の梅本や菊地がクラブに関わらせてもらいつつ、もう一歩踏み込んだ形で一緒に取り組もう、という流れになりました。

−ヴェルディはサッカー以外のスポーツも総合的にやられており、それこそ女子チームもあると思いますが、今の本体の東京ヴェルディ以外のところも連携していくのでしょうか。

塩田:株主なのでほぼ全部のスポーツに関わっていきます。梅本もよく言うのですが、東京という場所でもっといろんなスポーツを取り入れていこう、と。東京は地方から色々な人が来ていて、ある種カラフルな場所でいろんな価値観を持っている人がいる。

我々はある種ヴェルディはブランドビジネスでもあると思っているのですが、文化の発信地である東京で、このブランドを作っていき、面を取っていきたいです。そういう意味で他のスポーツもやっていきたいなと思っています。

地元育ちのサポーターから、クラブ経営へ−菊地さんは生粋のヴェルディファンということで、自分のチームの経営に携われるのはすごく楽しいことで、面白みがあると思うのですが、そもそもヴェルディに行くことになったきっかけは何だったのですか?

菊地:アカツキは半期に1回合宿をやっていて、そこでは緊急度は高くないけど、重要度が高いことをディスカッションする機会があります。

その時のテーマが“1兆円あったら何をするか”というものだったんです。そこでたまたま梅本と同席したのですが、そこで「サッカークラブの経営をしたい」という意見で一致したんです。そこから、“世界一のクラブを作る”みたいなことを書いて、それが元々のきっかけです。

その後、ヴェルディのスポンサーの話が出たタイミングで、迷わず企画書を作って梅本に送りつけて「なんとか出向させてもらえないか」というお願いをしたのが、ことの始まりですね。

アカツキに入社して1年半ほどのタイミングで、社内でもまだ信頼を集められているとは思っていなかったんですが、サッカーが、そしてヴェルディが大好きであること、全力で取り組みたいという熱意を買ってもらいチャンスを与えてくれたことに、とても感謝しています。

菊地優斗氏

塩田:菊地くんが入社時から「スポーツ、特にサッカーが好きだから将来自分の能力で関わりたい」と言っていたのはずっと覚えていたんです。うちの経営スタイルとして、“熱意があって、これやりたいと言っている人を応援する”という文化があります。実際に関わってみてどう?

菊地:正直、ファンとして純粋に楽しむ方が楽なのは事実ですね(笑)。でも、今年はヴェルディが創立50周年で、これからクラブが変わっていくタイミング。もちろんサポーターの立場で変えられることはたくさんあると思いますし、一サポーターとしても、その力を信じてますが、より広い領域で自分の力でヴェルディを変えていけるチャンスがあるというのはこの上ない幸せですね。

−菊地さんは現在、アカツキからヴェルディへ出向して具体的にはどういったことをやられているのですか?

菊地:ファンデベロップメント部という、いわゆるマーケティングの部門で色々とやらせていただいています。もともとあったポジションに僕がハマったというわけではなく、結構自由にやらせていただいていていました。

その中でどういったところにポテンシャルがあるのか、という部分を昨シーズンの段階からキャッチアップさせていただいていて、今の部署に落ち着いたというところです。2019年シーズンから新しい施策をできるように、色々と準備中です。

−結構自由に動いて良いんですか?

菊地:そうですね。もちろんヴェルディ側でのオペレーション業務もやりながらではあるんですけど、浮いた時間を新しいチャレンジに当てさせていただいているという感じですね。

50周年式典で挨拶をする塩田氏

50周年式典で挨拶をする塩田氏 ©TOKYO VERDY

具体的なリターンは求めていない

−IT企業とスポーツチームという話でいうと、例えばslackを使いなれているのに、電話やFAXを社内外の連絡で使わなければいけない、というようなギャップ感もあったのではないでしょうか。

菊地:ヴェルディには若いフロントメンバーが多くいます。僕は今27歳ですが、28~30歳がボリュームゾーンで、外部の情報をキャッチアップしているメンバーも多いんです。

僕が行った時点で営業部にはslackが導入されていました。部署ごとに使っているツールが違うのは課題だと思いますが、部署によってはチャットの文化がある。そういう意味ではそれほどギャップは感じませんでした。

−そういった制度や仕組みを変えやすい文化はありますか?

