日本の活路は“必然の誘発”にあり?森保ジャパンの伸びしろと限界値
意図的に相手のカウンターを誘発させる仕組みがない
──というのは?
五百蔵 五輪も、最終予選全体も、ベトナム戦も、オマーン戦もそうでしたが、カウンター状況からしか点を取れていません。これは、点が取れるかどうかの話ではなく、基本的に、相手チームの構造、やり方を主導的に動かし、壊していくようなプレーができていない、ということも意味しています。
ベトナム戦もオマーン戦も結果的には良かったですが、相手を分析して、準備してきたことがハマっているときに起きたカウンター状況を決められるかどうかで、内容と結果が変わってしまいます。
──それは確かにそのとおりではありますが……。
五百蔵 五輪代表のスペイン戦を例にお話しします。あのときは、直前の親善試合と本番の準決勝で対戦しましたが、2回目は日本が割り切って守備に徹したことでいい勝負ができました。ですがスペインは、日本のやり方、守備の構造を動かして壊すプレーを一貫してしていました。例えば、日本の守備のやり方に対し、インサイドハーフがどう振る舞えば、対面の日本選手を動かせるか、そして二手先、三手先で日本のSBやSHを孤立させられるか、自分たちのWGがフリーになれるかを考えたプレーを徹底していて、日本の仕組み自体を崩しにかかってきました。
2回目の本番は、日本がそれにできるだけ付き合わず、相手にプレスをかけなかったことでスペインを苦しめた格好で、彼らのプレー構造そのものに対応できていたわけではありません。スペインは局面ではなく、SBやインサイドハーフ、WG、アンカーあたりが組織的に動いて、日本を崩す仕組みを見せたのに対して、日本は対抗できていない。それこそが日本の現状です。
相手の仕組みが見えたとしても、そこに仕組みで対応することはできず、局面ごとに対抗するしかない。自分たちのプレーの仕組みそのもので相手を動かしていくようなサッカーは構築できていません。
──A代表も同じような現象が起きている、と。
五百蔵 そうですね。ベトナムやオマーンに対してプレッシングのやり方は定まっていたとしても、どうすればよりハメやすいか、仕組みで誘導していくところがあまりない。マンツーマンでマッチアップ可能なプレッシングの立ち位置を整理して、それで相手をハメに行って、奪える局面がどこかで生じるのを待つというような感じです。
相手のボールがサイドに行った際に相手の立ち位置がだいたいこういう形になるということは認識できていても、そこで単に自分たちがどういうアクションを起こせばボールを奪いやすい形に相手を追い込めるか、ボールホルダーを孤立させられるか、までは突き詰められていない。だからその局面が起きても、自分たちが意図して誘導したものではないために、素早い判断、ポジショニングの展開が十分に同期できていない場面がかなりあります。攻撃、攻撃→守備、守備→攻撃、守備の4局面において、そのトランジションの循環までは詰められていない印象です。
ベトナム戦の得点シーンは、素晴らしいものだったとは思います。中盤で競り合ったら取れることも、3バックに対してスピードで抜けることもおそらく分析どおりですし、それがピタリとハマって、全員で動けたゴールでしたから。ただし、あの状況を狙って作り出したわけではない。「よし、来たぞ」と動き始めた。5バックにセットさせず、日本のワイドアタッカーが活きる3バック状態をベトナムが続けざるを得ないようにするにはどうするか、ゴールキックでGKにどうやって蹴らせたら日本の有利なエリアで競り合いが生まれやすいか、そう“仕向ける”、誘発するプレーをチーム全体でしてはいない。
ですから日本は、仕組みでプレーするチームではない。もちろん、試合単位でそこまで行き届いた準備をするのは簡単ではないですが、スペインのように、相手の仕組みに対してプレーできれば、ボールの動かし方などで自分たちが望む形をもっと作れたと思います。必ずしもポゼッション、ビルドアップからの崩しでなくカウンター主体でプレーするにしても、カウンター状況を意図的にもっと作ることができたと。
──狙いをもったプレーが少ないということですか?
