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【新時代サッカー育成対談】幸野健一×守山真悟×内野智章|「どうやったらプロになれるのか?」|後編

掲載協力・WHITE BOARD SPORTS


■登壇者

・幸野健一|プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
・守山真悟|関西地域委員兼大阪府実行委員長
・内野智章|興國高校サッカー部監督

■ファシリテーター

・北健一郎|サッカーライター/ホワイトボードスポーツ編集長


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ユースより高体連の方がプロになれる確率が高い

──どんな選手がプロ選手になっていくのでしょうか?

幸野 自分の息子もJリーガーですけど、僕は特徴のある選手かなと。満遍なくいろいろな高いレベルでそれぞれがあるよりも飛び道具を持っている選手の方が重宝されると思います。今で言えば左SBが足りないと思うし、でかいSBで足が速かったり左利きだったりしたら有利なんじゃないでしょうか。特徴のある選手をJクラブのスカウトも見ているわけだから、そのへんは内野さんは何十人もJリーガーを出しているのでわかっていると思います。

──自分の特徴に早い段階で気づかないとどう個性を伸ばしていくかわからなくなってしまう。

幸野 それを見抜く目が指導者にとって育てるというよりも一番大事なものになります。その子の特徴を見抜いてあげて自分の強みを認識させてあげて「俺はここで生きていくんだ」と早い段階から強い覚悟を持たせることができればプロに近づくと思います。

──なるほど。では内野監督はどんな選手だと思いますか? 今、内野監督ほど語るのに相応しい方はいないと思いますが(笑)。

内野 やはり特徴のある選手というのは間違いないと思います。今回、(横浜・F・)マリノスに4人入団しますけどマリノスに入団する4人はいずれも“スーパートップアスリート”ですね。小学生で言えば運動のスーパースターのような感じスポーツはなんでもできる。コーディネーション能力が高い。今までに23人がプロに進んでいますが全部共通していることがあって、努力する才能を持っています。

──努力する才能。

内野 サッカーをする才能を持っている選手はそこそこいるんですけど、努力する才能がないんです。「サッカーに対してすごく真摯に向き合って自主練して、自分の将来を見据えてサッカーに取り組んだらプロになれるのにな」という選手は結構います。でも結局、努力ができない。プロになるための努力って半端ないので。例えばマリノスに行くCBの平井(駿助)というのがいるんですけど、高校に入ってからは水しか飲み物を飲んでいない。それはいいかどうかは別として、自分で調べて水をたくさん摂ることで老廃物を出すだとか、そういうことを勉強していて、(果汁)100%ジュースも飲んでません。それくらいストイックなやつらしか高卒でプロになれないんです。

──すごいですね……(笑)。ですが“スーパートップアスリート”はJリーグの下部組織に引き抜かれないのでしょうか。

内野 基本的にそういう子たちはみんなJのアカデミーに行きますね。うちにはそういう子たちは来ませんが、その中で自分の努力でプロに近づくためのトレーニングを毎日継続できる子がプロになっている。リップエースから来た樺山(諒乃介)というのはJユースを10チームくらい断って来ているので彼はまた例外だと思いますが。

──Jリーグの下部組織に行くより興國高校からの方がプロに行けるというある種の逆転現象が起きていると思うのですが、こうなっているのはなぜですか?

内野 シンプルに日本の仕組みの問題だと思います。ほとんどの小中学生の保護者の方々は「Jのアカデミーに行くことでプロに近くなる」と思っている。それは決して間違いではないですけど、日本の仕組みが実はそうではないんですね。どういうことかと言うと、例えばAというJのアカデミーに行くじゃないですか。そうしたら(進む先が)そこのトップチームしかない。Aクラブのユースに行ったらAクラブのトップチームがボランチを必要としていなかったらそのボランチの選手はプロになれないんです。さらに言うとボランチの選手の一つ上にプロに上がる選手いたら2年連続で同じポジションの選手は昇格させないので。

