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「認知向上」だけでは弱い。プロスポーツクラブが、スポンサーメリットを最大化する方法(文:みる兄さん)


第一線で活躍するマーケターでかつ、熱狂的なサッカーファンである「みる兄さん」の連載コラム。第3回のテーマは「プロスポーツクラブのスポンサーシップ」についてです。

新型コロナウイルスの影響で、スポーツクラブは入場料収入・スポンサー収入・物販収入・放映権料収入のうち、「入場料収入」が壊滅的な打撃を受けました。そのため例年以上に「スポンサー収入」に頼らざるを得ない状況です。とはいえ、コロナの影響を受けているのは企業も同じ。これまでのように、スポンサー収入の見返りが「企業の認知度拡大」という不明確な宣伝効果だけでは、投資の理由を説明するのが難しくなってきています。

そこでみる兄さんは、「クラブはビジネスパートナーとしての価値作り」が必要だといいます。ブランドマーケターであり、スポンサーサイドの企業で働く人であり、なおかつサッカーの熱狂的ファン。3つの視点を持つみる兄さんに、実例を交えながら、今回のテーマを考察してもらいました。

■クレジット
文=みる兄さん

■目次
コロナ禍でスポンサー収入の割合が5割超え
クラブとスポンサーの関わり方が変化している
クラブ側の「人材不足」という課題
スポンサー契約は終わりではなくむしろ始まり
終わりに

今回は『プロスポーツクラブのスポンサーシップ』をテーマとして考察していきます。

実はこのテーマは、昨年から書きたいと思っていました。Twitteでは、匿名「みる兄さん」(@milnii_san)のアカウントで「マーケティング/ブランディング」と「サッカー」を中心に呟いていますが、普段は企業でマーケティング戦略の立案や広告宣伝を担当しています。

コラムを書かせていただくくらいスポーツが好きなので、「自社でスポンサーになれないか?」と真剣に検討した経験があります。プロスポーツクラブのスポンサー向けの説明会に参加させていただき、法人営業の方とも何度か打ち合わせをしました。

結果としては、「〇〇な価値が期待できるので、スポンサーシップの予算を組んで取り組みましょう」と経営会議に提案するまでには至りませんでした。そんな忸怩たる経験もあり、『プロスポーツクラブのスポンサーシップ』への思い入れを強く持っています。

本コラムでは、プロスポーツクラブのスポンサー構造を考察し、スポンサーサイドの企業が関心を持てる事例をいくつかピックアップしています。また後半は、「プロスポーツクラブがスポンサー企業を増やしていくには?」とお節介な話をしています。クラブ内でスポンサーシップに関わる人、スポンサーサイドの企業の方、双方にとって良いきっかけになれば幸いです。

コロナ禍でスポンサー収入の割合が5割超え

前回のコラム(プロスポーツ界が「高単価×高付加価値」にチャレンジすべき理由。)でも触れましたが、プロスポーツクラブの営業収益は、「入場料収入」、「スポンサー収入」、「物販収入」、「放映権料収入」の4つにおおよそ分かれています。

Jクラブの平均的な割合で言うと、スポンサー収入は年間の営業収益(売上)の約45%を占めています。プロスポーツは大会やリーグにもスポンサーがついていますが、今回のコラムで登場する「スポンサー」とは、クラブ単体につくスポンサーの意味で使っています。

2016年~2020年までのJリーグの営業収益とスポンサー収入の推移(平均値)は以下の通りです。(単位は百万円)

J1クラブにおけるスポンサー収入の平均は約20億、J2クラブでは約8億となっています。2016年~2019年にかけてスポンサー収益は105%~110%で推移しています。2020年はコロナ禍の影響もあり、営業収益・スポンサー収入の金額が減少。また、入場制限によりスタジアムの入場料収益が極端に減ったため、スポンサー収入の割合が50%を越える結果となりました。

クラブとスポンサーの関わり方が変化している

次にプロスポーツクラブのスポンサー構造について見ていきましょう。

クラブによって微妙に呼称は異なりますが、「トップパートナー」はユニフォームの胸などに企業・ブランド名を掲出しているスポンサーを指します。「サポートカンパニー」はシーズンチケットの提供やクラブ公式サイト、協賛企業一覧への記載など、クラブごとにも、J1、J2、J3のカテゴリーごとによっても内容はさまざまです。