五百蔵 いえ、狙いはもっています。中盤の競り合いもですし、3バックの脇を狙うとかもそうですね。でも、日本の「狙い」は、場面ごとに分割された狙いのように見える。自分たちの動きをこうすれば相手のフォーメーションはこうなるよねという全体像を共有したうえで、「じゃあこうしてみよう」という狙いではありません。スペインは、「こういうときにこういうプレッシングをしたら相手のやり方ならこうなる」という構造的なプレーをするから、自分たちで得点機会を作れる。日本は、そういうチーム全体の動きで試合を作っていくプレーはしていないということです。
カウンター狙いのチーム=タレント依存しがち
──スペインはポジショナルプレーで、日本はそうではないということですか?
五百蔵 その捉え方でさしつかえないと思います。ポジショナルプレーは、仕組みで崩す再現性を高められるやり方ですが、日本は、ポジショナルプレー基準で言えば、あまりやれていない。どちらかというと、カウンター状況が生まれたら行く、というやり方をしているチームです。そういった状況を利用しやすい選手起用、組み合わせ、インテンシティを目指しているチームではありますが、現時点ではその状況をうまく創出できているわけではありません。
──なるほど。確かにベトナム戦はカウンターから決めたものですが、あの幻の得点にしても、スペースを作って、スプリントできる選手が運んでフィニッシュしたものということで、最終的にはタレントに依存しているという見方もできると思います。
五百蔵 日本がカウンター状況を主要な得点源にしていることと、タレント依存は、実は一致していると考えています。先ほどからスペインの話をしていますが、彼らはポジショナルプレー、仕組みで崩しているため、崩しそのものはタレントに依存していません(おびただしい数のタレントが彼らのチームにはいますが)。一方で日本は、意図してタレント依存になっているわけではないですが、そうなりやすいやり方を現時点ではしている。偶然とまでは言いませんが、ある程度は偶発性の高いカウンター状況が生まれた際に、決め切れるような選手の選択、人の配置、組み合わせをしています。カウンター狙いのチームは基本的に個人に依存するとは昔から言われていたことでもあり、それに似た状況が起きていると言えます。
──日本のスタイルは、リバプールを模倣しているという見方もあります。モハメド・サラーやサディオ・マネが決めるというような、そんなイメージでしょうか。
五百蔵 そもそも、森保監督の志向がそっち側、カウンター型だと思います。とは言え、クロップ的なサッカーを目指しているけどそこまではできていないという感じです。クロップの場合、カウンターだけどリアクションサッカーではない。どうやってカウンター状況を作り出すか、そこが戦術として考えられていて、カウンターが起きる、起こす前提でシステム、フォーメーション、選手を選択しています。
──どういうことでしょうか?
五百蔵 自分たちが望むカウンター状況を、自分たちで作り出しているんです。これはクロップがドイツ時代からやっていたもので、カウンター状況が起きやすいようなボールの運び方、奪われ方、エリア、布陣を自分たちで意図して設計しており、相手のカウンターが起きなければそのままボールを前進させる、相手のカウンターが発生したらそれに対して準備されたプレッシングで襲いかかり、カウンターのカウンターで返すという形。
典型的な例で言いますと、4-3-3をベースにする彼らはまず、相手のインサイドハーフの裏にボールを入れます。ロングボールなどですね。そのボールを自分たちが確保するやり方も準備されているし、相手のインサイドハーフやアンカーに奪われるケースに対しても、アンカーやWG、CFが事前にポジショニングして即時奪回の準備ができている。そこでボールを奪うと、中央のバイタルに近いエリア、かつ相手がカウンターにかかる局面、攻撃に移行する局面をひっくり返すことになるので、中央からワイドにかけてスペースを得られやすく、かつゴールが近いので高速WGの速度、攻撃力を存分に生かせるんです。
森保監督が田中碧、遠藤航、柴崎岳を重用する理由
──自分たちが持っていてもいいし、奪われても即時奪回できる。
