Smart Sports News

【新時代サッカー育成対談】幸野健一×末本亮太|育成年代に求められる新しい価値観とは何か?|後編

UPDATE 2021/07/05

  • SHARE

育成年代にトーナメントは必要ない。リーグ戦こそ選手を育てる──。

そんなメッセージを打ち出し、公式戦が少ない小学5年生にリーグ戦の経験を積ませることを目的に2015年から始まったのが「アイリスオーヤマU-11プレミアリーグ」。現在は全国33都道府県で開催され、400チーム、7000人以上の小学5年生が、年間を通してプレーする日本最大の私設リーグへと拡大してきた。

具体的には「試合に出られない選手をつくらない」ためのルールを採用することで最低限の出場時間が確保され、選手が何より求めている試合経験を積むことができる。その結果、選手が少しずつレベルアップし、日頃の練習の質が上がっていくため、チーム自体がどんどん強くなっていく。参加チームの指導者からは、「全員を出したほうが強くなる」というリアルな実感がいくつも届いているという。

しかし、リーグ戦の重要性はまだ浸透しきっていない。

うまい選手を固定し、うまい選手だけが試合に出ているよりも、チーム全員が出場しているチームのほうが、長い目で見たときに強くなれる。そうした重要な価値をさらに広げていくことは、育成年代、ひいては日本サッカーの未来を変えていくことにつながっていくに違いない──。

そうしたメッセージを伝えるのは、プレミアリーグU-11実行委員長・幸野健一氏と、同リーグ神奈川県実行委員長・末本亮太氏。両者が、プレミアリーグU-11に参加するすべての指導者や選手の保護者に向けて、リーグ戦の大切さを語り合う!

掲載協力・WHITE BOARD SPORTS


■登壇者

・幸野健一|プレミアリーグU-11実行委員長/FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント
・末本亮太|プレミアリーグU-11神奈川県実行委員長

■ファシリテーター

・北健一郎|サッカーライター/ホワイトボードスポーツ編集長


関連記事


学校とスポーツを切り離すことで移籍がスムーズになる?

──ここでもう一つタブーに切り込みたいのですが、幸野さんが言うように“幸せなクビ”という形での移籍は今、簡単にできる仕組みになっているのでしょうか。

末本 数年前にJ、移籍申請のときに「これはダメだ」と断ることをなくす仕組みがJFAによって作られたので、今は比較的に自由になっています。ですが保護者の方がそういった情報を知らなくて、登録チームの監督さんから「移籍したら移籍先で1年出られないぞ」というようなことを言われて信じてしまう。そもそも選手が移籍して、どこでプレーするかも自由なのに、そういったことを制限するような地域は実際にあるという話を聞きます。

幸野 3年前に僕も働きかけて、最終的にはJFAが動いてくれて、移籍に対して意地悪することをなくすように通達を出してくれた。そこからは、それ以前に比べて移籍できるようになりましたが、だからと言ってバンバン移籍が起きているかというとそうではない。日本人的な「一つのところでずっと全うする」という考えも今だにあるので、移籍の自由化がなかなか進まないというのが現状です。

──この移籍問題に対して、幸野さんが声を上げたときのケースは横浜市で起きていると聞きました。退部届のところに「退部した場合は他のクラブに所属できない。選手登録をしたら1年間は同じクラブで活動する」とか、そういう移籍承諾書のようなものがローカルの中では出回っていて、それが選手たちの移籍を狭めているというのがあり、それが割と大きな問題になっていると。これは知識が浸透していないからこそ起こってしまう話なんでしょうか。

末本 知識がないためにびっくりしてしまって「じゃあ移籍をやめよう」といったプロセスはあると思いますね。少し話は逸れてしまうかもしれませんが、移籍とかそういったものをよりオープンにするためにも、プレミアリーグが役立っています。他の地域のチームとの交流で、指導者や保護者の接点が生まれ、「こういうチームもあるんだ」「移籍にもそういう考えがあるんだ」となりますから。

──参加者の方から「リーグ戦文化の浸透には自由な移籍ができる雰囲気の醸成がセットだと思っています。学校と競技スポーツが密接すぎるというのが課題の一つのようにも思っていますが、移籍が普通になるためのプロセスとしてどんなイメージがありますか?」と来ていますがいかがでしょう?

