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選手のSNS活用は「試合の振り返り」が鉄板! ブランドマーケター・みる兄さんが分析するJクラブの勝ち筋

UPDATE 2021/12/09

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マーケティング界隈でコアな人気を誇る『みる兄さん』の連載コラムがスタートします。

第1回のテーマは「JクラブのSNSマーケティング」についてです。

試合告知や地域活動の報告、移籍情報、スポンサー紹介など、さまざまな形で活用される公式SNSアカウント。Jリーグでは57クラブ全てがTwitterの公式アカウントを運用しています。

しかしSNSを用いて自分たちでコンテンツを生み出すには、予算もリソースも限界があります。Jクラブは、どうすればSNSを有効活用できるのでしょうか?マーケティングの観点から、みる兄さんに綴っていただきました。

■クレジット
文=みる兄さん

■目次
サポーターとの繋がりを作るためのSNS活用
SNSの利用者とサッカーの関係
JクラブとSNSの相性は良いのか?
相模原のSNS活用にみる事例
JクラブのSNS活用による勝ち筋

サポーターとの繋がりを作るためのSNS活用

いまではJ1、J2、J3どこのサッカークラブでも、公式SNSアカウントを開設しています。試合の告知、地域活動、選手の誕生日、移籍情報、スポンサー紹介などなど、役割はさまざま。さらにクラブとしてのSNS活用のスタンスには特長があります。

SNSを活用したマーケティングを5年ほど担当し、なおかつサッカーが大好きな私が、独自の視点でJクラブとSNSの関係をひも解きます。サッカーをより楽しく、また他のスポーツクラブやSNS活用を検討している『中の人』たちの参考になるように考察していきます。

今回は、特にJ2のクラブに焦点を当てて調べてみました。

なぜJ2か。

J1に定着しているクラブの公式SNSアカウントのフォロワー数は、軒並み10万を越えています。所属している選手も1万フォロワーをゆうに越えており、これはテレビ広告でみる誰しもが知っているマスブランドと同じくらいのSNSフォロワー数です。

企業やブランドのSNS活用はもともと持っている知名度を生かして、掛け算のように情報を届ける役割があります。

しかし『良いコンテンツ』と『企画』と『運用』を組み合わせることで、予算規模や知名度がない企業やブランドでも、SNSを活用してお客さまとより強い関係を作り、ライト層に足を運んでもらうきっかけにもなります。

SNSの利用者とサッカーの関係

現在のSNS利用者は下記の通りです。

出典:https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1910.html

利用率で言うとTwitterが46.3%、Instagramが41.3%、Facebookが34.1%と続きます。Facebookのみここ数年利用率が下がっています。

TwitterとInstagramの年齢別の利用状況は以下の通りです。


出典:https://mmdlabo.jp/investigation/detail_1910.html

それぞれ20代の利用率を見てみるとTwitterが63%、Instagramが56%とピークになっています。

一方、Jリーグのスタジアム観戦者の平均年齢は42.8歳(観戦者調査サマリーレポート2019)となっています。SNSの年代別利用状況と観戦者の平均年齢。2つのデータを照らし合わせると、平均年齢の高い既存のサポーター向けて、SNSはそこまで積極的に取り組む必要はないと思われるかもしれません。

しかし、マーケティング/ブランディングの名著『ブランディングの科学』の中でバイロン・シャープ氏が提唱していたように、”マーケットシェアの成長のためには顧客基盤を拡大することが何よりも重要”です。

既存の顧客のロイヤリティを高めることは大切ですが、新規客の開拓に向き合わないと、顧客(サポーター)は流失してしまい、クラブ経営はジリ貧になってしまいます。ライトユーザーを拡大していくことが、今後のJクラブが成長していく上では重要と感じています。

JクラブとSNSの相性は良いのか?