五百蔵 そう、二段構えでチャンスを作れる仕組みで、ピッチのあらゆるエリアで、カウンター状況を作る仕掛けを施しているんです。一方で日本は、いわゆる“古風なカウンター”。相手のウィークポイントを特定し、そのウィークポイントでチャンスを作れたら、ここぞとばかりに決めに行く。あくまで“カウンター状況が生じたら”となります。
ですから、自分たちの望むカウンターがある程度偶発的に訪れることにかかっているので、カウンターサッカーでは得点がそんなに入らない「カウンターサッカーあるある」が起きる。さらに、そこできっちり決められるかどうかを前提にした選手起用なので、タレント依存になるわけです。
この点は、森保監督の評価が分かれるところです。相手の弱点を突く部分を落とし込むカウンター志向と、選手の判断や個性が出るサッカーという、両方のいいとこどりを目指しているので、そういった戦況、ゲーム内容が多くなっているのかもしれません。クロップのように選手に明確なゲームモデルや設計(仕組み)を与え、なおかつ判断の自由度が高いサッカーとは少し異なり、全体的な仕組みの重要度は薄いが、目的を持ったタスクの積み上げのなかで選手の判断を促すという日本的な融合を狙っている、と考えることもできます。
──五輪代表は堂安律と久保建英がバイタルで崩すスタイルに見えます。森保監督の基本はカウンター型ということですが、タレントによっても変わるのでしょうか。
五百蔵 森保監督のなかでは、A代表も五輪代表もそんなに違いはないと考えているはずです。というのは、基本的な狙いは相手ゴールに近いエリアに素早く持ち込んでプレーする=カウンター状況を利用することだからです。その局面において、カウンター状況から直線的に仕留めるのか、クリエイティブなグループワークで仕留めるかの違いなだけです。
五輪代表のチャンスメイクも、田中碧と遠藤航のところでボールを奪い、一発で高い位置にいる堂安らに付ける形でしたし、森保監督のなかではカウンター状況と同じと考えているはずです。あくまでカウンター状況になったときにしっかりその状況を認知し、利用し、決め切ることを重視する。なので、ミドルレンジで縦パスを出せる選手を重用しています。
──柴崎岳のような。
五百蔵 そうだと思います。柴崎も田中も遠藤も、縦が空いていたら、ボランチからバイタルへ一発でつけられますからね。
■W杯アジア最終予選|日本vsオマーン|ハイライト(引用:DAZN/2021年11月17日)
https://youtu.be/EXR5dViV-jY
オマーン戦で三笘薫を投入した本当の理由
──オマーン戦は81分まで0-0で、後半からWGに入った三笘薫が打開しました。相手を押し込んだ状況から個人で剥がした。この試合はどのように分析していますか?
五百蔵 オマーン戦で苦しんだ一番の理由は、カウンター状況を“得られなかった”ことが大きいと思います。オマーンに、そう仕向けられたとも言えます。日本はずっと、オマーンのDFラインと3センターの中央のスペースでマークをズラせませんでした。この試合を通してそこをズラせたのは、前半1回と、後半の得点場面の計2回だけです。
三笘薫の突破でズレたシーンについては、中山雄太が相手のパスを奪った際に、SHの15番・ジャミール・アルヤハマディが倒れたことで強制的にオマーンの内側にズレが生じました。オマーンの守備組織は練度が高く、日本が何度カウンターの状況を作れても内側がズレることはありませんでした。日本はシュートまでは打てても可能性を感じるような状況は作れていませんでした。そういう展開だったこともあり、後半から三笘を入れ、外側から剥がしてもらい、内側のズレを生じさせるという狙いがあったと思います。
──内側の守備のズレを作り出すための投入だった。
五百蔵 その狙いだと思います。それ以外の方法を日本が持っていなかったと言えます。三笘のプレーに注目すると、先ほど話した日本の状況がよくわかります。
三笘は、1対1では強いですが、ダブルチームで来られると前進を阻止されたり、ボールを奪われていました。スペインの仕組みの話でも出たように、日本はチームとして1対1を作り出すような、“ひとつながり”の動きやプレーが見られない。三笘が相手と何度も1対1で勝負できる状況を意図的に作れてはいなかったことが、日本が局面でプレーするチームという証明にもなります。
──どうやって意図的に1対1を作り出すのでしょうか?