菊地:そうですね。多分Jリーグの中でもメンバーが若い組織なのかなとも思っていますし、「ボトムアップで意見を言っても絶対に通らない」というような組織でもないです。そういう意味では結構風通しも良いですし、働きやすさはあります。

−人材を送り込んでアカツキとしてのノウハウを共有したいということですが、どのくらいの深さで関わる想定をしているのでしょうか?

塩田:人数は全体のバランスを見ながら決めたいですが、最初は数人を送らせてもらう形かなと。ヴェルディには歴史があり、自走している組織ですので、人の数を増やすというよりは、本当に優秀な人を送っていきたいと考えています。“何をやるか”を決められる人が重要になるかなと。

−実利の話になるのですが、3年で何億円出し、具体的に数値が出るぐらいのリターンを考えているわけではない、ということでしょうか。

塩田:そうです。3年で観客動員数を1万人にするというのを短期のKPIで置こうという話をしているのですが、それを達成した時にアカツキにリターンがあるかというとわからない。でも、ヴェルディにとって良いことは間違いない。

僕らは「投資をしたからそれを回収しよう」という短期的なスタンスではやらないという経営スタイルがあります。良いものを作って、それが素晴らしくなれば、関わった人々もいずれ潤うでしょ、と。そういう思いでやっているので、リターンの部分は短期では考えていないですね。

塩田元規氏と菊地優斗氏

−サッカークラブにとってスポンサー獲得は苦労する共通課題ですが、ヴェルディはアカツキが長期の支援というスタンスで入ったことは大きかったのかなと思います。

塩田:そうですね。良いブランドを作っていくというのはお金もかかるし、逆に言うと短期でやっていてもダメで、ロングタームでちゃんと積み上げていかないといけません。ビジネスとして見ても、東京でにはものすごいポテンシャルがあると思っているので、結果として東京ヴェルディ株式会社という会社が大きくなるということはすごい可能性があるなと思います。

だからそこにアカツキがダイレクトにリターンが欲しいというのはないですね。普通のスポンサーであると宣伝効果はどれぐらいですとか、どれぐらい集客に効果がありましたか、という話になりますよね。ただ、僕らはスポンサーというよりも株主の意識が高いので、ヴェルディが大きくなれば企業価値が上がるので、それで良いと判断しています。

−この提携によって、社員がそのクラブのファンになりそうですよね。

塩田:なりますよね。自分たちの社名がユニフォームの胸についてるわけですからね。みんなで応援に行くというのも素晴らしいことだし、アカツキのメンバーたちの幸福度もすごい上がると思うんですよ。これを起点に会社がさらに元気になれば素晴らしい組織になるので、それも良いことだと思っています。

−**ユニフォームに入れるロゴの部分などでもかなりこだわりがあったと聞きます。**

菊地:ヴェルディは今年50周年のメモリアルイヤーということもあり、クラブとしてユニフォームのデザインには相当なこだわりがありました。
実際、今シーズンのユニフォームは、先日1月19日のイベントで発表した、ヴェルディのリブランディングの中で定めたデザイン規定に基づいてデザインされています。

デザインを決めていく中で、スポンサーロゴのデザインの調整については大きな議論のポイントでした。ヨーロッパではユニフォームの世界観に合わせるためスポンサーロゴを変えることが多くなってきていますが、Jリーグではここまであまり前例がありませんでした。

アカツキとしても、せっかく胸スポンサーをさせていただくのなら、ユニフォームのデザインにはこだわりたかったですし、企業のロゴデザインをそのまま載せるのではなく、ユニフォームのデザインに沿ったアカツキのロゴを新たに開発して載せた方が、結果としてアカツキのブランド価値向上に繋がると考え、今回のロゴを載せることになりました。

サポーターの方からもロゴデザインをユニフォームに合わせたことに対して好意的なコメントを多くいただいており、今回の企業ロゴの変更は、アカツキのブランド価値向上に寄与した、と受け止めています。

東京ヴェルディの井上潮音選手

©TOKYO VERDY

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