
2021年の秋に開幕が予定されている、女子サッカーのプロリーグ「WEリーグ」。女子サッカー界の新たなチャレンジの舵取り役を任されたのが、岡島喜久子チェアだ。
日本初の女子サッカークラブでプレーし、日本代表に選ばれたのち、アメリカの外資系金融機関で結果を出してきた。
新時代のリーダーはどんなキャリア歩んできたのか。そしてWEリーグをどのように発展させていこうと考えているのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。
昨年6月に突然受けたチェアのオファー
──昨年7月にWEリーグのチェア就任が発表されました。
きっかけは2018年に行われた『メキシコ・オリンピック50周年記念パーティー』でした。私は日本代表OB・OG会で呼ばれ、同じテーブルに金田喜稔さんがいらっしゃいました。それで当時、勤めていたメリルリンチの名刺を渡してご挨拶しました。その名刺には「ウェルスマネジメント」や「バイスプレジデント」といった肩書きがたくさんついていました。
──すごい肩書きですね(笑)。
それが奏功したようです(笑)。それをご覧になった金田さんが「キミみたいな人にJリーグの全クラブに女子チームを作ってもらいたい」とおっしゃってくださって、村井満チェアマンをご紹介してくださいました。
──金田さんとの出会いから始まったんですね。
その翌年、日本女子サッカー連盟40周年記念の際に、現WEリーグ事務局長の江川純子さんに「私に何かできることはありませんか?スポンサー探しならお手伝いできると思います」とご相談させていただきました。それから女子委員会委員長の今井純子さん、副委員長の手塚貴子さんを交えてミーティングをして、資金面が一番課題になるということでスポンサー探しを手伝うことになりました。私は銀行や証券会社に人脈があるので、そこからサポートしようと動いていたところ、昨年6月に突然、「チェアになってほしい」という話をいただきました。
──なんと、就任発表の1カ月前だったんですね。
大前提として、女性をトップにするという考えがあったようです。経済界などで活躍している女性候補をリストアップしていたそうなのですが、どの方もサッカーとのつながりが薄かったため、サッカーのプレー経験がある人物となると私以外にいない状況でした。サッカーとビジネスキャリア両方の観点から適任だと判断していただいたようですね。
岡島さんしか考えられない
──これだけのビジネスキャリアがあり、サッカー界にも密接に関わってきた方はなかなかいないですよね。
オファーの前から、私はメリルリンチ日本証券・元社長の小林いずみさんを推薦させていただいていました。ただ、小林さんは数多くの企業で社外取締役をされていて、とてもお忙しく、難しいということでした。それで私がチェアをお受けすることになり、小林さんには別のポジションでお力添えいただくことになりました。
──オファーを受けたときはどんな心境だったのでしょうか?
主人に相談もせず、その場で即答してしまいました(笑)。今井さんとJFA副会長の岩上和道さんとお会いしていて「岡島さんしか考えられない」と言っていただきました。そのお2人は私もとても信頼している方でしたから、悩むことはなかったですね。
──突然のオファーもすごいですが、その場で即答というのもすごい展開ですね。
タイミングも良かったと思います。アメリカには定年という考えはないですが、夫はすでに退職し、私も十分に蓄えができたので、前年11月には引退していました。夫と2人でゴルフを楽しみながら過ごそうというタイミングでしたからね。
コロナ禍で苦戦するスポンサー探し
──岡島さんとしては、今秋の開幕が迫るWEリーグの課題を何か感じていますか?
アメリカの女子プロリーグが失敗した一番の原因は資金問題にありました。リーグ立ち上げ当初は40億円の予算を集め、それを8年間で使う予定が1年で使ってしまいました。選手の年俸を上げすぎたことなど理由はさまざまありましたが、わかりやすくいえば1年目でやり過ぎてしまった。WEリーグもコロナ禍で思った以上にスポンサー集めに苦戦しており、アメリカとは違った理由で資金問題を抱えています。ただ、JFAからは、女子サッカーに対して5年間で10億円の予算の計上が発表されています。全額ではないのですが、大部分をWEリーグに充当してもらえる予定です。リーグ初年度に3億円、来年度以降も段階的に出してもらいます。
──JFAからのサポートが決まっているんですね。冠スポンサーはどうなるのでしょう?
いくつか内定している企業はありますが、冠スポンサーはまだ探している状況です。
──アプローチしている業界などはあるのでしょうか?
WEリーグとの親和性を考えても、コスメ業界は良いと思っていましたし、実際にアプローチをしていました。ただ、コロナの影響でコスメ業界も厳しい状況ですから、何社もアプローチをしましたがなかなかうまくいかないという状態です……。
──では、他にもアタックしている業界はありますか?
私が得意とする金融機関の大手には声をかけていますが、やはり収益が下がっているなかで、新しいプロジェクトにコミットするのは難しいというのが大多数の意見です。ビジネスの判断としては妥当だと思います。そういうこともあり、コロナでも影響が少ない業種を今は当たっているところです。コロナ禍が続く限り、この厳しい問題は続いていきそうですね。
■プロフィール
岡島喜久子(おかじま・きくこ)
1958年5月5日、東京都生まれ。中学2年時に男子サッカー部に入部。その後、日本初の女子クラブであるFCジンナンに所属し、第2回AFC女子選手権に出場。79年、日本女子サッカー連盟設立時の初代理事に就任、83年には日本代表として広州女子国際大会に出場。早稲田大学卒業後の83年からケミカル銀行(現JPモルガン・チェース銀行)に入行し、89年の海外転勤を機に引退。91年からは拠点を米国へ移し外資系金融機関で働く。2020年7月、WEリーグ初代チェアに就任。
■クレジット
取材・構成:北健一郎
写真提供:WEリーグ
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