──確かに……。

内野 ということはJのアカデミーは一学年で一人上がるかどうかなんです。だけど興國だけじゃなくて青森山田高校さんとか昌平高校さんもそうですけど、Jリーグの全チームが受け皿になっています。例えばガンバ大阪とセレッソ大阪はボランチの選手を必要としていないけど、ヴィッセル神戸は探しているとか、ガンバはFWを欲しがっているけど、セレッソはいらないとか、チーム事情によっていろいろあるじゃないですか。なので高校にいればボランチを探している何十クラブの中から一つ選べるんです。これが海外だと良い選手はお金でどんどん買われていくので、久保(建英)くんの同級生のキャプテンのCB(エリック・ガルシア)は当時、高校一年生にして2億4千万円でマンチェスター・シティに買われているんです。日本で例えるとセレッソの優秀なユースの選手をガンバが「セレッソよりお金出すから」といって獲得できるわけです。海外ではそれが至ってノーマルなので別に裏切りでもなんでもない。日本はあるアカデミーで育ったらそこのトップしかない。他のクラブのトップチームにいく可能性も0ではないですけど、お互いにナーバスになるので大学に進学することになる。なのでJユースの指導や指導者がダメというわけでなくて、日本のユースの仕組みが実はプロになりにくい。環境はプロに近いですけど結局一学年で一人くらいしかプロになれないんです。

──実際、売り込むようなことはあるんですか?

内野 基本的にはないです。基本的には試合を観に来てくれて話をして、何試合か見られて練習に呼ばれて、どんな人間性か、どんな実力があるかという質問に答えながら練習参加をして「ダメ」と言われたり「是非!」と言われるのが基本。ですがユースにいたら他のクラブのトップチームの練習参加もほとんどできない。樺山はそれを理解していたのでユースを断って興國に来たんです。

──ある意味で戦略的に。

内野 そうです。例えば樺山がすごくポゼッションをするユースに行ったとしても、そこのトップチームの監督がリアクションサッカーを好む監督に変わったらもうポゼッションする選手はいらないんです。だから今の日本の仕組みはすごくリスクが高いんですよ。でも高校だとヴィッセル神戸がポゼッションじゃなくなろうが関係ない。じゃあポゼッションじゃないスタイルに合う選手をとればいいだけの話なので。ただ指導内容はユースと高体連でいろいろ変わってくるのでそこは実際に練習参加して決めるべきだと思いますけど、今の日本の仕組みで言うと、例えば今年のリップエースの中学3年生はJリーグの10チーム以上からオファーが来ています。下手にJアカデミーに行くよりもユースに対する門戸はリップエースの方が広いわけです。

──10チーム以上からオファーが来ているというのはどういうことですか?

守山 U-15の選手が来年度の進路のときにJアカデミーさんからいろいろお誘いを受けていたという中でうちのところにお世話になる選手もいるという話です。

内野 それがJアカデミーに行っていたら他所のユースから誘われることはほぼないじゃないですか。だけどリップエースの選手ならJユースの全チームが誘える。自分がそのときにやりたいサッカーを選べるのと選べないのでは大きな差になりますよね。だから僕の息子はリップエースなんですよ(笑)。

──内野さんの息子さんはリップエースの選手なんですね(笑)。

内野 守山さんに教わっています。

──今おいくつなんですか?

内野 小学6年生と4年生で2人ともリップエースです。

幸野 僕から見ると内野さんの今のやり方は来年だけでも多分、育成費が数百万円入ってくるじゃないですか。日本って育成がかなり安いんですよ。FIFAのルールのトレーニング・コンペンセーションに比べれば0が1つ、2つ少ない。内野さんは今後、海外に直接売って、ヨーロッパの主要リーグの1部のチームに入団したら1000万単位でお金が入ってくるやり方を目指していると思います。僕もそこを目指していますがやはり育成のクラブは日本だけじゃなくてヨーロッパとか海外のクラブに選手を輩出するようになっていったらもっと潤って、お金がたくさん入って好循環になってくるはずです。

内野 J1だと入ってくるお金は90万円です。でもUEFAの主要リーグに行けば1300万円です。

──高校からダイレクトにですか?

