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嬉野市が女子野球と進めるまちづくり。ロールモデルを発信し、女性が活躍できる社会へ

2020年12月に佐賀県嬉野市は、「女性が輝くまちづくり〜HAPPY TOGETHER PROJECT〜」をスタートさせ、女性の目線や意見を取り入れたまちづくりを推進しています。

この活動の背景には、市が抱えていた課題がありました。嬉野市では若い女性の市外への流出が年々高まり、それに伴い出産率も低下。全体的な人口減少が深刻な問題でした。

これを解決すべく、 “スポーツを通じた女性活躍のロールモデルを発信する”“女性目線の意見交換の場を作る” アクションを打ち出していったのが、2018年に35歳の若さで当選した村上大祐(むらかみ・だいすけ)市長です。

全日本女子野球連盟との提携を進め、全国に12ある「女子野球タウン」のうちの自治体の第一号として認定を受け、市民と選手が未来のまちづくりについて語り合うワークショップも開催。また、積極的な女子スポーツの合宿誘致をしています。

まちが抱える課題に、スポーツがどういった役割を果たすのか。そして、嬉野市の取り組みの狙いやその未来とは。

スポーツは感動を生み出し、一体感を醸成できる

ーまちづくりにおいてスポーツを軸にするという考えは、いつ頃から生まれたのでしょうか。

就任当初から考えていました。というのも、以前から嬉野市はスポーツがすごく盛んな地域だったんです。プロ野球のキャンプ地に選ばれたり、バレーボールやテニス、卓球など多くのジュニアチームが全国大会に出場したり。記者時代にそれらを取材した経験もありました。

市役所の職員がJリーグ・サガン鳥栖のウエアを着て仕事をしていたこともあります(笑)。「佐賀や鳥栖なら分かるけど、どうして嬉野がこんなに応援してくれるのか?」と驚くほど、街全体のスポーツ熱は高いものがありました。この地域特性を活かさない理由はないだろう、と。

ー村上市長は地元出身者ではなく、新聞記者から市長になったのですよね。珍しい経歴に思えます。

出身は広島県尾道市なのですが、新卒で佐賀新聞に入社し、初めて佐賀にやってきました。記者時代は、県内さまざまなエリアの取材をしたり、農林水産や大学、高等教育などの分野も担当しました。

そして35歳のとき、地元の皆さまの後押しもあり市長選に立候補し、一度目のチャレンジで就任することができました。いま一緒に仕事をしている市役所職員さんたちの中には、記者時代から知っている方も多くいます。

ーちなみに、ご自身とスポーツの関係は?

完全に「見るスポ派」ですね。スポーツ新聞を隅々まで見るのが好きで、競技と関係のないどうでもいい話題まで情報を集めていました(笑)。

私自身、アスリートの素晴らしいプレーで心を揺さぶられてきましたし、スポーツの持つ力を肌で感じてきたつもりです。

まちづくりを進めるにあたって、理屈だけではどうにもならない部分があるんです。最後は情念、情熱という強い力で押さないと動かないことも少なくありません。感動を生み出し、一体感を醸成できる「スポーツ」というキーワードを掲げることで、街全体を大きく動かすきっかけになればいいなと思っています。

野球=男子というイメージが子どもたちの可能性を奪う

日本に3つしかない女子野球タウンに認定されましたが、そもそもこういった活動も嬉野市の課題解決のために打った一手なのですよね。

女性人口、とくに若い女性の人口が減っていることが嬉野市の課題でした。2006年に合併した合併したときには人口が3万人で、今は2万5千人になっています。その中でも、若い女性の人口が減るということは、人口の再生産が行なわれないことを意味します。「女性は子どもを産むべきだ!」という話ではありません。現実問題として、若い女性が外に出れば人口減少は加速するのは当たり前です。

市としても、人口減少を食い止めるためになんとかしなければいけない。女性が地域で活躍できる環境を作る必要がある。

そう思っていたなかで、女子野球連盟との出会いがありました。もともと、私が市長に就任する前から、嬉野市の女子野球チームが全国大会に出場したり、オランダ代表が合宿を行なったりと縁があったんです。

その流れで連盟の方ともお話させていただき、「女子野球界も改革の機運が高まっている」ということを聞きました。選手も活発な方が多く、「この元気を街に取り込んでいきたい」と思わされました。

男性がプレーするイメージの強い野球という競技で活躍する女性を応援することによって、多くの女性が地域の中での自分の姿と重ね合わせて、「男性社会の中でも躊躇しなくて活動して良いんだ」と思ってもらえるのかな、と。また、応援の延長線上に自分の目指すべきロールモデル、理想の人物像が浮かび上がってくると思います。

市民の皆さんには、選手と自分の姿を重ね合わせながら、地域の中でためらうことなく存在感を発揮してほしいと考えています。

ーいまお話にあったように、競技によっては自然と特定の性別をイメージしてしまう部分はありますね。そこも変えていきたいという思いはありますか?

そういったイメージが子どもたちの可能性を奪っているのではないか、とずっと感じていました。野球のほかに、サッカーやラグビーも男性のスポーツというイメージがありますよね。

ただ、嬉野市初のオリンピアンが女子ラグビーから誕生したという前例もあります(※)。どんなスポーツでも思う存分プレーできる環境を整えることで、子どもたちの可能性を広げていけるはず。まずは、女子野球を応援するという旗を立てて、具体的にどんな動きができるかを考えていきたいと思っています。

※堤 ほの花選手:7人制ラグビー女子日本代表として、東京オリンピック2020に出場

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