幸野 今だって移籍は自由にできるはずですけど、学校と競技スポーツが密接につながっていることで、本来は遊びであるはずのスポーツが学校と一緒になっている。それによって、いろいろな問題がある。学校スポーツのクラブが90%になっていますが、将来的にはもっとクラブ化すべきだと思っていますし、教育的な意味での忍耐や努力、我慢とか、そういうものから切り離せばより移籍しやすくなる。

──学校と一緒になってしまうと、移籍するには転校する必要が出てきますからね。それが移籍を阻む原因になっていると。

幸野 クラブに移行するのはサッカーだけでなく日本のスポーツ全体の問題だと思うんです。これまでも文部科学省が国として部活は廃止するという方向を打ち出してくれていて、そのためにスポーツ庁もできた。今後、外部指導員だったり僕らのような外の人間が学校のグラウンドを借りて管理してクラブ化する形を含め、総合型地域スポーツクラブが部活に成り代わっていく仕組みというのが出てくると思うので、そうなれば移籍もしやすくなる。そういうプロセスを僕は考えています。

──今の部活では試合に出られない、指導者と合わないとなっても移籍をする選択肢がないので、退部して帰宅部になるケースは多いですよね。

末本 今はユースチームも増えてきているので「高校サッカーをやめたらユースチームに行こう」とか「高校サッカーをやめて社会人チームに行こう」という傾向は増えていまして、私のチームにも社会人チームがありますが、ここ数年は高校サッカーからくる選手が増えましたね。

幸野 千葉県では高体連が250チームに対して、クラブチームは町クラブ6つとJクラブ2つの8つしかありません。全然ないんです。全国で見ても高校は4000に対してU-18のクラブは120くらいしかない。受け皿がないんですよ。高校でやめた人がクラブに行く動きは、神奈川では多いかもしれませんが、現実問題としてクラブがない県もあります。行く場所がなくサッカーをやめてしまう。日本の少年サッカーの人口は世界8位なのに、大人になるとほとんどやめてしまう。一方でドイツは、10歳のサッカー少年と40歳のサッカーおじさんの人口が一緒で、円柱状の競技人口のまま推移している。うちのクラブでも高校サッカーをやめた選手をたくさん受け入れています。もともとU-15でやっていて、高校に行って部活をやめた子が帰ってくる場所がありますが、ほとんどのクラブにはそれがない。

──なるほど。今回のU-11プレミアリーグは小学生年代の話ですが中・高校生になったときの課題がまだまだ大きいというところですね。

末本 僕らの中学生のカテゴリーでは、毎年選手を募集しているんです。というのも、ジュニアユースもなぜか「ジュニアユース」というクラブなのに学校と同じように考える方が多すぎて、入ったら3年間移籍できないみたいな空気があります。それはおかしいと思っているので、中1、中2、中3のキリのいいところで選手を募集して、他チームで「合わない」、「環境を変えたい」と悩んでいる方がチャレンジでき流ようにしたい。他の選手がほしいのではなく、そういった人材の流動性が目的です。人が変わることで競争も生まれますし、刺激もある。もちろん、うちのチームからやめていく選手もいますが、ネガティブなことではなく、移籍をプラスに考えて、一人ひとりが現場で変えていくことで移籍環境も変わるのかなと。

──もう一つ、参加者からの質問ですが、“幸せなクビ”の伝え方ですが、これは実際、どういう声がけをしているのでしょうか?

幸野 これをやっているクラブは、現実的に、うちも含めて日本にはまだないと思います。ですが近い将来やりたいと思っています。そのときのために提携クラブをきちんと用意するか、当分はクビにした選手の面倒を見ることも含めて。“幸せなクビ”を実現するには、リーグ戦がきちんと機能して、ヒエラルキーが成り立っていないといけない。僕が考えている本当の意味でのリーグ戦は、ヨーロッパのように16チームによるブロックで、年間30試合が行われること。日本にその環境はまだないですが、それができて初めて、リーグ戦が整備されることになります。

──ヒエラルキーが出来上がったときこそ、本来のクビが機能する。

幸野 そうです。だから現状では、いきなり「さようなら」では厳しい。そもそも入るときにちゃんとそれを説明しないといけない。ただ、いずれどこかのチームでそれを実践するところが出てくると思う。本来はJクラブかやるべきだと思いますけど、それがまだできていないですよね。

──受け皿までセットじゃないと、たとえば市川ガナーズをクビになったけどどこでサッカーをしていいかわからずやめてしまうということになりますからね。

幸野 そうですね。

相手がいるのに、日本人は相手を見てプレーができない

──参加者からのコメントにあったのですが、文京区、豊島区、足立区、中央区の運動部やクラブユースを中心としたユースリーグで「引退なし」、「補欠0」というコンセプトを掲げている東京都U-18の「DUOリーグ」という名前が出てきました。幸野さんはご存知ですか?