内野 そうです。

──ある意味ではクラブは1300万円を払わなければいけない。

内野 死ぬほど安いですよ。だってCLでベンチ入りして勝てば勝利給として一番安くても300万円位入りますから。なのでもらっている人は給料とは別に500万〜1000万円が入っています。そういう世界なので1300万円なんて1万3000円以下くらい(の感覚)ですよ。

──では日本の90万円は安いどころの話ではない気がしてしまうのですが……。

内野 ドメスティックなルールで、このせいで日本の成長は止まっていると思います。今回、5人(Jクラブへ)行きますけどこれがヨーロッパなら6000万円くらい入ってますからね。でも日本なので400万円くらい。例えばリップエースから興國に来た樺山はマリノスに行きますけど、これがヨーロッパの場合はリップエースにも600万円くらい入ってます。そうやって選手を育てることで新しいグラウンドを作ったり、新しい雇用を生んだりするんですよ。

──それ以外にも移動のためのコストとかもですよね。

内野 そうです。選手を育てることが町の雇用を生んで町を豊かにするんです。だから町ぐるみで選手を育てているんですよ。でも育成年代で優勝してもお金が全く入ってこない。出ていく方が多いです。だからヨーロッパでは育っているんです。

──ちゃんとビジネスモデルが出来上がっていると。

内野 ビジネスモデルですし選手を育てることは自分たちが生き残っていくための収入源ですよ。

幸野 ヨーロッパのクラブの考えは下から選手を育てることです。外から選手を取る場合は「本来なら自分たちが育てるための費用がかかっているけど、他に育ててもらったからその対価としてそれに応じたお金を払う」というのが基本的な考え方です。それが日本では高校3年間で90万円。中学は30万円とあまりにも安すぎる。FIFAのルールを適応しなかった理由は「そんなにお金を払ったら潰れてしまう」とJクラブが反対したから。だからFIFAの国際ルールと日本のルールは違うんです。そこが僕ら育成に携わるものとしてはFIFAのルールに近づけてほしいとすごく思っているところ。そうしたら僕らも頑張って選手を育てて収入を得て還元する仕組みが出来上がるはずなので。そうしたら育成年代の指導者たちは頑張ると思います。

──守山さん、今回リップエースジュニア出身の選手が4人もプロに行かれますが「お金は入ってくるけれども……」という感じなんでしょうか。

守山 いや、嬉しいですよ。ただ今の話を以前もウッチーから聞いていたのでそうなってくれた方が単純に日本サッカーが良くなると思います。競争の原理が少し働いたり、雇用だったりサラリーが増えると単純な発想ですがもう少しパイが大きくなると思うので。

幸野 今だったら100万円くらいしか入らないから守山くんの飲み代で全部消えちゃうと思うけれど(笑)、これがFIFAルールならすごいお金が入ってきているはずです。でも4、5人をいっぺんにプロにするのはすごく大変なことですし、その対価がたった100万円じゃかわいそうだなと思います。

育成がうまいクラブの指導者は人間臭い

──ここでいくつか来ている質問にもお答えしていただきたいのですが、小学2年生の息子さんがいる方から「育成が上手なチームはどのようにして見つければいいのでしょうか?」と来ていますがいかがでしょうか。

内野 シンプルにOBが何人、どういう活躍をしているかじゃないですか。

──なるほど。そこからチームの育成方針が見えてきますか?

内野 僕らもジュニアユースに声をかけるときに○○高校のエースはどこ出身か見るので、そこでよく名前が出てくるクラブには注目しますね。

──やはりどういうチームでやってきたか、どういう環境でやってきたかという共通点はありますか?

内野 やはり技術にこだわっているところの子は歳を取ってからも伸びてる率は高いですね。

──でも技術というのはドリブルばかりをめちゃくちゃするとかではない?

内野 トータル的にですね。

──ケンさんは育成が上手いチームの見極め方についてどう思われますか?