数あるSNSの中で、Jクラブが何を重視するかによって用いるSNSは変わってきます。

数年間、ブランド内で各種SNSを用いたマーケティングを担っていた私の経験から言うと、それぞれの特長は以下の通りです。

Instagram:画像と動画(リール)がメイン。拡散性は弱い
ファンの深化。ブランド創りに向いている。

Twitter:テキストがメイン。RT機能があるので拡散性が高い
ファンの拡大。マーケットでの認知を増やすことに向いている。

TikTok:動画メイン。拡散性は高い。
→マーケットの認知を増やすことに向いているが、アカウントのフォロワーは他のSNSに比べると付きづらい。

前述の「ブランディングの科学」で引用していたように、顧客基盤を拡張するためには、Twitterの活用が良いと感じています。一方、Instagramは既存サポーターをライトからコアへと深める役割がありす。

また、対象のブランド(クラブ、商品やサービスなど)がSNSを活用することに向いているか否かを判断する方法として「三枚おろしの理論」があります。

出典:https://www.hottolink.co.jp/service/method/three-theory/

※UGC(User Generated Content)一般ユーザーによって作れられたコンテンツのこと。

すでにUGCが発生している(当然指名検索もある)
UGCは発生していないが、指名検索はある
UGCも指名検索もない

サッカーは①のUGCが発生し、なおかつクラブ名の指名検索もある状況であり、SNS上でクチコミを発信するユーザー行動が起きやすいと言えます。

この場合は、今出ているUGCをさらに増やす取り組みが重要です。

SNS活用が上手くいっているブランドは、公式アカウントの運用として良いUGCをRTすることで、小さなコミュニティの中の口コミをコンテンツとして拡散することを行なっています。例えば、洋菓子店のシャトレーゼのアカウントなどが良い例です。

しかし、JクラブでのUGC活用は非常に難易度が高いようです。

Jクラブの公式アカウントを調査しましたが、残念ながらサポーターの投稿をRTしているアカウントは、ほぼ見当たりませんでした。

察するに、通常の企業(ブランド)に置ける顧客とは異なり、Jクラブのサポーターはお互いをなんとなく認識しているケースが多い。その関係性で誰かのSNS投稿をクラブ公式アカウントがRTすると、他のサポーターから「私はRTされない」とネガティブな感情が出てしまうからだと感じます。

(もしかすると、Jクラブ同士の申し合わせでサポーターの投稿を公式アカウントでRTすることは控えるようにお達しがでているのかと勘繰るくらい、公式アカウントによるUGCのRTはありません)

この状況では、JクラブのSNS活用はせっかくのUGC活用ができず、公式アカウントのコンテンツ運用しか打つ手がなくなってしまいます。それでは日々のコンテンツ作成に予算と人員が豊富なクラブしかSNSを有効に活用できなくなってしまいます。

しかし、J2クラブの公式アカウントをくまなくチェックする過程で、UGC活用ができない状況を突破する打ち手があることに気付きました。

PGC※の活用です。

※PGC(Professional Generated Content)プロにより制作されたコンテンツのこと。

相模原のSNS活用にみる事例

昨今、UGCだけでなくPGCの活用にも注目が集まっています。マーケティングでいうPGCは、外部のコンテンツクリエイターやモデルさんと契約し、PRの口コミをSNSで投稿をしてもらうことを指しますが、私がここで言うPGCとは、クラブに所属する選手のSNS発信を指します。

しかし、J2クラブに所属する選手のTwitterアカウントをチェックしていましたが、そこまで活発にSNSを活用している印象はありませんでした。

そんな中でも、選手のツイートと公式アカウントの運用を、前述で上げた成功事例(シャトレーゼなど)と同様に取り組んでいるクラブをいくつか見つけました。

それが、SC相模原の公式アカウントと選手たちです。

フォロワー数は24,600とJ2クラブの公式アカウントの中では多くはありません。しかし、公式アカウント単体の発信だけではなく、選手と連動して効果的にSNSを活用していました。

試合が開催された日のSC相模原の選手と公式アカウントを下記に記します。

選手が試合の振り返りツイートをする。
児玉選手のツイート(808いいね)
鎌田選手のツイート(415いいね)
梅井選手のツイート(416いいね)
川上選手のツイート(326いいね)
木村選手のツイート(333いいね)

