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「コンパクトアリーナにはポテンシャルがある」スポーツ界の新たなリーダー・葦原一正が語るハンドボールの黒字化がラグビーよりも簡単な理由

ハンドボールの特性を活かした“処方箋”

──お話をお伺いしていると、あらゆる面でフットサルと立ち位置が近いと感じます。ただ、2007年に開幕したFリーグは成功しているとはいえない現状があります。果たしてハンドボールはそこをどう解決していくつもりですか?

これをやったら成功するというような方法はないです。ハンドボールの課題や特性を生かした“処方箋”を作っている段階です。具体的な内容については今後議論をしていくつもりです。

──“処方箋”とは、今ある課題を解決するための共通のガイドラインのようなもの?

そうですね。来週から各チームと話しますが、こういうビジョンだとこういうモデル、こういう考え方だとこうというパターンのように整理しています。それをもとに各チームと話し、最後は理事会で議論して決める流れです。

──各チームのヒアリングをしていくなかで、いいモデルになりそうなチームはありましたか?

どのチームも頑張っていますが、1チーム挙げるとすれば例えば三重バイオレットアイリスですね。地域に根差しているという意味合いにおいて、三重です。女子のチームで地元のたくさんの方々に支えられて、いわゆるクラブ型のチームです。社長も30代で、元々ドイツで7年プレーしていたのでドイツのクラブ型モデルも理解しています。よく頑張っていると思います。男子チームだと琉球コラソン。あそこは立ち上げて14年で、入場者数は一番多いです。

日本に必要なのはスポーツアリーナ

──他のアリーナ競技とハンドボールが一緒に伸びるイメージはありますか?具体的な連携も考えていらっしゃいますか?

私はアリーナスポーツ全体で連携した方がいいと思っています。今起きている現象として、アリーナ計画はたくさんありますが、このままでは音楽アリーナに近いものが多くできてしまう可能性があります。公設でやると競技者重視で体育館を作ってしまう。逆に最近は民設が出始めましたが、そこは当然ながら収支が大事になります。よって、スポーツアリーナを作るべきなのに、稼ぎ頭となる音楽の影響力が大きくなり音楽アリーナになってしまいます。

──今は音楽アリーナが増えてきている。

このままいくと「この国はスポーツアリーナでなく、音楽アリーナを日本中に作りたかったのか?」となります。私も音楽は好きですけど、日本全国に音楽アリーナや競技用体育館ばかりできても仕方ない。スポーツ庁でもお話しさせていただきましたが、「アリーナを作りましょう」の言葉はいいですけどそれがなんのアリーナかが大事です。そこの話をもう一段階踏みこまないと危険な方向に行く可能性があると思っています。

──具体的に音楽アリーナとスポーツアリーナの違いは?

音楽アリーナはVIPルームいらないですよね?ボックスシートなどの企画シートも絶対にいらなくて、席を効率良く詰めてしまうことでお客さんがたくさん入るようになります。全体的な構造でも、音楽は基本的に全シート同じ金額で、檀上のステージが隅にある形が理想です。でもスポーツは真ん中にピッチやコートがあって、視点を真ん中に作る構造なので全然違います。

──音楽アリーナでは満足にスポーツを行えない?

音楽アリーナを作ってしまうとVIPの扱いが減ってしまいます。音楽アリーナの理想としては、常設の歌えるステージをベースに、そこでスポーツもできますよと。そうすることでお金を稼ぎやすくなります。諸室なども音楽とスポーツでは異なります。スポーツアリーナを作って音楽もできるのか、音楽を意識してスポーツもできるのかは極めて大きな差です。結局家を作るのと同じで、どんな家が作りたいかの根本的な一歩目が違うので、最終的に全然違うものができてしまう。

──もっとスポーツアリーナを作り必要がありますね。

そのスポーツアリーナを作るためにどうするかといえば、当たり前ですがスポーツの価値を高めるしかない。バスケットがどれだけ頑張っても年間でホームは30試合しかできな。ハンドボール、バレーボール、eスポーツ、プロレスなどなんでもいいですが、スポーツコンテンツの価値を上げていくことが大事です。バスケだけでなく、ハンドボールもメジャースポーツになればスポーツアリーナが日本全国に作られていくと思います。

──葦原さんが日本でスポーツアリーナだなと思うアリーナはありますか?

沖縄アリーナですね。NBA型のスポーツを意識したアリーナです。プロ野球の北海道日本ハムファイターズの新スタジアムも、野球に特化したスタジアムで素晴らしいです。一方で同じプロ野球でも座席がピッチャーやキャッチャーの方を向いていなくて、二塁後方に体が向いているような球場もあります。コンサートは良いですが、スポーツはすごく見辛い。みんな1粒で2度おいしいと前向きに言いがちですが、突き詰めると異物なので、すごく中途半端なものが最終的にはできてしまう。これから日本全国に、規模は様々でしょうが、沖縄の新アリーナや北海道の新スタジアムのようなスポーツのためのスタジアム/アリーナがどんどん出てくるといいな、と思っています。

■プロフィール
葦原一正(あしはら・かずまさ)

1977年生まれ。外資系戦略コンサルティング会社、オリックス・バファローズを経て、2012年より新規参入したプロ野球の横浜DeNAベイスターズに立ち上げメンバーとして入社。2015年、公益社団法人ジャパン・プロフェッショナル・バスケットボールリーグに初代事務局長として入社し、男子プロバスケの新リーグ「B.LEAGUE」を立ち上げ。2020年、株式会社ZERO-ONE設立。2021年から日本ハンドボールリーグ(JHL)の代表理事就任。

Twitter:@kazu_ashihara

■クレジット
写真:JHL提供
取材・構成:Smart Sports News 編集部

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