幸野 それは育成が上手いというよりも僕の考えはやはり選手を大事にするクラブ。僕自身がそうでうちには今選手が400人くらいいますがサッカーは当然、レギュラーだったりサブの選手が出てしまいますけど、全ての選手にとって「ここに入って本当に良かったな」と思えるクラブにしなければ自分の負けだと僕は思っています。レギュラーで活躍する選手だけがいいのではなくて、所属するすべての選手にとっていいクラブであるためにクラブハウスだったりメソッドだったり映像分析だったり事細かな部分のトータルで選手を大事にしながら抱えている選手が幸せになるようなことをしっかり代表者が考えるようなチームを選んだ方がいいと思っています。果たしてそれがどれくらい会えるか僕は分からないですけどそういうちゃんとした代表の人がそういうことを考えてやっているクラブは当然、育成もしっかりしているはずです。

──自分のチームの宣伝みたいな感じになってしまいそうですが……守山さんは育成が上手なチームはどうやって見つけたらいいでしょうか。

守山 はは(笑)。プロになる選手が多いチームが育成が上手いというのはもちろんそうだし、自分たちもそこを一つの目標としていますけど、さっきの「どういう選手がプロになれるか?」というときに幸野さんもウッチーもまさしく「特徴がある」とか、「そもそもアスリートである」とか、「努力は必須だ」ところになってくるのでプロ輩出とイコールで結びつけてしまうと偏った上手さになってしまう。僕たちはジュニアもあって、ジュニアユースもあってサッカーの入り口から出口のときにサッカーが好きで出ていってほしいという構えを見せています。サッカーが好き、リップが好きという選手が多い状態で出ていってることがいいことなんじゃないかなと。

「育成が上手いってどういうことなの?」と聞かれたときにはおそらくそこにいる指導者が人間臭くて、素直で、一人ひとりに向き合っているとか、そこに来ている子どもたちがイキイキしているとか。喜怒哀楽がはっきり出ている。コーチの顔色を伺っていないとか。そういった中でやっていくとおそらく個性が出てくる。家の中だったらこの子はすごく元気なのにサッカーだったらという逆転現象のサッカー場でも、チームでもすごくそれぞれがそのまま素材感を持って出ている。そういう状態が育成クラブの状態なのかなと僕は思っています。アスリートで特徴のあるやつはそのまま個性が育っていったらプロに近づいていくはずです。当然、レギュラーが取れずサブやセカンドチームの選手もいますけどその中で、例えば応援する力があったり、裏方を束ねる力のある選手が育つとその選手は社会で役に立つ人間になっていきます。

──なるほど。すごく熱いものを感じました。

幸野 僕からするとやはり関西のクラブだからというか、どちらかというと関西の方が選手も個性的だし指導者も家族的というか、関東といい意味で違うなとすごく感じる。でも逆に言えばそうやって関東と関西で違った方がいいですし、ある意味実験じゃないですけど、そういういろいろなアプローチの中で日本はやっていかないといけないだろうし。

──ありがとうございます。次に「ジュニア年代では、実行するためのスキルトレーニングの比率を高めることはありますか? 認知・判断を行うにも一定のスキルが必要だと考えています」という質問が来ていますがこれは守山さん、いかがですか?

守山 サッカーは戦術と伴うという話をしていますけど当然、スキルの反復トレーニングはマストです。それもした上でという話なので、今の質問に対しての答えはもちろんそうです。ただ時間とか量にも関わってくるのであとはバランスを見てだと思います。

──あと、リップエースはセレクションをしないんですか?

守山 やっています。

──やっているんですね。セレクションをする上で見ているポイントは何がありますか?

守山 セレクションは1回とか2回の単発勝負じゃないですか。ですが私たちは基本的に何度か来てほしいというスタンスです。1回とか2回ではそもそも見れないですし、間違いが多く発生するということが大前提です。その中で何を見ているかというと、僕はざっくり言うと、目つきです。

──目つき。

守山 目つきです。

幸野 それは僕も賛成。

──目でわかりますか?

