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石川直宏(サッカー)と岩田美香(女子プロレス)が市民と対話。まちの課題・テーマの解決にスポーツやアスリートの力を発揮する。

2023年10月30日、佐賀県嬉野市の観光・交流施設“まるくアイズ”にて、佐賀県嬉野市が開設した『※スポーツフューチャーセンター』が主催する第1回のセッションが行なわれました。『農業も観光も楽しめる未来の嬉野のまちをつくるために、企業、自治体、各組織がともにできることは?』というテーマについて、嬉野市民をはじめとした参加者と2人が対話やグループワークを実施。“未来の嬉野”について考え意見を交換しあいました。
今回、農業×観光というテーマに親和性のあるアスリートとして来訪したのはサッカー元日本代表の石川直宏さんと女子プロレスラーの岩田美香さんです。石川さんは長野県飯綱町で農場「NAO’s FARM」を経営し、岩田さんは所属元のセンダイガールズプロレスリングのメンバーと共に、オリジナルのお米を生産しています。

※スポーツフューチャーセンターとは?
北欧で発祥したフューチャーセンター(異なった組織や立場の人々がその組織や立場を離れ、自由に関係性を形成し、未来志向で創造的な対話をおこなう「場」のこと)にスポーツの力(情報発信能力;アンプ、連携を進める能力;ボンド)をかけあわせたもので、嬉野市の取り組みが世界初となる。なお、「フューチャーセンター」が「場」をあらわすのに対し、対話の過程及びその内容は「フューチャーセッション」と呼ぶ。

温泉やお茶の名産地として知られている嬉野市は、茶畑に隣接された施設で嬉野茶を嗜んだり、お茶を手にしながら温泉地をはじめとする観光地を回ったりする体験をプランに入れ込んだ“ティーツーリズム”を推進しています。今回は、そのティーツーリズムに関わる『きたの茶園』3代目の北野秀一さんと、『旅館大村屋』15代目の北川健太さんもスピーカーとして参加。まさに異なる立場から農業・観光に関わる4人の話を軸に、参加した嬉野市の方々が意見を交換し合いました。

本セッションのファシリテーターを務めるTHE SMALL THINGSの田上悦史さんの主導のもと、会はスタート。隣り合った人同士で田上さんから投げられたテーマについて話し合います。

交流を深めた後はスピーカー4人が自身の取り組みをプレゼンします。まずは、北野さんと北川さんが。2人が主体的に進める嬉野のティーツーリズムについて紹介。

温泉、嬉野茶、肥前吉田焼という伝統的な産業を後世にも伝えていくため、体験型のコンテンツを含むティーツーリズムをスタート。地元で活動する人たちが自ら案を出しながらアップデートを重ね、多くの人に魅力を伝えようと奔走中です。「ブルゴーニュのブドウ畑の中に併設したワイナリーでワインを飲むという最高の体験のお茶版が嬉野で体験できるんじゃないか、と。宿泊施設があり、温泉があり、そこにお茶を入れるツアーを作ってるっていうところで、このストーリーに(向かって)どんどん挑戦していきたい」この言葉に代表されるように、北川さんと北野さんの2人が熱量高く語る思いに、参加者は引き込まれていきました。

2人のアスリートが農業に関わるまで

石川さんは現在、FC東京の『クラブコミュニケーター』として地域とクラブをつなぐ役割を担っています。その活動の一環で、ホームタウンの市内にある畑で収穫から実食までを行なったことが、農業の世界へ足を踏み入れる大きなきっかけとなりました。

「その(畑の)コミュニティがとても良かったんです。収穫したものを食べて感じた美味しさや、そこから得た人との繋がり、喜びが非常に自分の中でも衝撃で、これを収穫して食べるだけじゃなくて、自分たちで作ったらもっと(大きな喜びに繋がるのではという)思いが生まれました」

そして、コロナ禍も大きな転換点でした。スポーツの興行が無くなった中、オンラインで様々なアスリートと自身の価値について議論をする機会があり、ディスカッションをする中で “ファンやサポーターの方に与えていた喜びを、スポーツとは違う形で届けたい”という一つの解が出た、と石川さんは言います。そして、その“喜びを伝える”手法が、農業でした。前述した体験に加え、交流会で繋がった方の縁で、長野県飯綱町の農場を確保できたことも大きかったようです。そして、自身で手掛けた野菜や枝豆をクラブのホームである味の素スタジアムで販売もしました。

今後は多くのアスリートを農場へ呼び、地域の人たちと共に農業に励んで交流の場を設け、互いの活動について知識を深める活動を増やしたいとのことです。

岩田さんは、「地方から発信して大きくなりたい」という思いで、センダイガールズプロレスリングに加入。活動を支援するスポンサーの中に農機具を販売している企業があり、かつ地元の人たちの協力もあって米作りをスタートすることになったと言います。「プロレスラーは食べるのも仕事で、お米はその中でも大事なのだから、自分たちで作ろう」という考えも、活動を始める大きなきっかけとなったそうです。

種を撒くところから稲を刈るところも含め、すべての工程をメンバーで行ない、プロレスの試合会場や通販・ECサイトでも販売し、好評を博しているとのことです。ちなみに、岩田さんは農業高校の卒業生でもあるので「高校で勉強したことが生きている」と語ります。

「自然を通して人間として大きくなれることを感じます。農家さんを尊敬できますね。高齢化社会が進んでいて、やっぱり農家さんが『体がキツい』と言っていたり、後継者がいないという悩みを持っていて。そういう方から『ありがとう』と言われるのですが、『私達もこういう経験をさせて本当にありがとうございます』という気持ちです」

この活動で生産・販売する“農姫米”はかなり好評で、このように事業化できるとは思わなかったとのことです。

「トップアスリートの声を聞けるのは貴重だった」

農業×観光に関する4者の話を聞いた後はワークショップへ。まずは、参加者同士がグループを作り、4人の話を聞いた上で“自分には何ができるのか”という点を発表します。その後、自身がこのテーマに嬉野を絡めて何をしたいかをまとめ、志向の近い人たちとグループを作り、模造紙にアクションプランをまとめ、それぞれが発表しました。

それぞれのグループから独自性やユーモアのある発表がされ、高い熱量を保ったまま第1回のセッションは終了。3時間を超える長丁場となりましたが、主体的に取り組むワークがほとんどだったため、参加者の方々も飽くことなく時間を過ごせたようでした。

「私も農業をやっていて、子どもたちにも農業体験をさせていました。共通点もあったし、ナオさん(石川直宏)にも会いたくて。サッカー選手として好きでしたし、農業もやっていたのは知っていたんです。僕は子どもがサッカーをしているのですが、嬉野と武雄でサッカーの大会をやって、そこで温泉にも入ってもらって農業体験もする、みたいなことができればなと思いました」(武雄市在住の男性)

「トップアスリートの声は普段聞けるものではなかったのでとても新鮮でしたし、その方と農業というのは想像がつかなかった。でも可能性があるんだな、おもしろいな、と思いました」(嬉野在住の女性)

参加者の声からも今回のセッションの有意義さを強く感じ取れます。そして何より、自分の住む街の未来をトップアスリートと壁を隔てることなくフラットに話し合えることが貴重な体験になったようです。

「みんなが嬉野のことを真剣に考えて、もっといいものができると考えていらっしゃるんだなと。この縁を大事にしたいですし、私は福岡県出身で現在は宮城県に住んでいますけど、嬉野のためにできることをしたいな、と思いました」

岩田さんはセッションの終了後にこう振り返りましたが、今回の出会いが嬉野の未来にとって非常に大きな種となったことは間違いありません。

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