図:スポンサーシップのピラミッド構造(各クラブのスポンサーシップ一覧を参考に筆者作成)
※ネーミングは各クラブによりさまざまです

クラブによってそれぞれのカテゴリーのスポンサー料金に差はありますが、「トップパートナー」で年間数千万円~数億円、「オフィシャルパートナー」で1千万~数千万円、「クラブパートナー」で数百万円、「サポートカンパニー」が数十万~100万円が相場となっています。

また、企業のスポンサーシップに関しては、アビームコンサルティング株式会社の久保田圭一氏の著書「究極の“コト消費”であるスポーツビジネス成功のシナリオ」にその分類が書かれています。

出典:「究極の“コト消費”であるスポーツビジネス成功のシナリオ」久保田圭一

「パトロンモデル」とは、チームや地域に貢献することを主目的として、長期的・間接的な効果を得るモデル。一方、「ビジネスアライアンスモデル」とは、チームの強みを自社事業に活用することを主目的として、より短期的・直接的な効果を得るモデルです。

これまでは「パトロンモデル」によるスポンサーシップが主流でしたが、最近は「ビジネスアライアンスモデル」の形式が増えているとも言われており、“企業の認知度向上”だけでは投資の理由を説明することが難しくなっています。そのためクラブも“「ビジネスパートナー」としての価値作り”を強化しているようです。

いくつかのクラブの公式サイトでパートナー募集のページを見ると、ある変化が現れています。これまで通りの企業ロゴの露出だけでなく、企業が抱えている課題や目的に合わせてクラブが持つ資産を生かして、イベントやプロダクト/コンテンツ開発などの活動を行なう「アクティベーション」に力を入れているのです。

特に、スポンサーシップの項目を充実させていたのがセレッソ大阪でした。

C大阪の場合:クラブ・企業・ファンがwin-win-winに

C大阪では、「通常のパートナーシップ」と「カスタマイズドパートナーシップ」に区分けしてそれぞれの価値を説明しています。

(出典:セレッソ大阪公式サイト|スポンサー・パートナーについて|https://www.cerezo.jp/partner/|2022年2月7日)

また、HPには過去の「カスタマイズドスポンサーシップ」の事例が掲載されています。特に月極や個人の駐車場を一時利用できるサービスの『akippa』とのアクティベーションは成功事例の1つでしょう。

世間的な認知度を高めたいakippa、試合日にスタジアム周辺の駐車場を十分に提供できていなかったC大阪、駐車場が利用できないことで公共交通機関を活用して試合観戦に訪れていたファンやサポーターとそれぞれが問題を抱えていました。しかしakippaとC大阪のアクティベーションにより三者がwin-win-winの関係を作ることができました。また、akippaはC大阪との取り組みがきっかけで、他のスポーツクラブにも伝搬するなどビジネスチャンスが拡大した良い例かと思います。

水戸の場合:クラブとブランドの資産の掛け合わせ

また、J2では水戸ホーリーホックのスポンサーシップも興味深い事例が多いです。ファッションブランドを展開する『株式会社アダストリア』といくつかの企画を実施しています。

2021年の冠マッチでは、試合前に公式ムービーを作成して盛り上げ、当日は選手たちによるファッションショーのランウェイに見立てた演出を実施。ブランドとクラブの資産を掛け合わせることで、水戸ホーリーホックのサポーターはもちろん、他のサッカーファンの目に留まる形で取り組みが広がりました。

さらにアダストリアでは、スポンサーシップの取り組みについて自社メディアでもその経緯を記事化するなど、クラブを通じての発信だけでなく、自社としてもスポンサーシップを活用した発信を行なっています。

水戸は、代表取締役社長の小島耕氏がパートナー企業をていねいにSNSで紹介しているのも非常に良い取り組みですね。

他にもアクティベーションを活用したスポンサーシップ事例としては、横浜F・マリノスと『マネーフォワード』の全社を挙げた取り組み、川崎フロンターレと『Anker』のコラボグッズ、栃木SCの選手がスポンサー企業を訪問してSNSで投稿するなどがあります。このようにクラブの資産とスポンサー企業の資産を掛け合わせて、新たな企画を生み出すことが重要だと感じています。

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