守山 近寄って、見て、しゃべって、子どもの想いが表情に出ているかですね。

内野 僕らの場合は高校なのでジュニアとかジュニアユースとは見ているところは違うと思いますけど、僕らももちろん表情は見ていますし、自信なさげな子って難しいんだろうなというふうに思いますね。

──なるほど。内野さんにも「努力できる才能のある人間がプロに入るという話でしたがこれは指導者が育むことはできますか? それとも持って生まれた先天的なものなのでしょうか」という質問が来ています。

内野 アプローチして促進することはできると思いますけど、才能の部分もあると思います。どういうふうに大人が関わるかでその子の努力する才能に火をつけられるかが指導者の力の見せ所だと思います。どうやってもできなかった子は正直、いるので。それは僕の力不足なのかその子にそういう感覚がなかったのか、答えはわからないですけど指導者の影響は絶対にあると思います。

──逆に言うと先程の選手を見るところで努力できる才能はある程度、最初のアプローチで見えるものなのでしょうか。

内野 いやいや、それはやはりないですね。ずっとトレーニングを一緒にやっていく中で課題に対して前向きに取り組んでいるかとか、指導者がいる、いない、見てる、見てない、知ってる、知らないに関わらず取り組んでいるというのがあるかないかというのはすぐにはわからないですね。

──もう一つ内野さんへ「Jユースからそのチームのトップへの昇格しかないという話でしたが、リップエースの米澤令衣選手はヴィッセル神戸ユースですがセレッソ大阪に入りました。あれは特例だったのかどの様な経緯ですか?」と来ています。

内野 セレッソが取りたかったんでしょうね。米澤くんはプレミアで得点王になっていたんですよ。だけどヴィッセルでは昇格できないと決まったのでセレッソがヴィッセルに直接話をして、入団したんだと思います。ですが基本的にそういうケースは少ない。いろいろなトップクラブのユースの選手がうちにいたらプロになっていただろうなという選手はたくさんいます。逆にうちの選手がトップクラブのユースにいたらプロにはなってないと思います。

──守山さん、米澤選手はリップエースの出身で初めてプロになった選手なんでしたっけ?

守山 米澤の一つ上でヴェルスパ大分でプレーしていた薮内健人が最初ですね。その後に米澤と同級生の嫁阪翔太ですね。

──米澤選手は守山さんの中で一つの基準になったという話を以前されていましたがどんなところが基準になったのでしょう。

守山 先ほども言ったようにまずはアスリートですよね。アスリートですごく素直で前向きな選手でした。ただ、少年団から出てきた選手で来たときにはどちらかと言うと“教わっていない”。だけどアスリートですごく素材感があった。いわゆるいい素材のいい特徴を持っていい素材感のあるすごく戦力になる子が来ていただくとサッカーをキチンと戦術とか動作とか大事にしていること等、やっていけばなれるんだという基準になりました。そもそもプロになる選手は限られた人なので、そういう子が来るとそういう子らにもプロの道を出せるのかなというところで確信が持てました。

──内野監督もそうですし守山さんもそうですがプロ選手をたくさん輩出していることでどの選手がプロになれるとかというのが見えて、基準ができているのはすごく大きいのではないかと思います。

内野 守山さんが仰ったように数値化はできないんですよ。データ化はできませんが指導者の感覚で「こいつ多分プロになりますよね」という選手は具体的に説明はできないですけど、1年生が終わったくらいで半分くらいは「こういう感じに活躍していてこういうふうに努力する選手はプロになるんだろうな」と見えてきます。

──なるほど。選手を見る目や必要な素材……。いろいろな要素が出てきて視聴者の方も学びが多かったんじゃないかと思います。最後にケンさんへ、4種でもU-11プレミアリーグのようにレベル別のリーグをしていると思いますけど、年度毎に大きくレベルが変わるチームが多く、昇格、降格がちょっと難しい気がするという質問が来ています。

幸野 もちろんその側面はあります。全てにとってみんなが100%満足するものはできない。何がプライオリティかと言ったときに、昇格、降格がないリーグというのは真剣見に欠けてしまいます。むしろそれがある方が健全ですし、世界では普通に行われていること。この学年で(タイトルを)取ればその年で弱かったり強かったりという部分が出てくると思いますけどそれは大義のためには多少、目を瞑らなければいけない部分だと思います。