そのツイートを公式アカウントがRTして拡散する。

フォロワー数の多い公式を起点に、選手のツイートがより多くの人の目に触れる。

このように公式アカウントと選手のPGCが相乗効果で組み合わさっています。

僕も公式アカウントの中の人をやっていましたのでわかりますが、日々の運用は大変なものです。試合に向けて練習の動画をあげたり、スポンサーさんへの訪問をレポートしたりと様々な情報を発信しています。しかし、公式アカウントの一つの基準となる”フォロワー数の1%以上のいいね”が付くツイートを生み出すのは困難です。

一方、先ほど上げたような選手のツイートは2,500フォロワーで400いいね(SC相模原の梅井選手の場合)を越える非常に高いエンゲージメントを出すケースも少なくありません。

クラブからすると「炎上が怖い」「選手を誹謗中傷から守りたい」との感情から、Instagramと比較するとTwitterでの選手の発信は推奨していないような気もします。

そんな中、SC相模原の選手たちは、日常的な発信や告知の投稿はそれほどせずに、「試合の振り返り」を主としたツイートをしています。そして、ある選手1人がツイートするのではなく、複数人で行なうからこそリスクも分散し、厚みのある発信ができます。

サッカーに関心はある」×「エリア近辺に在住」×「スタジアムで観戦した経験は少ない

こういったライトな見込み客に対して、既存サポーターのRTやいいねで拡散されたことがきっかけで、タイムラインで選手のエンゲージメントの高いツイートを見かける。「なんか盛り上がってるな」とその選手きっかけでクラブに興味を持つ。そんな流れを生み出すことができます。

Jリーグのクラブの中でも、マーケティング予算が大きくないJ2のクラブや他のスポーツクラブはこの型に取り組む価値があると思います。

また、SC相模原は公式アカウントでサポーターのUGCをRTしない代わりに、サポーター参加型のハッシュタグ企画「#SCSゲーフラコンテスト2021」を展開し、投稿してくれたツイートに丁寧にいいねするなど、工夫をしながらUGCを広げる取り組みを行なっていました。

今年は最終戦で無念の結果となりましたが、クラブと選手とサポーターの間のSNSを通じた良い関係作りのケースとして、今後も注目していきたいと思います。

JクラブのSNS活用による勝ち筋

今回、Jクラブの一つの勝ち筋として、SC相模原の公式アカウントと選手のSNS活用をピックアップしました。他クラブもさまざまなSNS企画でサポーターを盛り立てたり、スポンサーのブランド認知の向上に一役買ったりとクラブを成長させるために取り組んでいると思います。

先日、優勝が決まったジュビロ磐田の公式アカウントは、スポンサー企業のお祝いツイートをRTすることで、サポーターとスポンサー企業を繋ぐ役割を果たしています。

自分が応援している横浜FCは来年からJ2に降格してしまいますが、先日スポンサー企業のツイートにサポーターからSNSで大きな反響がありました。

サポーターとクラブとスポンサーの3者間でよい関係が築けることもSNSの魅力です。

公式サイトやリアルイベント、スタジアム周りの環境、スタジアムイベントなどさまざまな打ち手がある中、コアなサポーターからライトなサポーター、そしてまだスタジアムに足を運んだことがない見込み客までを考慮した施策を考えなければいけません。

SNSをうまく活用するには、『公式アカウントの運用』だけではなく、クラブがもっている一番の資源である選手がPGCとなり、チームワークで戦略を組んでいくやり方がサポーターを開拓し、成果を生んでいくのではないでしょうか。

最後にJリーグクラブのSNS活用の勝ち筋として、僕が大好きな攻殻機動隊の言葉を残しておきます。

「我々の間には、チームプレーなどという都合のよい言い訳は存在せん。あるとすればスタンドプレーから生じる、チームワークだけだ」(荒巻課長)

スタンドプレーで良いので、選手が自由に「試合の振り返り」をSNSで発信する。クラブ公式がチームワークとして選手の発信を拡散する。

このJクラブのSNS活用の勝ち筋が広がり、サポーターの顧客基盤が増えることを願っています。

■プロフィール
みる兄さん

事業会社でブランド戦略やSNSマーケティングを担当する傍ら、匿名で映画評やマーケティング関連の執筆を行なう。横浜育ちで生粋の横浜FCサポーター。

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