五百蔵 オマーンのやり方を考えるとシンプルでしたね。ボールサイドにいるインサイドハーフの選手を日本のSBやDHが釣り出すことで、相手SBが孤立する状況を作り出せます。
──長友佑都や中山が相手のSHの8番、ザヒル・スライマン・アルアグバリを釣り出すことで、相手SBの14番・アムジャド・アル・ハルティと1対1ができる。
五百蔵 そうすればカバーする選手がいない状況で三笘はサイドで1対1を得られます。そこを突破すると、CBの6番・アハメド・アル・ハミシか、アンカーの23番・ハリブ・アルサーディが横に1つずつズレて対応することになるので、外か内が空くというわけです。
──インサイドハーフを釣り出すのは、偽SBのような動きですか?
五百蔵 後方からのビルドアップの仕方でも釣り出せるのでそれだけではないですが、ハーフスペースにいるオマーンのインサイドハーフの前に日本のSBが立ち位置をとって(偽SB)、DHやWGと連携してインサイドハーフを動かすことができていたら、もう少し三笘を楽にできたと思います。
──そう考えると、インサイドに動けるSBを起用すべきだったのでしょうか?
五百蔵 そこは監督の志向もあると思います。ポジショナルプレー的な考え方、プレーができる選手がSBにいないと難しいですし、そもそもこのチームはポジショナルプレー型ではない。森保監督は、サイドはしっかりサイドで埋める、中央にSBをいたずらに動かしてサイドを薄くしたくないでしょうし、オマーンのアタッカーをできるだけDFラインの視野内で監視しておきたい、裏をできるだけ取らせないという狙いもうかがえましたから。
例えばとある局面で長友がインサイドに動いたとして、森保監督としてはその状況で長友自身がそう判断したのならば、と尊重しつつも、チームの恒常的なやり方としては採用しない。なので、長友の代わりに入ってくる選手も、基本的な持ち場(サイド)を管理しながら、ボールを配球できる選手が選ばれます。
オマーン戦は、インサイドハーフを繰り返し釣り出すような仕組みは日本側になかったので、ボール回しで様子を見ながら三笘にポンと預ける感じでした。ただそれだと相手の8番がすぐに寄って来て1対2を作られてしまう。もしくは、8番がいなくても23番というように。得点シーンは、相手の15番が転んだことでズレた。転ばなければあのゴールは生まれなかった可能性が高いので、0-0で試合終了になっていたかもしれません。あそこは森保監督が賭けに勝ちましたね。
伊東純也が試合中1回しかなかったチャンスを決めた
──2回しかズラせなかったうちの1回をものにして勝てた試合だったわけですね。
五百蔵 そうですね。それに、伊東のプレーはすごく評価できます。試合を通して守備でも攻撃でもいい動きをしていましたが、あの場面は伊東がすごかった。
──どのようなところがすごかったのでしょう?
五百蔵 すごい集中力だった、ということですね。三笘以上にあの場面は伊東が際立ちました。相手はアンカー1人の3センター、インサイドハーフは守備面でも様々なタスクを受け持っていてバイタルエリアに留まってはおらず、かつ2ボランチではない。DFラインにギャップ(ズレ)が生じたときにそこをカバーする枚数が足らなくなる可能性があります。日本としてはまず、そこを突いてDFラインの内側のズレを狙っていこうと共有していたはずです。
でも、なかなかその状況が訪れない。後半で言えば、ズレたのは得点シーンのわずか1回しかない。三笘が突破して、相手の6番が対応に動く瞬間、逆サイドの伊東はSBとCBの前に入る準備をしていて、決め切った。
いつ訪れるかもわからないチャンスを待ち続け、1回しか来なかったチャンスを、ここだと決断して、走り込んで、決めた。相当調子が良く、なおかつ彼がプレーヤーとして高いレベルにきていると思います。後半のチャンスは本当にあの1回だけでしたから。
──まさにワンチャンスをものにしました。それまではやや退屈に感じたのですが……。
五百蔵 いや、僕は最終予選に入ってから一番面白い試合でしたよ(笑)。オマーンの練度もすごく高いですし、日本もそれまでとは異なり、焦点を絞った準備をしてきたことがわかるプレーでしたから。お互いがしっかり準備してきたなか、細かいところで試行錯誤しながら前半を戦っていましたから、僕としては密度が高いと感じたゲームでした。
前半から日本は、オマーンの3センターをどう動かし、そこに侵入するか準備していたプランを実行したものの、肝心のDFラインの内側が全くズレない。相手の監督も、こうされたらズレやすくなり内側にギャップができる、大外がケアしづらくなるなど織り込み済みで、外側に誰がいるか、日本の狙いはどうかを細かく確認してプレーし、こうなったら内側はこう、そうなったらこうすると、かなり訓練されていた。
日本はそれでも、なにか起きるはずだと繰り返した。この試合は、相手の3センターと4バックの関係性にエラーが起きるかどうかというポイントがはっきりしていたので、そこをずっと見ていました。
──オマーンは国内組中心で1カ月ほどクラブチームのようにトレーニングしていたようです。日本は即席に近い状態でしたし、相手のほうが高いレベルにあった。
五百蔵 そう思います。中盤のトランジションも基本的にオマーンが上回っていました。
日本はこのままバイタルへの侵入を許し続けるのか?
