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旗手怜央。スコットランドを熱狂させるパワーの源は、PLの遊撃手だった父親譲りのフィジカルにあり

スカウトの度肝を抜いたゴール

だが、順天堂大での4年間でさらなる成長を遂げた。高校時代はとにかく前にボールを運んでいく弾丸ドリブラーだった彼が、守備面で大きな変化を見せたのだ。

強靭な下半身とボディーバランスを駆使したプレスバック、球際の激しさは目を見張るものがあり、相手とボールの間に体をねじ込むようにボールを奪うと、低い重心から突き上げるようなドリブルを開始して、ボールを前に運んでいく。突破のドリブルがメインだった高校時代から、奪ってから攻撃のスイッチを入れるドリブルという新たな武器を手にしたことで、レンジャーズ戦で見せたようなミドルシュートの回数が増えた。

「高校時代はひたすらドリブルでしたが、大学に入って自分の得意な形に持ち込むまでのオフの動きや、戦況を見てプレー選択する力を磨いています。特に練習から1個上の名古(新太郎)さんがそういう動きが上手いので、見て学んだり、堀池(巧)監督が何度もアドバイスしてくれるので、それを自分なりに考えてアレンジしています」

当時、彼はこう成長の手応えを語っていた。順天堂大で1年生ながら関東大学サッカーリーグ1部で9ゴールを叩き出し、新人王を獲得。2年生になってもその勢いは止まらず、躍動感溢れるプレーで大学サッカーを席巻した。

印象的だった試合がある。彼が大学2年生だった2017年10月22日の関東大学リーグ第18節・流通経済大との一戦。この試合は関東に台風が接近し、バケツをひっくり返したような豪雨の中で行なわれ、ピッチ上にはあちこちに大きな水たまりが浮かぶほど、誰が見ても劣悪なコンディションだった。しかし彼は、他の選手との『違い』をはっきりと見せつけた。

水溜りに止まるボール、蹴ってもなかなか前に飛ばない状況下で、彼は持ち前の馬力を駆使して、ドリブルでボールを運び、積極的にシュートを放つなど、いつもと変わらぬプレーを披露していたのだ。

圧巻は1-1で迎えた80分、MF杉田真彦が浮き球のパスを旗手に通すと、「杉田さんのところにボールがいった瞬間に、(相手のDFの)裏を狙おうと思った。裏を取る動き出しをしたら、狙い通りの浮き球のボールが来た。絶対に雨でボールが止まると思ったので、全力疾走をして先にボールに触ろうと思った」と、水溜りにボールがハマった瞬間、猛スピードでその水溜りに飛び込み、迷わず左足でダイレクトシュート。強烈な水しぶきとともに、ボールは地を這うような弾丸ライナーでゴール左隅に突き刺さった。

強烈なスピードと左足のスウィングで、水溜りごとゴールに入れてしまうような圧巻のゴール。インパクトを残し続ける彼に、Jのスカウトたちはたちまち激しい争奪戦を繰り広げるようになった。

「プロになりたいとはずっと思っていたし、プロになるために順天堂大に来たのですが、正直、この状況は自分でも少し驚いています」

彼は周りの環境の変化に戸惑っていたが、あれだけのプレーを見せつけているのだから当然とも言える流れであった。

舞台は世界へ

大学4年になってからも彼の中盤でのボール回収能力、アタッキング能力はぐんぐん伸びた。だからこそ、川崎フロンターレに入ってからも、本職のアタッカーではなく、サイドバックで起用されてもずば抜けた適応力を見せた。正直、彼の球際の強さと、前への爆発的なスプリントとドリブル、キック力があれば、サイドバックでも十分に大成するのではないかと高校の時から思っていた。そこに大学でボール奪取力と運ぶドリブル、遠い位置からのシュートや展開のパスを身につけたことで、よりサイドバックというポジションの適正力は上がった。

再び本職のアタッカーポジション(インサイドハーフ)を託されているが、そこで能力を発揮できるのは当たり前で、サイドバック、ウィングバック、サイドハーフなどいざとなればどこでも適正ポジションとしてハイレベルなプレーができる。日本人としてはかなり稀有なポリバレントプレーヤーになった。

不断の努力で自分の価値を高め続けてきたからこそ、今の旗手怜央がある。水を多く含んだスコティッシュ・プレミアシップのピッチでも、流通経済大戦のように苦ともせずに自分の持ち味を発揮する姿を見て、改めてそう思った。

■プロフィール
安藤隆人(あんどう・たかひと)

1978年2月9日生まれ。岐阜県出身。大学卒業後、5年半の銀行員生活を経て、フリーサッカージャーナリストに転身。大学1年から全国各地に足を伸ばし、育成年代の取材活動をスタート。本田圭佑、岡崎慎司、香川真司、柴崎岳、南野拓実などを中学、高校時代から密着取材してきた。国内だけでなく、海外サッカーにも精力的に取材をし、これまで40カ国を訪問している。2013年~2014年には『週刊少年ジャンプ』で1年間連載を持った。著書は『走り続ける才能達 彼らと僕のサッカー人生』(実業之日本社)など。

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