幸野 それを立ち上げた中塚義実さんが主催する特定非営利活動法人に僕もメンバーとして入っていたので、よく知っていますよ。

──これは高校年代の話ですがこういった動きはやはりいろいろな世代で必要でしょうか。

幸野 そうですね。今は高校生や上の年代のリーグ戦化が進んでいると思いますし、やはり4種が一番遅れている。それぞれのチームが自分の招待大会とかを持っていますからね。なので「来年からすべてリーグ戦化しますから招待大会は全部廃止です」なんてことをしたら暴動が起きるんじゃないかと思っています(笑)。

末本 確実に起きますね(笑)。

幸野 そこで稼いでいる人もたくさんいるし、独自の招待大会がそういうものの隙間を埋めていって、多くのチームは毎週大会を渡り歩くんです。行き当たりばったりの試合を繰り返している。リーグ戦の最大のメリットは2回総当たりで戦うことです。1回目の試合で起きたことを選手も指導者も分析し、映像も撮っていたら映像分析もして次の対戦に備えてそれを修正したり対策を立てる。これが何にも増して一番大事な部分だと思っています。

──ヨーロッパではチーム数も多いため小学生年代からそれができますよね。

幸野 そうですね。ヨーロッパでは8歳、9歳の年代からリーグ戦が始まりますがそれくらいの小さい子たちが、一度負けた相手にもう一度負けるのは嫌だからと自分でちゃんと考えるようになるんです。これをヨーロッパや南米の子たちは小さい頃から毎試合、毎試合積み上げていく。一方で、その場限りの招待大会で二度と対戦しないような相手とばかり戦って、振り返る意味さえもない試合を積み重ねていく日本の子どもたちでは、個人戦術、チーム戦術も含めての積み上げが全くないんです。ナレッジが集積していかないのでこの差は果てしなく大きい。これはヨーロッパにいた頃からいつも感じていたことで、日本の子どもたちとヨーロッパの子どもたちの頭の中身が全然違うんです。

──それは相手に対する対応力など?

幸野 そうです。サッカーというのは、主体的じゃなくて常に相対的なスポーツ。自分が調子良いかどうかは相手が調子良いかどうかにも関わってきます。ですが日本の選手インタビューや監督インタビューを見ていても「自分たちのサッカーをすれば勝てます」みたいな言い方をしている。昔、オシムさんが僕に「そんなことを言えるのは世界でバルサだけだぞ」と言ってました。常に相手がいるにもかかわらず、日本人は相手を見てプレーができない。そこが一番世界から劣る部分なんじゃないかなと思います。それはリーグ戦をやらないでトーナメントばかりして育つからそうなってしまうんです。

──質問の中でもう一つ聞きたいのですが、「今回の昇格、降格のチーム数を改めて教えてください」と。コロナ禍の影響で昇格、降格は変わってきますか?

末本 いえ、基本的に変わっていないです。今年、一番変わったことは僕らが大事にしている2回戦方式が9月からの開催になってしまったことで難しくなってしまった。なので今年に関しては1回戦方式になってしまっているんですよ。そこが一番危惧しているところですが、大会自体が減っているので、リーグ戦の消化が順調に進んでいます。なのでこのまま順調に進めば、皆さんに提案して2回戦方式に対応していただけるのではないかと思っています。そこに醍醐味があるので。

幸野 僕らの良さは、良いと思うことは途中からバンバン変更できてやれることですね(笑)。

──1回戦だったはずが2回戦方式に変わる可能性があると。

末本 皆さんもそうしたいはずなんですよ。本来だったら2回戦方式なのを今年は難しいかもしれないという始まりでした。ですが皆さんフットワークも軽く、モチベーションも高いので、試合が進んでいくなかで感じているものもあるはず。なので「もう1回戦できるのならやろう」と提案できるのではと思っています。

──ありがとうございます。では最後に感想やメッセージをお願いします。

末本 選手たちにとっても、自分がピッチに立ってプレーすることが最高に幸せな瞬間だと思いますし、保護者の方も自分のお子さんがベンチではなくてピッチで楽しそうにプレーしている姿を見るのが最高に幸せな時間だと思います。なのでこういったリーグを通して感じたことを保護者同士で話したり、指導者と話したりするなかで、「こういうことにはどう考えているんだ?」みたいな質疑応答によって、日本の育成現場が変わっていくと思います。指導者が変わっていくことが一番早いと思いますし、それがきっかけになると思います。ぜひ、何か感じることがあればまた明日にでも現場で意見交換をしていただければと思います。今日はありがとうございました。

