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スマートスタジアムは誰のため?忘れてはいけないアスリート視点[PR]

アスリートやスポーツマーケティング分野が抱える課題を、指導者・競技団体・研究者・スタートアップ企業などとの交流を通じて、テクノロジーを活用したソリューションの実現やスポーツ分野でのイノベーション創出を目指すプロジェクト、「Athlete Port-D」。

今回のトークセッションでは、昨年4月に引退を表明し、現在富士通陸上競技部でコーチを務める高平慎士氏、陸上100mハードルから競技転向し、現在7人制ラグビー選手の寺田明日香氏、パラ陸上走り幅跳び(T47)日本記録保持者の芦田創氏の3人が登場。「アスリートのためのスマートスタジアム(陸上競技編)」をテーマに、各競技の裏側に迫りながら議論した。

スマートスタジアムは、一般的にICT技術を駆使してファンの感動やエンゲージメントを高める設備を備えたスタジアムを指す。目の前で行われている試合のデータが配信されたり、無料Wi-Fiを導入したり、座席からフードやドリンクを注文してデリバリーを頼むなど、観戦者視点でのサービス導入が海外では進んでいるが、同時に本来スタジアムの“主役”である競技者視点でのメリット・デメリットを論じる必要がある。

→Athlete Port-DのHPはこちら

アスリートファーストのスマート化を

海外では浸透しつつあるスマートスタジアムだが、日本ではまだ例が少なく、無料Wi-Fiの導入など観戦者向けの施策にとどまっているところがほとんどだ。本イベントでは、“陸上競技”を対象として、競技者とテクノロジーの関係を考えていった。

大会だけでなく、トレーニングの場としても活用されるスタジアム。陸上のコーチング事情を尋ねられた高平氏は口頭一番に陸上界が直面する予算不足を課題に挙げたコーチングにかける人員も限られるのだが、陸上という競技の性質上、選手一人で精度の高い測定を行うことは非常に難しいと高平氏は話す。たとえば一人で速さを測定しようとすると、ストップウォッチを持って走ることになるが、それは不自然なフォームにつながることとなり、アスリートにとってはストレスがかかる。

リオパラリンピック男子4×100mリレー銅メダル保持者であり、男子走り幅跳びの日本記録保持者でもある芦田氏も同様の悩みを打ち明けた。距離の目安のマーカーを置くものの、目視での判断にズレは避けられないという。

「一人で練習をすると全部自分のさじ加減になりますよね。スタート地点もあいまいな距離で、40mからスタートしようと思っても39m80cmかもしれないし40m10cmかもしれない。スタートがずれれば、踏切がファールかどうかもわかりません。」

芦田創氏

芦田創氏

一方で、指導者のなかにはテクノロジーを敬遠する層もあることを、かつて陸上100mハードルの選手だった寺田氏は指摘した。ハードルまでの距離に足長を合わせて細かく記しをつけていたところ注意を受け、練習でタイムを計ることも禁止されていたと当時を振り返る。このエピソードに対し、高平氏はコーチング視点から「練習でタイムを計ると、データ採取のための練習になってしまうため、よりナチュラルな環境のなかで練習を行いたいというコーチの考えがあったのかもしれない。」と、その意図を推し量ったうえで、こうした考え方があるなかでテクノロジーと共存することの難しさを示唆した。

日本だけでなく海外も同様で、現役時代カール・ルイスを指導したコーチに高平氏が師事した際にも、フォームをビデオで撮る、ストップウォッチでタイムを計る、という基本的なこと以外にデジタル技術は用いられていなかったという。いまだ感覚的な部分に頼ることの多い競技ということがあらためて浮き彫りになったが、予算不足のなか、少ない人員で精度の高い測定を行うために、テクノロジーの入る余地はある。しかしそこにはアスリート自らがパフォーマンスに集中できる環境との両立が絶対条件となる。

テクノロジー vs 感覚の落としどころは?

議題はアスリートが考える理想のテクノロジーへと移る。高平氏はここでもコーチング視点でのテクノロジー活用を提案。一人のコーチに5~10人の選手がつくこともある陸上界では、大会などで選手が各地に散らばった際に限られた選手にしか帯同することができない。そうした課題を解決するために、競技場にカメラを設置することで遠隔のコーチングが可能になるのではないかという。

寺田氏によると、実際にこのような設備はスタンフォード大学に導入されているようで、コーチがカメラを遠隔で動かし、モニター越しに選手と会話ができるという。遠隔コーチングの技術がすでに実現されていたことに、「さぼれなくなっちゃいますね」と高平氏が会場を笑わせた。

高平慎士氏

高平慎士氏

ここで一度、会場に座るスポーツ関係者へとマイクが向けられた。Jリーグの北海道コンサドーレ札幌の関係者によると、同チームはけが予防のために心拍数やGPSを使って移動距離を測定している。実際に効果は出ているようで、同様のシステムが大学生、高校生の年代にも導入され始めているという。こうしたデータをサッカーの練習に取り入れる手法は、FCバルセロナが戦術的ピリオダイゼーションとして取り入れ、チーム強化に成功したことでも知られている。

一方野球関係者は、日本のNPBとメジャーリーグではテクノロジー活用に大きく差があると話した。日本では、データ活用は試合データや血液や尿の採取くらいにしか活用されておらず、その計測器ですら価格の高さから高校、大学レベルには普及していないという。

実際にテクノロジーを導入した結果、不便さにつながってしまったというケースもある。寺田氏は、かつてフォースプレート(圧力版)を使って測定した靴を作ったものの、履き心地がしっくりこなかったという。また、その靴を履いての測定では、ジャンプはできても速く走れるわけではなかったようで、本番で実力を発揮できるものでないと意味がないと語気を強めた。

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