──11月シリーズを終え、五百蔵さんがあらためて日本に感じていることはありますか?
五百蔵 ベトナムもオマーンも3センターでしたが、ベトナムの4-3-3の中盤に対して、日本はボール争奪でほとんど確保できました。中盤は3対3になるのですが、ベトナムは2トップがカウンターに備えて攻め残る形で、3対3の争いにサポートすることは時々あるくらい。「近かったら行く」程度のタスクであり、優先度が低かったようです。
オマーンは逆に、2トップもトップ下も、状況を見てプレスバックするタスクが与えられていたので、中盤で4対3の優位を作ってきました。中央のダイヤモンド+1人の形を作り、ボールを奪ったら散開する。日本はオマーンが攻撃でも守備でもポジショニングバランスを崩さないため常に数的劣位となり、ボール争奪の局面は不利でした。日本の準備力は垣間見せていたものの、その点はどうなんだろうということを感じました。
──特に守備面での準備ということでしょうか?
五百蔵 そうですね。日本は4-3-3で相手が4-3-1-2なので、相手の2トップの関わり方を考えれば、こちらが中盤で数的劣位になることは事前にわかっていたはずですが、ボール争奪の局面で、どうやって取り返しに行くかが整理されているように見えなかった。ボールを取られた後もそのまま運ばれていましたからね。
──つまり、それはなにを意味するのでしょうか?
五百蔵 まさにそこが今の日本代表に対する疑問点です。オマーンの3センターに対してどうプレーするかは準備できていたのに、切り返されたときの対処は、わかっていたはずなのに落とし込めていない。つまり、優先順位が低かったから取り組めていなかったのか、だとするなら、どうして優先順位が低かったのか。
ここまでの試合を見てきて、日本は現状、バイタルエリアを空け、MFの間に簡単にボールを入れられてしまうチームと言えます。4-3-3でも、4-2-3-1でも、ボールを持っているときのバイタルエリアは4-3-3の形になり、遠藤か柴崎しかいない状態です。しかもアンカーがどっしり構えているわけではなく、状況に応じてサイドのボール争奪に動いたりして、バイタルを頻繁に空けている。
オマーン戦でも、前半から中盤は相手に持たれ、日本のアンカーも、インサイドハーフもいないところへの侵入を許していました。その際、この状況を防ぐためにCBがガツンとプレスに行って抑えるということも、基本的にはしていませんでした。
おそらく、オマーンを相手にした場合の判断だったと思います。相手の2トップやトップ下のクオリティを考えても、目の前で見れていれば、相手はそれほどできることがないため、バイタルを多少空けてしまう局面が生じても落ち着いて対処できるだろう、と。
要するに、裏抜けさせなければOKという対応ですね。実際、そこからピンチになったり、サイドの裏抜けからクロスを上げられたり、ピンチを招くシーンはほとんどありませんでした。中盤でボールを奪われる回数の割にそうだったのは、相手がオマーンだからでしょう。
でも、日本はずっとその戦いを続けています。本大会はどうするのでしょうか。
ハリルと森保は似てる?今のチームに伸びしろはない?