幸野 元々、プレミアリーグが始まったきっかけもそうですし、自分のクラブを立ち上げたきっかけもそうですが、グラウンドからは至るところで指導者の怒鳴り声が聞こえ、レギュラーしか出られずベンチで試合に出られない子どもたちを見る度に何十年も心を痛めてきました。僕はサッカーの仕事とは別で広告会社も経営してきましたが、広告会社は「お客様は命です」とカスタマーサティスファクション(顧客満足度)のために一生懸命やってお金をいただいている。ですが、少年スポーツの世界では、お金をいただいている親御さんのお子さん、つまりクライアントに対して怒鳴れるってこの業種しかないなと(笑)。お金をもらっている相手を怒鳴ったり試合に出さなかったりする。よく考えたらとんでもないことですよね。

今までは親御さんや子どもの我慢によって成り立ってきましたが、こんなことがいつまでも続くわけがない。コロナ禍によって僕は、偽物が淘汰され、本物が生き残る時代になると思っています。僕も50年以上選手としてやっていますけど、僕らにとって一番のご褒美は試合だから、毎週末にサッカーの試合がなければサッカーをやめてしまうんですよ。もちろん3種、2種に上がったら多少の差がつくのは当たり前ですけど、特に4種年代は、平等に守ってあげなければいけない。毎週試合できる環境をしっかり整備することが大事です。この環境を変えようと思ってすべてを懸けてここまでやってきました。

プレミアリーグを始めて5年が経って、多くの仲間たちが、それぞれにできることをさらに突き詰めて、もっともっと強大になって、これが47都道府県すべてに広がれば、大きな力をもてるはずです。そうなればJFAではなく、僕らでいろいろなことを決められるようになります。そのときは「夏休みは2カ月休む宣言」をしたいと思っています。「夏休みは2カ月間、サッカーをやりませんよ」とプレミアリーグ全チームが宣言するみたいなことがあれば、日本のスポーツ界に大きなインパクトを与えられると思います(編集部注:なぜ「夏休みは2カ月休む宣言」が大事なのかは、幸野健一の著書『パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方』をご覧ください!)。数を増やすことも力になるので、多くの人が共感してくれ、僕らの仲間になってくれることで僕らの力になる。今後も活動していきますのでぜひ皆さんの力を貸してほしいです。よろしくお願いします。


幸野健一(こうの・けんいち)
プレミアリーグU-11実行委員長/
FC市川GUNNERS代表/サッカーコンサルタント

著書
パッション 新世界を生き抜く子どもの育て方

1961年9月25日、東京都生まれ。中央大学卒。サッカー・コンサルタント。7歳よりサッカーを始め、17歳のときに単身イングランドへ渡りプレミアリーグのチームの下部組織等でプレー。 以後、指導者として日本のサッカーが世界に追いつくために、世界43カ国の育成機関やスタジアムを回り、世界中に多くのサッカー関係者の人脈をもつ。現役プレーヤーとしても、50年にわたり年間50試合、通算2500試合以上プレーし続けている。育成を中心にサッカーに関わる課題解決をはかるサッカーコンサルタントとしても活動し、2015年に日本最大の私設リーグ「プレミアリーグU-11」を創設。現在は33都道府県で開催し、400チーム、7000人の小学校5年生選手が年間を通し てプレー。自身は実行委員長として、日本中にリーグ戦文化が根付く活動をライフワークとしている。また、2013年に自前の人工芝フルピッチのサッカー場を持つFC市川GUNNERSを設立し、代表を務めている。

北健一郎(きた・けんいちろう)

WHITE BOARD編集長/Smart Sports News編集長/フットサル全力応援メディアSAL編集長/アベマFリーグLIVE編集長

1982年7月6日生まれ。北海道出身。2005年よりサッカー・フットサルを中心としたライター・編集者として幅広く活動する。 これまでに著者・構成として関わった書籍は50冊以上、累計発行部数は50万部を超える。 代表作は「なぜボランチはムダなパスを出すのか?」「サッカーはミスが9割」など。FIFAワールドカップは2010年、2014年、2018年と3大会連続取材中。 テレビ番組やラジオ番組などにコメンテーターとして出演するほか、イベントの司会・MCも数多くこなす。 2018年からはスポーツのWEBメディアやオンラインサービスを軸にしており、WHITE BOARD、Smart Sports News、フットサル全力応援メディアSAL、アベマFリーグLIVEで編集長・プロデューサーを務める。 2021年4月、株式会社ウニベルサーレを創業。通称「キタケン」。

関連記事

  • SHARE