守山 大阪も学年によって力の差が出てしまうことはありますね。あまり望ましいものではないので5点差くらいつけられるようなゲームをしたらそもそも楽しくないですよね。リーグ戦のヒエラルキーのような状態は必要かなと思いますがそちらにガチッとなってしまうと競争にまみれてしまう。子どもたちをパターンのループに入れ込んでしまうという負の関係も出てくるのでジュニアとか子どもの心が自立していないときにいかに指導者が関わりを持ってあげるかというところの基準はすごく大事だと思います。指導者同士がちゃんとコミュニケーションを取っていくべきだと思います。

──ありがとうございます。最後に保護者、指導者の方へそれぞれメッセージをいただきたいです。

幸野 僕らがやっているプレミアリーグが、日本で当たり前になるようにしたいです。「実際にリーグ戦って結構やってるじゃん」という声もありますが僕らが言っているのはヨーロッパ型のように年間8カ月を費やして30試合を行うようなもの。日本で行われているリーグは言ってみればなんちゃってリーグです。どうしても(トーナメント式の)大会がメインになってきて、大会とリーグのバランスがあまりにも悪いという現状がある。リーグというものは落ち着いてみんなが毎週、毎週試合をしっかりできる環境をもっともっと広げていかないと思っています。今日はそのきっかけになればと思いますし、このような機会がまた3回、4回とあればよろしくお願いします。

守山 こうやって指導者の方がグラウンド以外で気づいたことを話すことで、特に目新しいこととかは皆さん持っていないと感じます。突拍子もないことではなく、普通のことだと思いますがこういう繋がりの中から新しい発想とか、「ああ、そうだよね」という確信とか疑問に思っていたことがわかるシーンが私の中ではすごく多かったです。子どもたちのためにも自分のためにもどんどんコミュニケーションを取ってサッカーの裾野を広げていけたら良いなと思っています。今日は本当、勉強になりました。

内野 僕ら指導者は勉強するのが終わったときは指導者を辞めるときだと思っています。日々向上するためにいろいろなところからヒントであったり、情報であったりきっかけであったりというのをどうもらい続けるかを僕も毎日考えています。今回は本当にいい機会をいただきました。ありがとうございます。


幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント

著書
パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方

1961年9月25日、東京都生まれ。中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やスタジアムを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

守山真悟(もりやま・しんご)

プレミアリーグU-11関西地域委員兼大阪府実行委員長/RIP ACE SOCCER CLUB代表

1979年、滋賀県生まれ。草津東高校、桃山学院大学でサッカーを続け、大学4年時の2002年に、同期の今村康太と一緒に大阪府堺市でRIP ACE SOCCER CLUB(リップエースサッカークラブ)を創設。「サッカーがうまくなるとは、サッカーをすることである」という考えに基づく「戦術的ピリオダイゼーション」をいち早く実践し、オリジナルの動作理論と組み合わせた指導を続けている。迷彩柄ユニフォーム・豹柄ビブスを着用する見た目のインパクトを放ちながら、社会で通用する選手を育てるという自立型人間の育成を教育指針に掲げ、子どもたちの心を鍛えることを重視して活動している。

内野智章(うちの・ともあき)

興國高校サッカー部監督

1979年生まれ、大阪府出身。初芝橋本高校1年時に全国高校サッカー選手権大会に出場し、ベスト4に進出。高校卒業後は高知大学へ進学。その後、愛媛FCに加入するも、原因不明の病気で1年で退団。2006年より興國高校の体育教師および、サッカー部監督に就任。全国大会出場がないなかで多数のプロ選手を輩出するなど育成手腕に注目が集まり、高校選手権前回大会でついに全国初出場。過去8年間で20人の選手がJリーグ入りを果たし、来年度のJ内定選手は同一高校から5名という異例の快挙と報道されている。

北健一郎(きた・けんいちろう)

WHITE BOARD編集長/Smart Sports News編集長/フットサル全力応援メディアSAL編集長/アベマFリーグLIVE編集長

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

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