──相手の質が上がる本大会は、今の守備ではリスクが高くなる。
五百蔵 間違いありません。バイタルエリアへとあんなに簡単に侵入させたら、いかに吉田麻也や冨安健洋が優れていても守り切れないだろうと。実は、ヴァヒド・ハリルホジッチ前監督時代も、日本は似たような課題を持っていました。
──どういうことでしょうか?
五百蔵 アンカー脇をどんどん通されることで批判されていたのですが、僕が取材した限り、ハリルはあえて放置していたということでした。というのも、本戦に向け、バイタルエリアに侵入してきた選手にCBがアタックして、SBともう1枚のCBがどう対応するかという練習を延々とやっていたらしい。そしてそれを、最終予選では見せなかった。
ハリルは、日本のアンカー脇をあえて狙わせ、本大会で急に閉じることで、相手の選択肢を1つ削る準備をしていたようです。彼は攻撃的な戦いを志向する監督だったので、あえて穴を作っておいたのかもしれません。最近は2CBでもどんどん迎撃に行く形が見られますが、原則論では、中盤の空いた穴に普通は2CBの選手が出て行かない。3バックであればカバーしやすいので出て行く。では、森保監督はどうなんでしょうか。
──その点は、今後の戦いで明らかにしていきたいテーマですね。
五百蔵 森保監督は、ハリルとタイプが似ているようでいて、彼ほど攻撃的な守備をするわけではないですからね。本大会に向け、成否を占う重要な要素になると思います。
──最終予選6試合を戦い、様々なポイントが見えてきましたね。
五百蔵 はい、バイタルが空く部分もそうですね。そして僕が一番気になっているのは、この2試合を通して、もう最大出力になっているのではないか、ということです。
ベトナムやオマーンに、今のメンバーでできることを最大限に実行してしまっていて、この後はどうするんだろうという感覚。これは、カウンター型チームのもうひとつのあるあるだと思います。どんなタイプの相手にもカウンターを狙うため、相手のサッカーに関係なく実行できる一方で、どんな相手にも似たような感じになる。そうなると、相手に地力の面で上回られた場合、手も足も出なくなることが、カウンター設計のチームは往々にしてあります。
──それこそが日本代表の現在地ではないか、と。
五百蔵 事実、今はそうなってしまっているように感じます。偶発性の高いカウンターを決め切るかどうかも、タレントに依存している。五輪代表はいいシミュレーションだったと思いますが、カウンター状況を作れたら、低い位置からでもスパッと前に付け、ボックス内に素早く入って堂安と久保のクリエイティビティ、フィニッシュワークに委ねる。それで得点できていましたが、そのやり方がバレて対策されてしまうと得点が激減することは、東京五輪の戦いを通して証明されてしまいました。
そしてそのチーム特性は、A代表においてなんら変わっていません。相手を分析したうえで準備して、ウィークポイントを突くことを狙い、選手はその状況のなかで、“委任戦術”を遂行して判断し、カウンター状況を賢く利用するという形。その強みも弱みも現段階でかなりはっきり出てしまっていて、ある程度の天井を感じてしまいます。
そうなったら後は、伊東がサラーになるか、南野がロベルト・フィルミーノになるか(苦笑)。そんな都合の良い成長がありうるか、その方向で最後まで行けるのか。連勝できたいい連戦だったのですが、伸びしろをすごく感じるという良さではありませんでした。
▷分析家・五百蔵容の論考
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▷分析家・五百蔵容へのインタビュー
- 2021.12.17|活路は“必然の誘発”にあり?日本代表の伸びしろと限界値
▷プロフィール
五百蔵容(いほろいただし)
1969年、神奈川県生まれ。早稲田大学第一文学部を卒業後、株式会社セガ・エンタープライゼス(現株式会社セガゲームス)に入社。2006年に独立・起業し、有限会社スタジオモナドを設立。ゲームを中心とした企画・シナリオ制作を行うかたわら、VICTORY、footballista、Number Webなどにサッカー分析記事を寄稿。著書に「砕かれたハリルホジッチ・プラン 日本サッカーにビジョンはあるか?」「サムライブルーの勝利と敗北 サッカーロシアW杯日本代表・全試合戦術完全解析」(いずれも星海社新書/2018年刊)がある。
Twitterアカウント:@500zoo
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