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“天国の母へ” J・デイ「母の日」の最高の贈りもの【舩越園子コラム】

家族に囲まれるジェイソン・デイ この笑顔を母も待ちわびていたことだろう(撮影:GettyImages)

今週、PGAツアーではAT&Tバイロン・ネルソンがテキサス州ダラス郊外のTPCクレイグランチで開催された。

最終日の優勝争いは、メジャー・チャンピオンもルーキーも長年の苦労人も入り混じっての大混戦となったが、9バーディ・ノーボギーの見事なゴルフで逆転勝利を挙げたのは、オーストラリア出身の35歳、2015年全米プロ覇者のジェイソン・デイだった。

首位から2打差の4位タイで最終日を迎えたデイは、出だしからアイアンが冴え、3番でバーディを先行させると、4番、5番、9番でもバーディを重ねていった。

折り返し後も好調なゴルフを維持し、10番ではバンカーからピンに付け、12番ではチップインバーディで単独首位へ浮上。さらには14番,15番でもスコアを伸ばし、72ホール目もバーディで締めくくり、トータル23アンダー、単独首位で先にホールアウト。

そして、後続の最終組で回っていた今季ルーキー、オースティン・エックロートの18番のイーグル・トライがカップに沈まなかった瞬間、デイの逆転優勝が決まった。

偶然か、必然か、この大会は、デイが2010年にPGAツアーで初優勝を挙げた思い出のトーナメントだ。その後、2014年に世界選手権シリーズの1つだったアクセンチュア・マッチプレー選手権で2勝目を挙げたデイは、翌2015年には全米プロを含むシーズン5勝を挙げ、その年の9月には世界ランキング1位へ上り詰めた。

2016年以降も、さらに5勝を挙げ、トッププレーヤーとして活躍。しかし、2018年のウェルズ・ファーゴ選手権を最後に優勝から遠ざかり、この5年間は未勝利だった。

勝ち続けていたデイのゴルフが、突然、勝てないゴルフに一変した背景には、最愛の母デニングの闘病生活があった。

オーストラリアの病院で肺がんと診断された母親を、デイは自身が暮らす米オハイオ州へ呼び寄せた。デニングはそこで手術を受け、一旦は元気になってオーストラリアへ戻り、職場にも復帰した。

だが、その後も彼女の癌との闘いは続き、デイはデニングを再び米国へ呼び戻して、ともに暮らし始めた。

ちょうどそのころ、以前から故障していたデイの腰は、さらに悪化。病と闘う母を気遣いつつ、自身の腰の痛みと成績不振に苦しんだデイは「本当に大変な日々だった」と当時を振り返った。

昨年3月、母デニングが5年間の闘病生活を終え、天国へ旅立った。悲しみに暮れたデイは「毎日を乗り越えるだけでも大変だった。試合に臨むこと、試合で戦うことは難しいと感じられるほどだった」。

そんなデイを支えたのは、愛妻エリーと長男ダッシュを筆頭とする4人の子どもたちだった。家族の屈託のない笑顔に癒され、励まされたデイは「毎日、ノンストップでゴルフの向上に努めてきた」。

折りしも、今大会の最終日は「母の日」。心と体の健康をすっかり取り戻したデイは、見事なゴルフで大混戦から抜け出し、5年ぶりに勝利を挙げて通算13勝目を飾った。

「こんな日が来てくれたことが信じられない想いだ。この優勝は、去年、母が亡くなって以来、初めて挙げた勝利だ」

愛妻エリーと4人の子どもたちに囲まれながらの優勝インタビューでマイクを向けられたデイは、ついに感極まり、思わず涙声になった。その涙の意味がまだわからない幼い娘は、不思議そうに首を傾げながら父親の涙を凝視していたが、5人目の子どもを身ごもっている愛妻エリーは、娘の頭を優しく撫でながら、苦しみを乗り越えて復活優勝を遂げた夫に優しい視線を送っていた。

この優勝は、最愛の母を失った後のデイが、妻や子どもたちとともに勝ち取った「家族の勝利」だ。

天国のデニングも、息子がようやく立ち直り、勝てるゴルフを取り戻した姿を空の上から眺め、喜んでいることだろう。

「母の日」の最高の贈り物になった。

文/舩越園子(ゴルフジャーナリスト)

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