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Jリーグ理事 佐伯夕利子 YURIKO SAEKI Vol.2「優秀なタレントを見落とすのはありえない」


サッカー先進国・スペインで指導者としての道を切り開き、アトレティコ・マドリー、バレンシア、ビジャレアルなどで重要な役割を任せられてきた佐伯夕利子。
「ニューズウィーク日本版」で「世界が認めた日本人女性100人」にノミネートされるなど、サッカーで活躍する女性のベンチマーク的存在でもある。
2020年よりJリーグ理事に就任した佐伯は、日本サッカーが発展するために何が必要だと考えているのか。
「SmartSportsNews」の独占インタビューを3回に分けてお届けする。

良い選手は誰が見ても良い選手

——佐伯さんはバレンシアやビジャレアルでトップチームおよび育成部門の重要なポストを務められてきましたが、なぜスペインからは優秀な選手がたくさん生まれてくるのでしょうか。

結論から言うと、良い選手というのは、誰が見ても良い選手なんです。私たちはマジシャンではないので、普通の才能を持った選手を天才に仕立てあげることはできませんし、誰も気づかなかったすごい才能をいきなり発掘することもありません。タレントがある選手のキャリアを共にサポートをしてあげながら、レールを踏み外さないように、さらにバージョンアップをしていくためのお手伝いをするというのが私たち指導者やチームを統括する責任者の役割だと思います。

——優秀なタレントを持った選手を“発見”するのが指導者の役割なのかと思っていましたが……。

スペインは全国にスカウティング網がすごい張り巡らされています。だから特別な才能を持った子どもがいれば、何かしら引っかかってきますし、見落とすことはまずありません。私がお世話になったアトレティコ・マドリード、バレンシア、ビジャレアルという3つのクラブは、間違いなく素材が良い選手が集まってきています。そうして全国から精鋭たちを集めていても0.1%くらいしかプロにはなれないという現実です。

——そうしたスカウト網というのはどのように構築されているんですか?

ビジャレアルに限らずどのプロクラブでもそうですが、国内においては各州に最低1人は契約スカウトを置いています。例えばマドリッドやバルセロナなどのサッカー人口が多い大都市やアンダルシア州は面積が広いので2〜3人いる場合もあります。ほとんどの場合は各地域にいる地元の方です。なぜクラブ本部から人を派遣しないかというと、各地域によって情報源や関係性などさまざまな要素があるからです。そのようにして毎週末、各地域で行われている全カテゴリーのリーグ戦を見て回って、各担当からクラブのプラットフォームに選手の情報を上げてもらいます

——すごい……。

たくさんのフィルターをかけながら何千、何万という選手を小学生年代から全部見ているわけです。評価基準には「次は見る必要はない」「引き続き追跡の価値あり」「即獲得すべき」などがあります。これをトップリーグだけでなく、2部のクラブもやっている。つまり、42クラブが各県、各州で行っている。だから、優秀なタレントがこぼれ落ちることはあり得ないんです。

大応援団は美談にすべきではない

——スペインと日本の育成システムとの大きな違いというのはどういったところに感じますか?

日本のスポーツとはコンテクスト(文脈)やバックグラウンド(背景)が違うので、スペインと同じことをやろうとするのは間違いです。まずスペインではスポーツはクラブで行いますが、日本では部活動が主流になっています。今後もそれを大きく変えることはできないでしょうし、変えるべきだとも思いません。面白い選手は多様な文化、多様な土壌から育っていくので。ただ、課題はいくつかあります。

——課題というのは?

学校レベルでスポーツが行われていると、先輩後輩のヒエラルキーがすごく根強い日本では、どうしても下の子が上の子を追い越すことがすごく難しくなってしまうこと。例えば、私の時代は高校サッカー選手権では3年生しか出ていませんでした。極端な文化というのは変わってきているとは思いますし、今は2年生や1年生が出るようになっていますが、それでも最高学年の子が優先的になることで、断片的に成長が止められてしまうシステムというのは問題だと思います。日本のサッカーを本当に世界トップ5にしようと思ったら、学校スポーツが主体であったとしても、どんな仕組みにするべきかを真剣に変えていかないといけません。サッカーのみならず、日本スポーツの課題として「継続的」そして「持続的」な成長機会の提供に取り組んでいくべきではないでしょうか。

——強豪校では100人や200人の部員を抱えているところもあって、大応援団でトップチームを応援することが美談になることもあります。

教育者、指導者として、150人の中でせいぜい20人くらいにしか学びの機会を与えてなくて、残りの130人の学びの機会を奪っているということを理解しなければいけない。それだけの人数の学びの機会を奪っておきながら教育者や指導者と名乗り続けるのはそろそろ辞めなければいけないと思います。

——今の部活動のシステムの中で解決策があるとしたら?

競技会を増やすことです。150人いたら150人がプレーできる場所を作る。なぜできないのかは、私も背景がわからないので、いろいろな事情があるのだと思います。もしも大人の事情であれば解決するべきだと思いますし、物理的に可能であれば絶対に推し進めていくべきでしょう。試合に出られないということは成長もできないし、モチベーションも後退していくことにつながると思うのでその環境を変えてあげることは必須です。

——スペインでは全員が試合をできる環境が与えられているということでしょうか?

小学1年生でもレベル別にAチーム、Bチーム、Cチームと分けられて、1部リーグ、2部リーグ、3部リーグとあります。身の丈にあったレベルのリーグ、チームなので、例えば15-0で負けるようなことはありません。そうした中で10カ月をかけて毎週末リーグ戦を戦っていて、それをボールを蹴り始めてから20年ほど繰り返していく。選手の成長においてそれに勝るものはないと思います。

——試合を通じてサッカーを学んでいく。

サッカーは試合を通じて駆け引きを学んだり、体が当たったり、当たらないようにしたり、そういうことを学んでいく場なんです。それを小学年代から毎週末ずっと繰り返している子たちと、ドリル的なトレーニングやっている子たちでは、どちらがサッカーがうまくなるでしょうか。スクールで技術を学ぶ日本と、競技会を主としているスペインの、サッカー文化の差なのではないかと思います。

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