精神科医が警告する、スポーツ界の現状。「本当に村社会です。狭すぎる」

自分の経験則は捨ててください

──日本の場合、体罰がパワハラだと思ってる人が結構多いという印象です。手を出していなければパワハラじゃないと。

木村 それは全然違います。

改めて、厚生労働省のHPから引用しますが、パワーハラスメントというのは、①優越的な関係を背景とした言動であって、②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの3つの要素を全て満たすものを言います。

スポーツ選手はメンタルが強いわけじゃないんです。むしろ、一般社会よりもメンタルが疲れやすい、壊れやすい場所にいるわけです。だからこそスポーツ選手にはメンタルケアが必要だと思っています。

昨今のスポーツ界におけるハラスメントは暴力的なものよりも精神的なものが多いのではないでしょうか。メンタル的なハラスメントは曖昧だからこそ、周りからも気づきにくいし、当の本人だってハラスメントとわかっていないケースが多い。

もっと言えば、選手のほうも自分のメンタルが傷ついてるだけで気づかないこともあります。監督側もそうだし、選手側もそうです。

──自分の経験則で「これぐらいは耐えられるだろう」と言ってしまう人は多いのではないでしょうか。

木村 自分がそれぐらい言われてきたというのは、今の監督世代の方々に残っているのは間違いありません。パワハラをしてしまった指導者には、「自分の経験はとりあえず捨ててください」といつも言います。

あとは人格を否定しないこと。能力自体を蔑まないこと。できれば、人前で怒らないほうがよいのですが、スポーツではどうしても怒らなければならない場面もあります。だからこそアフターケアが必要になってきます。

感情に任せて怒っても、伝わらなければ意味がありません。物を投げたり、何かを叩いたりして恐怖を植え付けても、最も大事なことが伝わらない。だからハラスメントをするのは「もったいない」ことなのです。

──スポーツでパワハラをなくすために、ドラスティックな改革が必要になるでしょうか。

木村 そう思います。そもそも、スポーツ界は本当に村社会です。狭すぎます。やっぱり、村社会の中では隠蔽もされやすいし、一般社会とのズレが生まれやすい。「それは違うよ」という意見や目線が入ることがすごく重要です。

メンタルトレーナーを雇うにしても、そのクラブの専属ではあまり良いとはいえません。その監督が力を持っている場合、何を言えばメンタルトレーナーがクビになるリスクがあります。そうなるとパワハラを行っている人に従属してしまう。

だからこそ、私は“第三者”が重要だと思っています。権力を持つ人が絶対的な存在にならないように監視し、何かあった時にフラットな立場から意見を言える人がいるかどうか。村を広げることがパワハラを未然に防ぐことになります。


■プロフィール
木村好珠(きむら・このみ)

1990年2月28日生まれ。東邦大学医学部卒。医学生時代に準ミス日本に輝いたことをきっかけに芸能活動を行い、タレント業と平行しながら2014年に医師免許を取得した。慶応義塾大学病院にて研修後、精神神経科に進み、現在は精神科医としてクリニックで勤務をしながら、産業医としてもたくさんの企業の健康づくりに携わっている。

筋金入りのサッカーフリークで、早くからスポーツメンタルに取り組んでおり、特にアカデミー年代のメンタル育成の普及に力を入れてきた。レアル・マドリード・ファンデーション・フットボールアカデミー、北海道コンサドーレ札幌アカデミー、横浜FCアカデミーなど数々のチームでメンタルアドバイザーを務めており、子供からトップアスリートまで、幅広くメンタルサポートをすることができる新鋭のスポーツ精神科医。

Twitterアカウント
木村好珠@精神科医、産業医、スポーツメンタル

■著書紹介
スポーツ精神科医が教える 日常で活かせるスポーツメンタル
著者:木村 好珠 (精神科医・スポーツメンタルアドバイザー)
発行日:2021年7月27日
定価:1,650円(税込)

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