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アクロバットで“非日常”を創り出す。舞台の世界で求められる、失敗しない範囲の限界での演技

舞台は演出や流れる音楽も含めた、様々な要素が絡み合って成り立っているが、やはり出演者一人ひとりの芝居や歌、体の動きが最大の魅力であることは間違いないだろう。

有松知美さんもアクロバットパフォーマーとして舞台の魅力を創り上げている一人。著名なアスリートも数多く参加したマッスルミュージカルや、最近話題を集めたゲームの世界をモチーフとした「ドラゴンクエスト ライブスペクタクルツアー」の舞台にも出演している。

元は体操選手で、国体やインカレでも輝かしい成績を残していた有松氏がアクロバットパフォーマーとして舞台に立つようになった経緯や、競技と舞台における演技の違いなど、“魅せる”側という視点での話を伺っていく。

有松さんの練習、パフォーマンス動画

物心つく前から続けた体操。体重管理の辛さを味わった学生時代。

-**まず、体操を始めたきっかけから教えて下さい。**

2歳違いの兄がいるのですが、兄が幼稚園に入る時に、私が家で1人になってしまうと暇なので、母親に近くの体操教室にポイッって入れられました (笑)

-**では始めた頃の記憶はあまりないのですね。**

全く覚えていないですね。ただレッスンがずっと嫌だったみたいで、泣きじゃくっていたっていうのはよく両親から聞いていました。

-**では何歳ごろから体操の思い出がありますか。**

小学校1年生の時に、一般クラスから選手コースに上がるんだよと言われたのは覚えているのですが、あとはあまり覚えていません。

-**体操を辞めたいと思った事はなかったのですか?**

1回だけ辞めたいと思った事があります。毎日、体重測定をするのですが、毎日同じ体重を維持するのは辛くて。私はすぐ体重が増えちゃうタイプだったので、それがどうしても維持出来ないという時は、辞めようかなと思いました。

-**それはいつぐらいの時ですか?**

大学2年生ぐらいの時ですかね。私は食べるのが大好きなので本当に過酷でした。高校の時は先生が動きを見て、重いと判断したらただ走らされていましたが、大学では明確な数値で管理されるので、辛かったです。減らす方法は人によって違っていましたが、私は走っていました。

-**体重管理は本当に大変なんですね。**

でも、最近思うのはあの頃は本当に周りを気にしないで、自分の指先などに集中している感覚を味わえていて、自分自身にそれだけ集中出来る事ってもう一生無いだろうなと思っています。体操に行ったら、どんな精神状態であっても安定するというか、嫌な事があっても悲しい事があっても、練習に入ったらスイッチが入っていたので、自分をコントロール出来ていた場所だったと思います。

有松知美

舞台では絶対に失敗しない範囲での限界を求める

-**競技としての体操から、パフォーマーとして舞台に立つようになった経緯を教えて下さい。**

大学4年生の11月まで全日本選手権に出場していて、就職活動をしていなかったので、進路についてどうしようかなと考えていた頃に、以前お会いした事があったマッスルミュージカルの先輩に「オーディションないですか?」って聞いたらあると言われたので、受けてみたら合格しました (笑)

私は本当にタイミングが良かったと思います。アクロバットをしている女性の方がごっそり抜けちゃっていて、ちょうど人を探していたらしいです。

-**でも体操と違い舞台は音楽や演出がある中で、自分のペースで出来ないと思いますが。**

体操との違いは感じるのですが、ただただ楽しくて。競技というのは、いかに自分のベストのコンディションに持って行って、それを試合で出すかという感覚なので、うまくいかないこともありますが、舞台に立つときはショーを提供するので絶対に失敗は許されません。自分を売り物にしてやっていかないといけないという状況になった時に、最大限まで力を出したいけど、絶対に無理だというところまで足は踏み入れないようにしています。この演技を公演のある間、安定して出来ますかと言われた時に、それが難しいと感じたら1歩引いて、ショーで出来る中で最大限の力を出していく。それで慣れていったら徐々に力を上げていく。ドキドキしてイチかバチかという演技は絶対にやらないということは先輩に教えて頂きました。

-**ショーを継続的に提供する上で、力をセーブする必要もあるという事ですね。**

競技では1番高いものやすごいものを組み合わせるのですが、先輩から舞台に出て行く時には側転1つが商品だよと言われたことにはびっくりしました。自分の中では側転は簡単な技ですし、アップみたいなものだと考えていましたが、そのような動きをお客さんに商品として見せているのだという意識を持ちました。そういった考えは舞台で教えてもらいました。

実は競技としての体操をもう少し続ける道もあったんです。国体の開催地が他の県から社会人選手を呼んで出場させることがあるのですが、そのオファーをもらっていました。でも、やらせてもらえると同時にお金をもらって“やらなきゃいけない”という立場になったら私は頑張れるのかと考えるようになって。自分が地元国体の時にも、そういう県外の選手が来ていて、失敗されている選手の姿を見ており、大人の世界の言葉を高校生ながらに聞いて、私には耐えられないなと思いました。だから私は頭の中で、競技と舞台は別々のものだと考えています。

-有松さんは舞台での**大きな失敗をした経験はありますか?**

あります!ただ変な話、細かい失敗はしたとしても毎日来てくれているお客さん以外は分からないですから(笑)。でも隠し切れない失敗を3年前ぐらいに1回してしまったんです。

舞台での演技中にお尻からボンって落ちてしまって。頭が真っ白になったのですが、お客さんは日常にはない非現実的なものを見に来ているので、現実に戻してはいけないと思って3秒後ぐらいには、「今のは何だったの?」といった感じで何事もなかったように戻したつもりだったのですが、絶対やってはいけない失敗でした (笑)

-**どういったアクションだったのでしょうか。**

それがもうすごいシチェーションで。20人ぐらいのキャストで出ている中で私ともう一人の男の人がメインでアクロバットの演技をしていました。舞台上の周りの仲間がはけていき、ちょうど私達2人だけになったタイミングで、やってしまって…男の人に持ち上げられて倒立をするのですが、手が抜けちゃって支えるものが無くなってスコンと落ちちゃって。もうテディベアみたいになってしまいました (笑)

-**失敗した後には仲間からフォローなどはあるのですか?**

その失敗した演技が最後だったならまた話は変わるのですが、舞台は続いていたのでどうにか終わりまでやりきりました。 そういう時は全ての演技が終わった後に「大丈夫?」みたいな感じで言われます。

有松知美

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